「ストリート即興作曲家&IRL音楽ライブストリーマー」ARIatHOME

Vol. 70
FIND IT. LOVE IT.
Sayuri Fujii
藤井さゆり

過去のコラムで、ヒット曲を伝説のクラシックサウンドにリメイクするPostmodern Jukeboxや、ニューヨークの地下鉄を舞台に様々な人やシーンを撮影するMr. NYC Subway、ニューヨークで面白いハプニングを起こすグループImprov Everywhereなど、ニューヨークでクリエイティブな活動をやっている人たちを紹介したことがありますが、今回は、それらに近いけれども、全く新しい独自のやり方で自分のクリエイティブを表現しているARIatHOME(アリアットホーム)をご紹介します。

 

タイトルにあるように、ARIatHOME(以下Ari)は「ストリート即興作曲家&IRL音楽ライブストリーマー」なのですが、よくわからないと思うので以下の動画をご覧ください。

 

 
 
 
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Ariは、「リグ」(鍵盤やマイク、サウンドミキシングなどの機能を備えたバックパック)を背負いながら演奏してニューヨークを歩き、そのリグで、その場で出会った人と即興で作曲し演奏、そのやりとりをTwitch(ライブ配信プラットフォーム)で配信しているIRL(In Real Life)ストリーマーです。

 

これはインスタ上に投稿されたショートビデオなので、一見、音楽を上に乗せて編集されたものに見えてしまいそうですが、実際に彼はニューヨークで演奏しながら歩き(計3時間)、一緒に歌ってくれそうな人に声をかけ、即興で音楽を作って演奏し、その様子をビデオ配信しています。

 

過去にライブ配信されたものは、ARIatHOME – Twitchから見ることができます。

 

 
 
 
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即興ライブは、Ariが興味を示した通行人に「どんなビートがいい?」「どんな音楽がいい?」と声をかけるところから始まります。

 

一つ目のビデオでは、「ソウルサンプルがいいな」「じゃ、サンプルを作るよ。僕がコードを弾くから歌ってくれない?」というやりとりがありますが、Ariが即興で曲を作り、通行人も曲に合わせて即興でラップしたり歌ったりします。

 

一つ目と二つ目のビデオに登場するのは同じグループですが、二つ目のビデオではAriが「ダンスっぽいのはどう?」とそのグループに声をかけ、彼らは「何でもラップできるよ!」と答えます。「じゃ、一声出してみて」「Hah〜♪」「そう!それがほしかった!」というやりとりから新たな曲が生まれています。

 

 
 
 
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こちらのビデオでは、Wifiについて聞いてきたお兄さんに「僕らは音楽を作っているんだ。どんな音楽が聞きたい?」と尋ね、「あ、音楽を作っているの?ブーンバップ(※)が聞きたいな。ソウルコード、マイナーコードね。」とお兄さんは答えます。

(※ブーンバップとは、90年代ヒップホップに見られる、バスドラムとスネアドラムの音を主体としたサンプリングビートのこと)

 

その情報だけでAriは、リグで曲を即興で演奏し始めます。

 

曲が始まると、お兄さんはマイクにティッシュをそっと被せて、それを”DIYポップフィルター”(自分で作ったマイク用のノイズ保護フィルター)にして歌い始めます。この一連のやりとりがスムーズですね。

 

 
 
 
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こちらのビデオには、おじいさんラッパーが登場。おじいさんですが、めちゃくちゃかっこいいラップを披露してくれます。

 

曲が始まるとおじいさんが「ピアノ入れてくれる?」と尋ね、Ariは「もちろん!」と答えてピアノを入れるのですが、ここで曲調が変わるのもいいです。

 

インスタの投稿には、Ari自身が「今まで出会った中で、間違いなく最高にイケてるフリースタイラーの一人だ。僕はオールドスタイルのヒップホップを作る経験はあまりないけど、彼はそれでも最高のラップをキメてくれた。」とコメントしています。

 

 
 
 
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こちらはR&Bシンガーのお姉さん。仕事の途中で来て歌ってくれたようです。素晴らしい曲と歌声ですね。

 

 
 
