足元にある世界!? @Somerset House

Vol.154
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Oddkin, 2024  Jo Pearl

暗闇の中に浮かび上がるのは奇妙な生き物たち?健康的な小さじ1杯の表土には、10億ほどの微生物が住んでいるといいます。そんなミクロの世界の生き物を目に見える手のひらサイズの陶芸作品で表現したのは Jo Pearl。タイトルの「Oddkin」(奇妙な仲間)はダナ・ハラウェイの著書『Staying with the Trouble』(2016)より。 今回はSomerset House (第46回で紹介)から、土壌をテーマにした「Soil – The World at Our Feet」をお伝えします。


ARISTA Sensory bristle on insect head, 2022 France Bourély

トゲトゲしたアザミの花のようにみえるのは?実はハエの触覚の毛。ハエもまた土をつくる動物。France Bourélyはフンコロガシやアリなどの土壌生物の、肉眼ではみることのできない特徴に焦点を当てた写真作品を製作しています。


A Diversity of Forms, 2020 Dr Tim Cockerill, in collaboration with Dr Elze Hesse

まるで鮮やかなダリアのよう?これらはコーンウォール州の重金属汚染された土壌と一般的な培養土の細菌のコロニー。Dr Tim CockerillDr Elze Hesseの二人の研究者は、その美しいパターンから細菌たちが重金属の毒に苦しみながらもお互いに助け合ってその土壌に居残り、その毒を取り除く作業を続けている様子がうかがえるといいます。

Soil in Action, 2014-2024 Wim van Egmond

夜空の花火のように花開くのは胞子?


Soil in Action, 2014-2024 Wim van Egmond

ぐんぐん伸びていく糸状菌!

Soil in Action, 2014-2024 Wim van Egmond

そう、ここは土の中。ウサギのように飛び跳ねるトビムシ、そしてクマムシなどの土壌微生物が現れます。空気のない極限環境でも生きられることで、宇宙最強の生き物として知られるクマムシはポン・ジュノの最新映画、『ミッキー17』でもフィーチャーされていますね。キノコのように浮かぶ、Wim van Egmondの映像作品の中で、ミクロの土壌の世界を土壌生物になったかのように体験できます。


Fly Agaric 1 – Poetics of Soil, 2024 Marshmallow Laser Feast
Words and voice: Merlin Sheldrake

毒キノコのベニテングタケが菌糸のネットワークを使って養分を吸い上げ、胞子を撒き散らすサイケデリックなMarshmallow Laser Feastの映像。ナレーションをつとめた真菌学者のMerlin Sheldrakeはそのベストセラー本、『Entangled Life』(2020) の中で語っています。「地球上で最も劇的な出来事の多くは、真菌類の活動によるもの。植物が水から出られるようになったのは、真菌類との協力のおかげで、植物は5億年ほど前にようやく誕生した。真菌類は、植物が独自の進化を遂げるまで、何千万年もの間、植物の根系として機能していた。そして、今日の植物の90%以上が共生する真菌類に依存して生きている。」


From Earth: Kreta, 1992  herman de vries

土壌の色はまるで私たちの肌の色のように様々。herman de vriesは1970年代から、世界のあちこちの土壌のサンプルを集め、紙に写し取ってきました。その数は友人からの寄贈も含め9000種にものぼるそう。現在それらは南フランスにあるMusee gassendiに収められています。


Saccharum officinarum and Queen Anne’s Lace, 2015   Annalee Davies

Saccharum officinarum はサトウキビ、血のように赤いその根は肺のよう。右はかつて女性の内職だった鍵編みレースの刺繍。バルバドス出身のAnnalee Daviesはこれらを支払いが行われなかったプランテーションの元帳の上に描いています。Daviesはその土壌が、奴隷化された人々と耕作を強いられた土地の両方に加えられた搾取的な植民地時代の暴力の記憶を保持しているといいます。


Black Medick (Nourishment Series), 2003 Michael Landy

Michael Landyは2001年、消費社会を批判したアートプロジェクト、「Break Down」を開始。まず、オックスフォード ストリートの元C&Aデパートにパスポートから車に至るまで、彼の全ての所有物を集めます。所有物は、美術品、衣類、備品、家具、キッチン、レジャー、自動車、生鮮食品、読書資料、アトリエ用品の10のカテゴリーに分類されます。そして、公開展示会として2週間かけてすべて破壊しました。全てを失い、途方にくれた彼が次に目を向けたのは道端の野草。Black Medickはマメ科で植物に欠かせない栄養素である窒素を固定できる菌根をもち、土を育みます。


A.A.I. System’s Negative 7, 2016  Agnieszka Kurant Collaboration with Dr. Paul Bardunias

Agnieszka KurantDr. Paul Barduniasはナミビアの砂漠でシロアリ塚を見つけ、地中に液体亜鉛を流し込みます。驚いたことにその出てきたシロアリの地下都市はまるでサンゴ礁のようでした。


As Above, So Below, 2024 Semantica (Jemma Foster and Camilla French) and Juan Cortés

床の映像は生物、栄養素、種子間の相互作用を示す、生きている土壌生態系をシミュレートしたもの。壁にはライブで農産業市場データが表示されています。土壌生態系と農作物の需要が関係あるのでしょうか。


As Above, So Below, 2024 Semantica (Jemma Foster and Camilla French) and Juan Cortés

種子のような陶芸のオブジェが彫像のように置かれています。「触れてください」とあるので、触ってみると、その光や音に変化が現れます。Semantica (Jemma Foster and Camilla French) and Juan Cortésによる目に見えない人間の土壌生態系への影響とそのコミュニケーションを試みた作品。


Ghost Agroculture (Unlimited Resource Farming), 2018 Asunción Molinos Gordo

大きなパッチワークの作品は一体何の模様?実はナイル渓谷の農地の形状を表しているとAsunción Molinos Gordoはいいます。川岸とデルタの衛星画像には、何千もの小さな長方形の土地が描かれています。そのどれもが100平方メートル以下で、それぞれが400万人のフェラヒン(エジプトの農業労働者)によって灌漑(かんがい)されており、国の需要を満たすための食料を生産しています。川の地域から離れて砂漠にズームアウトすると、マクロ農業区画に地面を掘った大きな円が現れます。これらの巨大な農場は平均半径2.5キロメートルで、スプリンクラーシステムを使用して、地下帯水層から再生不可能な化石水で灌漑されています。これらの農場は国際市場への輸出用の農産物を生産しており、中央政府と提携した少数の民間企業によって運営されているのが実情。土に描かれた幾何学模様は自然資源、人的資源、経済資源をめぐる争いを明らかにしています。

さて、最初のハラウェイの『Staying with the Trouble』に戻ってみます。ハラウェイはトラブルと共にあることは、奇妙な仲間を作ること。熱い堆肥の山の中で、私たちは予期せぬコラボレーションや組み合わせでお互いを必要とするということだと説いています。現在、私たちがトラブルの渦中にいるのは間違いないわけで、まだまだ明らかにされていない、私たちの足元にある土壌の世界にその答えがあるのかもしれません。

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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