永遠の地へ! @The Curve – Barbican Centre

Prologue, 2024 Citra Sasmita
寺院を彷彿させる真っ赤に塗られた壁。湾曲する壁はどこまでも続くよう。浮かび上がっているのは獣の皮?今回はここ、バービカンセンターにあるギャラリーの一つ、The Curve(第79回紹介)より、インドネシア人の美術家 Citra Sasmitaの個展「Into Eternal Land」の紹介です。

Prologue, 2024 Citra Sasmita
多民族国家と知られるインドネシアですが、サドルにかけられていたのはヒンドゥー教徒の多いバリ島で聖獣とされる牛の皮。そして赤系と青系のビーズが動脈と静脈のように縫い込まれています。

Prologue, 2024 Citra Sasmita
その端に吊るされていたのは、インドネシアの旧貨幣。「NEDERLANDSCH INDIE」と彫られていることから、オランダ植民地時代のものであることが窺えます。 時折現れては消えていく、アンビエントサウンドスケープは、インドネシアの作曲家Agha Praditya Yogaswaraとのコラボレーションによるもの。

Act One, 2024 Citra Sasmita
次に現れたのは4部作の各々が8メートルもある壮大な絵巻物語。一部分を紹介しましょう。

Act One, 2024 Citra Sasmita
火の中から生まれた女たちは樹木と成り、

Act One, 2024 Citra Sasmita
根と成り、実と成り、泉と成り、

Act One, 2024 Citra Sasmita
戦士と成り、

Act One, 2024 Citra Sasmita
再び、火から蘇生する。
この蒔絵作品の元になったのはヒンドゥー教の叙事詩や神話を描いたカマサン絵画。バリ島のカマサン村を中心に発展し、その歴史は14世紀まで遡ります。歴史的には男性の絵師のみによって制作されてきたため、絵の中で女性は単なる性的、生殖の対象物または邪悪なものとして描かれてきました。また、長いヨーロッパによる植民地支配の影響も否めません。サスミタはこのカマサン絵画を、伝統的な技法を用いて、侵され蔑まされてきた女性、そして自然界の変容と再生の物語に塗り替えています。

Act Two, 2024 Citra Sasmita
長く編まれた髪は集う蛇のよう。中央には蛇から生まれ変わる女性たちの姿が描かれています。

Act Two, 2024 Citra Sasmita
その上には鬼の面。

Act Two, 2024 Citra Sasmita
裏側をみると絵物語は実際にニシキヘビの皮に描かれているのが明らかになります。

Act Three, 2024 Citra Sasmita
こちらは植物と女性が一体化していく刺繍の織物のシリーズ。サスミタが原画を製作し、バリ島西部の女性職人との共同制作で作られたもので、インドネシアの女性薬草師の歴史に敬意を表しているといいます。インドネシアでは伝統的に女性によって薬草の調合・処方が行われてきました。インドの伝統医学から多大な影響を受けつつも、インドでは見られない多くの固有の植物が育つ膨大な群島で成り立つインドネシア。その調合・処方は、地域によって様々に異なり、文書として残されないこともしばしばで、世代間の口伝で継承されてきたそう。

Epilogue, 2024 Citra Sasmita
最後に現れたのは天と地をつなぐハシゴでしょうか。 スンバ島の祭事に使われるリボン飾りが用いられています。周りにはクッションが並べられ、瞑想を促す空間が設けられていました。クッションに座り、中央の黄金色のターメリック(ウコン)で描かれた円の上に指でなぞられた言葉を追って、そして目を閉じます。
「(前略)言葉は泉と成り、知恵は流れと成る
始まりの本質は必然
日々が時代に合わせて変化する
そこに住む者たちが巧みに演じる舞台の中で
命を与えるか奪うか
選択肢は多くない」
