「思いは尽きないが思い付かない日」

第115話
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
Akira Kadota
門田 陽

「毎日しろしかね」「ほんとに全くしろしかね」という日常会話が交わされるのは例年は梅雨時期でしたが、花粉の飛来が極端に早い今年はすでに今月(3月)から“しろしい季節”と言っても過言ではなさそうです。と、書き始めましたがお住まいや出身が福岡・山口地方以外の人には意味不明な内容かもしれません。いや、間違いなく意味不明でしょう。

僕はもうずいぶん長く東京に居着きましたが、東京デビューは遅くて初めて住んだのは20代の後半。そのとき、ふだんの暮らしで困惑したことが3つありました。

一つ目は焼鳥屋さんに好物の豚バラがないこと。二つ目は居酒屋で「芋ロック」を注文すると、その量が極端に少ないこと。全くもって野暮でケチな話です。月日は人を変え、今では豚バラが食べたいときはお店を検索しますし、芋ロックは2杯ずつ頼むので問題ありません。

しかし三つ目に関しては、あれから30年以上経った今でも解決していません。それは「しろしい」「しろしか」が通じないこと。もちろん方言なのは理解しています。ただ、「~ばってん」や「~たい」や「~とぉ」などの語尾やイントネーションなどとは違って「しろしい」のニュアンスを伝えることは難問です。あえて近いコトバだと「鬱陶しい」ですが、しろしいは鬱陶しいではなく、しろしいのです!何と言うか「鬱陶しいけどそれもまた仕方ないよね」みたいな気分が「しろしい」なのです。

と、ここまで書いてふと、あれあれ?なんかこんな話、以前に書いたような気がするぞ、と思ったのです。それでいま慌てて過去の当コラムを一気に読み返したのですが見当たりません。思い違いかな?う~~む、と悩みダメ元で「門田陽 しろしい」でエゴサーチ。あっ!!発見しました。僕の所属する東京コピーライターズクラブの2023年5月19日のリレーコラムに書いていました。タイトルは「しろしい季節の中で」

内容はまるで違うけれどタイトルもほぼ一緒(元々今回のタイトルは「しろしい季節の前に」でした)だし、このまま続けるのも癪なので急遽内容を変更。と、言っても何を書くかはノープランです。〆切まで残り約48時間。こんなときは過去の経験に基づいた「スランプ脱出アイデア発見法」を次々とやってみます。

①石鹼で手を洗う
→これはコピーライターの大先輩の故土屋耕一さんから聞いた方法ですが、効果は人によるみたいです笑。

②いいシャンプーで髪を洗う
→通常使用しているものより3倍以上の価格のシャンプーで髪を洗います。貧乏性なのか、つい丁寧に洗うので気分が落ち着くのです。

③ひたすら歩く
→昔から案に行き詰まると散歩に出ます。ひょんな発見があったりしますし、健康にも良い。この日は2駅先の神田まで歩きました。途中で若い子ども連れの女性から挨拶をされました。誰?と一瞬わかりません。あ!毎日通うコンビニの店員さんでした。

④いつものパンダ達に癒される
→御徒町駅前パンダ広場のパンダたちは、いつ行っても違う表情で癒してくれます。

⑤王将で無性に食べる
→王将ファンです。店によってメニューが絶妙に違うのがファン心理をくすぐり、初めての土地では必ず王将の場所を調べてしまいます。本日はこのあと追加で2皿頼みました。

⑥一人指相撲を取る
→子どものときからのクセでよくやるのですが、まわりでやっている人をあまり見たことがありません。

⑦手品の種を考える
→YouTubeで手品を見るのは好きです。あたらしくんのマジックはほんとにマジックなのですか。誰か教えてください。

⑧ペンネームを考える
→門田山(かどたやま)にしようと思います。あとは処女作を書くのみです。

⑨ト音記号を書きまくる
→これも小さい頃からのクセ。自分でも摩訶不思議です。

⑩寿限無を口ずさむ
→子どもの頃に覚えたものは忘れませんね。もっと色々覚えておくべきでした。

⑪ピカソの本名を暗唱する
→「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」。これは大人になってから知ったので、何度言っても覚えられないものの内の一つです。でも言うのは好きです。

⑫平家物語の冒頭を声に出す
→これは中学の時に授業で無理やり覚えさせられました。場合によっては無理やりも大事なのかもしれません。

⑬新聞のインクのにおいをかぐ
→最近の新聞はあまりいいにおいがしません。

⑭行列に並ぶ
→このところ気候のせいか事務所の隣のどら焼き屋さんは大行列です。

⑮列車の窓から山を眺める
→特急あずさに乗るとテンションが上がるのは昭和世代だからでしょうか。頭に雪を乗せた山々はきれいでした。

⑯草間彌生の作品を見る
→水玉を見るとなにか閃く気がしませんか。松本市内を走るバスも水玉でした。

⑰街角ピアノを弾いてみる
→座ってみました。が、もちろん弾けません。楽器は学校以外で習ったことがありません。「猫踏んじゃった」を弾いてみました。何となくですが指が勝手に動きます。なぜこれだけは覚えているのかわかりません。

⑱繫昌亭に行く
→大好きな米二師匠の一門会。上方落語はコトバの強弱が面白いです。

⑲マツモトクラブのライブを見に行く
→繫昌亭のすぐあと、22時開演のお笑いライブに行きました。大阪で見るマツモトクラブはちょっとスターでした。

⑳人に手を振る
→朝イチの飛行機で東京へ戻ります。空港で働く人が滑走路から手を振ってくれています。僕も手を振ります。いつもは通路側を予約しますが今日は手が振りたかったので窓側にしました。

と、ここまでやってタイムオーバー。元ネタ以上のアイデアは浮かびませんでした。そもそもの案は「しろしい」の話のあとに色々な博多弁のタペストリーが天井からぶら下がっている地元の川端通商店街のことをつらつらと書くつもりでした。東京の街と同様、劇的に変わっていく福岡の街の中心にあって頑なに昭和をキープしている独特な商店街。いつかたっぷりと別の切り口で紹介いたします。

ところで、この川端通商店街の中ほどにある門田提灯店は親戚でも何でもありません。なぜか友達に頻繁に聞かれるので横を通るといつも気になりますが、という話はまたの機会に。

プロフィール
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター
門田 陽
コピーライター/クリエーティブ・ディレクター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

門田コピー工場株式会社 https://copy.co.jp/

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