早くきて待っている人に縁を感じるのです。

Vol.008
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

最近、ロケの集合時間について若い制作部と一悶着ありました。

会社の裏にロケバスが来て、スタッフや制作部、お客さんを乗せて

ロケ地に行く。朝6時集合出発。という予定。

 

6時数分まえ、その制作の子一人以外みんな揃っていた。

最後にその制作の子が6時ぴったりに現れた。

昔だったら、

「何をゆったり現れとんじゃボケ!みんなより早く来て待っとかんかい!」

と一喝しているところですが、最近はそういうわけにもいきません。

頭に来たからと闇雲に怒ったら社会から怒られます。

自分の会社の直接の僕の部下でもありませんでしたし。よその子。

 

だから優しく聞きました。「なんで時間ぴったりに来た?」

そしたら意外な答えが返ってきました。「ダメですか?」

ちょこっとダメだろう。ダメよ。

「6時集合なら僕は6時にきます。なんで僕だけ早く来なきゃいけないんですか?」

 

なんか最近この調子なんですよね。

自分のことしか考えてない。

 

そりゃあ君、6時集合出発って決めたなら6時に来ればいいという意味ではなく

6時に出発したいという意味だろ?現に君が6時ぴったりに測ったように現れたせいで

出発は6時過ぎてるよな。これは事実上の遅刻じゃないのかな?

 

君を含めた俺たちの立場はホスト側だから、6時出発のバス旅行です。というような添乗員のような立場だろ?みんなが時間ぴったりに来るわけじゃないんだから、遅れる人から連絡が入っていたり、その対処を考えたり。時間より早く来る人もいるよな?1時間早く来る人に対処しろとは言わないけど、少し早くきてる人にバスのドアを開けて座って待ってられるようにしてあげてもいいんじゃないか?用意してあるならコーヒー出したりさ。

トイレに行きたい人もいるかもしれないから、会社の鍵を開けてトイレに行ってもらう。とか。6時にバスを出発させるとして、乗る予定の人は全員揃ってるか?とか積み込むものは
全部積み込んだか?とかチエックしなきゃいけないし、心配にはならないか?
「はあ・・・まあ・・、わかりますけど、僕は時間に遅れたわけじゃないんで。」

僕は時間にうるさい。時間にというより時間の使い方、その判断にうるさい。

僕の仕事は時間が直接お金に換算される仕事でもある。

 

以前コラムにも書いたけど、所属していた運動部はずっと時間にうるさかった。

遠征に行く時の高速道路の休憩所で、5分!と言われてトイレに行って、

トイレが混んでいて7分かかって出てきたらもうバスはいなかった。

時間を中心にした判断のトレーニングも入っていたのだ。

バスケは秒で判断を変えるスポーツ。ギリギリ間に合わなかった、は負けになる競技。

トイレが混んでいて5分で戻って来れないと見たら、トイレを我慢してバスに戻る。

が正解だったのだ。つまり、自分でドリブルで攻め込んでもディフェンスに止められて

それでも無理して突っ込むよりかは、フリーの味方に戻す、みたいな判断ですね。

言い訳の効かない厳しい部だった。

 

この仕事についてからも、ある企業のCMに携わっていて、企業に撮影の方法を

説明しに行くという会議があった。開始時間よりも前に到着するように自分の会社を

出発したんだけど、地下鉄がリフレッシュ運行とかなんとか言って急に来なくなった。

慌ててタクシーに乗り換えて、到着した時はすでに遅刻だった。

それが後を引き、その仕事は一回きりで、次の話は来なかった。何千万円も損したことになる。

普通に遅刻しないで継続できていたことを考えると億単位の金を損したことにもなるだろう。

 

個人的な感覚だけど、いろんな経験上、自分が時間に遅れるということが恐怖である。

かろうじて集合時間に遅れなくても、ギリギリの感じで向かっている途中に間に合うか

間に合わないかヤキモキするのがとても嫌いです。人混みを走ったり階段を駆け上ったり。

精神的に良くない。

 

だから撮影のような重要なイベントの時は大体、集合時間より1時間くらい早く集合場所に

ついていることが多いです。そして近所をぷらぷらしたりコーヒーを飲んでたりして、

集合時間の15分程前に、さも今来ました的な態度で現れることにしています。

もし撮影前に問題が起きても連絡をもらってすぐ駆けつけられることもあります。

 

そうやって、自分の中の心配は回避できるのですが、一緒に行動するような人が

なかなか現れないとヤキモキします。もしかして来ないんじゃないか?

