一生懸命がんばらないとね
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.66
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
チームを結成してから4年目。バスケは根気よく続けていて、右手の指の骨折、右足首の骨折という二回の大けがを乗り越えて、まじめに練習に出ています。なんとかやめないでいます。
ゴールデンウィークに、僕らのバスケットチーム「ROCKS」は、とある大会に出場しました。3年前から毎年出ている大会で、そんなにレベルは高くないのだけれど、過去二年は全勝で二連覇している大会でした。
今年は映像の記録を取ろうとビデオカメラを2台持ち込んで、試合の風景や、その合間のメンバーのショットなどを撮影してみました。
監督とそのビデオを編集しているときに、何度も繰り返し見るその映像素材の中に、ものすごく格好悪いメンバーが一人いる事に気づきました。中途半端なロン毛で、少し太り気味の、猫背の男です。靴だけはいい靴を履いている。その立ち姿もさることながら、何が格好悪いかって、そいつは試合中にダラダラしているのです。バスケを一生懸命やっていない。
じっと見ていたら、その姿に腹が立ってきて、まさかと思いながら思わず聞きました。「これ誰?かっこわるい」「お前だよ」「え~~~~~~~!俺ってこんななの?いつも?」「そうだよ、大体こんな感じ」
もう、恥ずかしくて、バスケやめようかと思いました。
バスケットボールは、ディフェンスしてボールを奪うと、オフェンスに転じて一生懸命走って行くものです。そこをビデオの中の僕は、ただダラダラ歩いている。味方のみんなが一生懸命走っているのにダラダラ。攻撃をさぼっているのです。
僕のポジションは、パワー・フォワード。本来、リバウンドを穫って、味方のボールを運ぶ役割のポイントガードにボールを渡すと、一番後ろから一生懸命走って、みんなを追い抜いてゴール下まで行き、チャンスがあると、また、ボールをもらって、ゴール下でゴリゴリ押し合いして、シュートをする。 『スラムダンク』でいう桜木花道のポジション。それがなんたる体たらくか。
なんとなく言い訳をすると、 今年44歳で20代や30代の奴ら相手に、そんなにゴリゴリやってる体力なんかねえよ。期待すんじゃねえ。体だって固いし、重いし。ついでにいうと、去年足首を骨折して、その箇所がまだ痛い。ちゃんと足首が曲がらないんだもん。まだチョッと腫れてるし。 とどこかで思っている。また壊れちゃうから無理な事はやらないでおこう。と。
自分では、今できる精一杯の事をやってるつもりではいました。その反面、上に書いた様な言い訳をしながら、まあ、どうせ年取ってるし。と思ってたのも事実。若い奴らにまかせたぜ。まあ、そのうちまた慣れるだろうから、そしたら本気出してやる。なめんじゃねえぞ。
でも、ビデオは嘘はつかないもので、ありのままの姿が映っています。 自分の映像は我慢できないくらいひどい姿だった。 いつから世間様にこんな格好悪いザマをお見せしていたのか。 ちゃんとがんばれよお前。
どれだけの人間が「俺はまだ本気出していない」という言い訳をしながらいきているのだろうか?と。 できれば何もしないで得したいという感じ。 その空気が今の日本の空気感じゃないかと思うのです。薄ら寒い。 「やればできる子だもん」って馬鹿がゴマンと居る社会なんじゃなかろうか? 親がやる気を引き出すためについた「嘘」の妄想ににしがみついていないか? ちょっとやってできなかったら、すぐ諦めて、「向いてない。」とか、「俺のやりたい事じゃなかった。熱いのはうざい。」とか。 他人の事はこの際どうでもいいんですが、そういう奴らを馬鹿にしながら生きてなかったか?俺。
尊敬する人のコラムに、AKB48は一生懸命がんばるところを、まだ本気をだしていない奴らに見せつける事に意味がある。みたいな事がかいてありましたがまさにそうだと思うのです。
バスケの試合のビデオを客観的に見てみたら、ダラダラしている奴がいた。それはとっても格好の悪い感じで目立つ。僕がただの観客だったら、ブーイングするんでしょう。「やる気がねえなら帰れあほ」「本気出せ!」と。
それが自分だった。
過去、全勝で二連覇していたその大会も、負ける様な相手じゃないチームに、予選で、まさかの逆転負けして、ついでにもう一つ負けて、決勝トーナメントにも進めずじまい。最年長の僕がこんなザマだから若い奴らに悪い影響を与えちゃったのは少なからずある。 ビデオ見てはじめてわかっても仕方ないのですが。 適当にこなそうとしていたのは認めざるを得ないので、みんなに謝って、これからはちゃんとやろうと思うのです。一生懸命やらないならやめた方がいいから。この世の中にある自分がやるべき事はみんなそうなんですよ。
僕は、根性論者のふりした合理主義者なので、一生懸命がんばれば、何もかも報われると思っているわけではありません。むしろ逆で、一生懸命がんばったつもりでも報われない事の方が人生には多い。無情な事だらけです。 だけど、試合に出る機会を与えられたら、その試合の中では、それが報われようが報われまいが一生懸命がんばらないとかっこわるい。
もう一つ言うと、一生懸命がんばるのと、何でもいいからがむしゃらにやるのは大きく違うのが前提です。ペース配分も勝負所も考えないで突っ込んで行くのは馬鹿がやることですね。最初はそれでもいいけど。集中して勝負所で最大限の力を発揮できるように、そして最終的には勝つイメージのために準備をする。相手を追い込む。そこを一生懸命やるべきだ。
無策なのに、一生懸命やっても報われないかもしれないとダラダラすることがやっぱり一番格好悪いのです。ビデオに写る僕はそれだった。
それより問題は、仕事もそんな気持ちになってるんじゃないのか?という恐怖。お前は、「やればできる子」もしくは「昔はできた子」に成り下がってないのか?文句ばっかり言って、いい訳ばっかりしてないか?
一生懸命やる事が格好いいんじゃなくて、せっかくやれる事を、自分でやりたいと思って始めた事を、一生懸命やらない事が格好悪いのです。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV