虹をわたって
- ミニ・シネマ・パラダイスVol.29
- ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂
秋も深まった夕方。竹橋駅で降りると、皇居がすぐ近くに。 お堀の先の木々はすっかり紅葉していて、 散歩するにはちょうど良い季節だなーと思いつつ、 神保町シアターへの地図を見ながら歩いていると、 近代的でインパクトのある建物が現れました。 裏道から歩いてきたようで、表に回ってみると、 今時っぽい書体で「神保町シアター・神保町花月」とありました。
中にはいってみると <← 神保町シアター><神保町花月 →> となっていて、建物は左右で映画館とお笑い劇場に分かれているのがすぐに分ります。 花月のほうも気になるところですが、今回はお目当てがありましたので、受付でチケットを買い、開場10分前まで受付近くの待合椅子で待つことに。 左から、おじさん、おじさん、おじさん、お兄さん・・・といった具合。 そう、今は『昭和歌謡史を映画で辿る、映画は歌うよ どこまでも♪』の期間でして、全22作品を上映中です。 その中でも個人的にジュリー(沢田研二)が好きなので、ジュリーが出ている「虹をわたって」をお目当てにやってきました。 もうちょっと女性客が多いかなーと思っていましたが、主演がアイドルの天地真理だったので、男性が多いようでした。
スクリーンは地下にあり、新しいだけあって椅子も設備もとっても充実しています。 こだわりを感じたのは、上映がはじまるまでの間、 映画内で流れる天地真理の「虹をわたって」や、ジュリーの「君をのせて」、 そしてジュリーが在籍したバンドのザ・タイガースの「花の首飾り」なんかを流していて、 気分はすっかり昭和です。
天地真理扮する、お金持ちのお嬢さん・マリは、とあることで家出をします。 お金のないマリは安い船宿にたどり着きますが、 そこは定職を持たない、社会の底辺にいる人間が集まる場所。 が、そこに住む人々はろくでなしばっかりですが、どこか憎めず、個性豊かな面々。 マリの穢れのない清らかな性格に、みんなすっかりマリのファンになり、一緒に暮らしていくことに。 そこにジュリー扮する謎の青年が現れて・・・。 ひと時の楽しい時間が流れていきます。 ドタバタコメディに、歌、親子のちょっぴり泣けるシーンも入っていて、 とにかく安心してニコニコ見れる映画です。
天地真理の歌がいくつかのシーンで聞けます。 挿入歌的に歌われるシーンから、 船で弾き語りをするシーン、 ちょっとした寸劇の中でミュージカル調に歌われるシーンなど、 天地真理好きは満足できるのではないでしょうか。 ジュリーもしっかり、夜の船上で、「君をのせて」を歌います。
当時の歌謡界の人気を知るとともに、 けっして誰もひねくれていない、まっすぐなストーリーに、 昭和という時代の持つ、前向きで明るいエネルギーを感じ取れます。 そうそう、映画ってこんなに明るくて楽しいものだったんだなー、と。 最近、じめじめしたり、奇をてらったものばかりが増えつつある映画が多いのは、今がやっぱり不景気で、後ろ向きな時代なのかもしれないな、とも思いました。
映画館を出るとすっかり夜の神保町。 浮かれた気持ちで、一杯ひっかけたい気持ちになります(笑)。 昭和の匂いを残した場所で、前向きなエネルギーを感じてみてはいかがでしょうか。
(※上映予定はこちらでご確認ください:編集部注)
昭和歌謡史を映画で辿る 映画は歌うよ どこまでも♪
『虹をわたって』 製作年度:1972年 上映時間:88分 製作国:日本 配給:松竹 監督:前田陽一 キャスト: 天地真理、有島一郎、なべおさみ、岸部四郎、沢田研二
Profile of 市川 桂
美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。