と思うとそれが恐怖だからです。そういう人とはなるべく付き合いたくない。

 

オーディションや会社の面接などで、早めに来て待ってる方がいます。

そういう人には、わざわざいらしていただいてありがとうございます。少し待ってて

くださいね。という気持ちになるし、オーディションを見る時も真剣に見たくなる。

逆に、遅れてくる人は、どんな理由があっても、よっぽどのことがない限り、

真剣に見る気にはならないし、採用という判断はしないことにしています。

本番日も遅れてくるかもしれないという疑念が湧くからです。

 

早く来て待っている人にチャンスがないと、いい世の中にはならないと思います。

早く来て待っている人に縁を感じるものです。

 

僕がプロダクションマネージャーの頃、先輩で巨匠の演出家が言いました。

「PMはな、常に仮払いの現金の袋を握って、決まった時間のちょっと前から

 現場に立ってたら、お前の仕事の6割はもう終わってるんだよ」

 

なるほど、そうかもしれない。こいつはいつも決まった時間のちょっと前に現場にいる。

その信頼はものすごいレベルで大事だなあと思ったのです。

 

色々あって、最近は、6時集合と言って、部下や他の人にちょっと前に来い。と命令することは

できなくなった。本人のホスピタリティに任せるしかできない。

制作部だけ5時45分集合ね!とか言って早めに呼べばいいだけかもしれない。

 

本当は、6時と言ったら6時にきて何が悪い。という若者の叫びも理屈ではわからなくないのだ。

正しいと言えば正しい。前の日に準備が完璧で6時ちょうどに出発できる段取りならば、

6時ちょうどに来てもいいさ。遅れなければいいよ。

僕が神経質な心配でやっているような、集合時間より早くくるということを

他人に強制することはできない。

大事に思う事と想像力と恐怖心の問題は人はそれぞれ違う。

 

ただ僕は、早く来て待っている方がチャンスは多いんじゃないかと思うだけなのです。

 

僕は、自分で設定した集合時間の6時きっかりに来て、何が悪い?と思う人とは

仕事をしたくない。

その時は怒鳴らないかもしれないけど、次にその子に声をかけることは無い。

多分これから先もずっとない。

 

それは自分にも常に起こりうることだと思っておかないとチャンスは減る一方なのです。

問題はハラスメントを怖がって、ちょっと上の先輩ですら、こういう気分を

後輩に教えるのが億劫になっていることです。

若者のみんながみんなそんな感じじゃないけれど

縁とは愛情を感じられるかどうか、なので、せっかくの縁を大切にして欲しいです。

 

内心イラっとしてもハラスメントがなんとかとかうるせえからなあと後輩を放っておく

習慣は後輩の育成に随分ブレーキをかけていると思います。

結局どこかで痛い目に遭うんだから責任の薄い時に気づいたほうがいいよ。と

 

昔、仕事をなくす羽目になった経験から、そう思いますけどね。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
自分の関わった仕事の案件で、矢面に立つのは当たり前と、体と気持ちを突っ張って仕事をしていたら、ついたあだ名は「番長」。 52歳で初めて子どもを授かったのでいまや「子連れ番長」。子連れは、今までとは質の違う、考えた事も無かった様な出来事が連発するような日々になったけれど、守りに入らず、世の中の不条理に対する怒りを忘れず、諦めず、悪者だけど卑怯者にはならない様に生きていたいと思っております。

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