 
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こちらはヒスパニック系のお兄さん。この即興ライブをやりたくて、Ariを探して会いに来たそうです。お兄さんが「春っぽいのがいいな。」と言うと、Ariは「懐かしいギターサウンドはどう?歌ってみて!」と返し、そこから「Sugar Love〜♪」という曲が生まれます。

 

 
 
 
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こちらはコロンビア出身のDJをやっているお姉さん。スペイン語でのラップもかっこいいですね。

 

 
 
 
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こちらはラッパーのお兄さんとR&Bシンガーのお兄さんとの即興ライブ。ラッパーのお兄さんとR&Bシンガーのお兄さんは元々知らない人同士だそうです。この時のニューヨークは真冬の0℃、二人はAriと一緒に歌いたかったそうですが、時間がなかったのでみんなでジャムセッションをしようとなったそうです。

 

Twitch上で過去のアーカイブを見ると、一番古いライブストリーミングは2020年11月となっています。ちょうどパンデミックの頃ですね。当初は自宅からストリーミングを行っており、チャットの会話から即興で音楽を作りライブ演奏しています。

 

 

 

2023年4月には外に出てリグを担ぎ、即興でライブをする現在のスタイルを始めています。

 

Ariはニューヨーク出身で、音楽に興味を持ったきっかけというのは、家族全員が音楽好きで、音楽一家だったことからだそうです。お父さんとお兄さんはオーケストラの世界で働いており、子供の頃はピアノや好きな弦楽器を弾いていて、独学で音楽制作を開始しています。

 

以前よりAriは、音楽を作ることに情熱を向けていましたが、一曲に30時間から40時間も費やして、その過程で惨めな気分になり疲れ果てていたのだそう。しかし、それがライブストリーミングで即興演奏をしようと思ったきっかけでした。

 

文学の学位を取得していた大学をしばらく休学し、フルタイムでTwitchでのライブストリーミングを始めると決心。ベースビートからボーカルまで、即興で作曲することを始めます。

 

実際にライブストリーミングを続けながら、8時間から9時間でアルバム一曲分の音楽を書き上げるそうです。その過程には不安定な部分があるかもしれませんが、Ariにとっては、それはむしろ自分を解き放ち、即興で生まれる創造性を楽しむための方法なのだそうです。

 

 
 
 
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Ariによると即興での作曲・演奏は、最初はかなりストレスがたまったそうですが、時間が経つにつれ、とても解放感を感じるようになったそうです。

 

路上でのライブストリーミングの場合は特に緊張が走るそう。スタジオ環境ではないので基本的に音質が悪くなること、約25kgほどの重さがあるリグを背負っていることもあり、自宅なら簡単に演奏できたり歌ったりすることが体力的に厳しくなるのだとか。

 

また、ヘッドフォンをして演奏しているため外部の音が聞こえず、襲われたり事故に遭う場合も考えて必ず友人と行動しているのだそうです。(ちなみに今まで襲われたりしたことはないそうです)

 

ビデオを見ている限りでは簡単そうに行っているように見えますが、実は緊張感を感じながらやっていたんですね。

 

 

上記はリグの中身について説明しているビデオ。

 

いかがでしたでしょうか。その場で通行人の好みに合わせて即興演奏できるAriの音楽センスや才能、そして度胸もすごいですが、即興でラップや歌声を披露してくれる人たちもすごいですよね。ニューヨークには才能がある人たちが集まるのでしょうか。

 

ここで紹介した以外にも、インスタにはたくさんのビデオが投稿されているので興味があったらぜひ見てみてください!

 

(参考)

Streamers on the Rise: ARIatHOME can write 30 new songs live in one Twitch stream – Tubefilter

instagram.com/ariatinsta

twitch.tv/ariathome

tiktok.com/@ariathome

youtube.com/@ariathome

プロフィール
FIND IT. LOVE IT.
藤井さゆり
東京生まれ、2008年ニューヨークに移住。 公益法人に勤務の傍ら、仲間内で企画したクラブイベントのフライヤーデザインをしたことから、デザインの面白さに目覚め転職。 転職後は、都内商業施設のウェブサイトの販促用ページ企画と取材、ライティングを経験。 ニューヨーク移住後は、ウェブマーケティングを企業にて経験、ウェブデザインをフリーランスで行う。 現在は、日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」のオーナー兼デザイナーを務める。
foxylilly.com
Instagram: @foxylilly

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