あなたと私は違う人
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.97
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
以前住んでいたマンションの裏に、台湾から来た夫婦が経営するコンビニがありました。 すごく気さくな夫婦で仲良くしてもらったので、今でも近くを通ると挨拶しに寄ります。
ある日、そのコンビニの前を通ったので、挨拶がてらに寄ってみました。奥さんが一人レジカウンターの中に居ましたが、挨拶しても元気がありませんでした。 「どうしたの?」と聞くと、「今時間ある?」と。コンビニのバックルームに連れて行かれて、防犯カメラの映像を巻き戻して見せられました。「ついさっき、こんな事があったのよ」そこには、レジカウンターを蹴りまくり、その奥さんに対して怒鳴り散らしているおっさんの映像が写っていたのです。なんじゃこりゃ?
詳しく話を聞いてみると、その奥さんがレジを打ち間違えてレシートに十数円違った金額が打ち出されてしまった。おつりの金額も十数円間違っていたので客のおっさんが怒りだした。再度計算し直しておつりを返すと、今度は、おっさんはそのレシートの金額が気に入らず打ち直せと言ってきた。奥さんはそのレシートの打ち直し方が解らなかったので「ごめんなさい、やり方がわかりません」と言ったら暴れだしちゃったんだ。と言う。平謝りに謝ったら、ひとしきり暴れて暴言吐いて帰って行ったらしいんだけど、奥さんは「こういうのってどうすればいい?」と。 「旦那さんはなんて言ってる?」 「これから謝りに行くって言ってる。私のミスだから」 「それも解るけど、こんなに暴れなくてもいいじゃん。警察呼んだ方がいいですよ。 今からでも。防犯カメラの映像があるんだからこの人捕まるよ」 「それはやめたい。商売がしにくくなるから。日本人じゃないから色々面倒くさいし」 みたいなやり取りがあって、結局謝りに行ったらしい。
商売をやっているとこういう事ってたまに起こるのかもしれないし、本当は両方の言い分を聞いてみないと本当の事は解らないのだが、ざっと経緯を聞いた感じだと怒る事の内容がせこすぎないか?
ネットでそういう事が他に起きているか検索してみると「土下座強要」という事件が結構な数でヒットする。 コンビニエンスストア、ファミレス、ボーリング場などで起こっている、店員の対応が気に入らなかった客が、店員を脅し、文句を言いまくった挙げ句に土下座させ、それをスマホで写真や動画をとってSNSにアップして捕まる。みたいなアホな事件がたくさん起きているのがわかります。『土下座晒し』というらしいです。犯人の心理分析的にも「悪い事をした奴を懲らしめて世間に晒してやったんだから自分はいい事をした」と思っているみたいだと書いてある。
どういう精神構造なんだろうか?暇人の憂さ晴らしなんだろうか? こういう事件が頻繁に起こるという事は、もっと大きなところで大きな問題があるんじゃなかろうか?とも思うのです。金がないからか?がんばっても報われない気がするからか?
ヘイトスピーチの問題なんかも胸くそが悪い。 根拠のない薄い理由を持ち出して、「自分たちと違う」とした人たちを、ものすごく汚い言葉で平気でののしっている人がニュース映像などに出てくるけれど、なんでこんな事をなさっているのかが、ちゃんと研究してみないと僕には解らないのです。憎悪表現を表現の自由と言っているみたいですが、本当にそうなんでしょうか?表面に出てこないどす黒い憎悪みたいなものが、インターネットを通じて水面下でぞわぞわ~と広がっていったんじゃないかとも思います。アー気持ち悪い。
人がいらついています。人のいらつきは立場の弱い人に向かう、弱いものいじめですね。 昨今の人間のいらつき加減は、本当にもっと大きな問題に発展するんじゃないかと心配になります。
最近、話題になった言葉に「ダイバーシティ」(Diversity)という言葉があります。 「多様性」と訳されてなんとなく便利に使われていましたが、世の中では多様性とかけ離れた事が起きている様な気がします。多様性の意味がいまいち理解されていないんでしょうけど、平たく言うと、「アナタと私は違う人。」という事でしょうか?そういう感覚はなかなか日本人は持ちにくい歴史があるのも事実ですね。
調べて行くと、実はこの言葉は本来、(Diversity&Inclusion)という使い方をして、訳は「多様性の受容」という事らしいのです。 この「受容」って所に重きを置いて考えないと、多様性っていったところで、だから何?ってことになりかねない。 「アナタと私は違う人。それでいいじゃん」
人間は人種や性別、年齢、身体障害の有無などの外見的な違いだけでなく、宗教や価値観、社会的背景、 生き方、考え方、性格、態度、嗜好など、内面も皆違っている。ダイバーシティとは、個々の「違い」を受け入れ、認め、活かしていくことである。
(『日本の人事部』人事マネジメント解体新書:いま求められる「ダイバーシティ・マネジメント」より) と書いてありました。
あなたと私は違う人。 それが当たり前なんだから、自分の意に添わないからってそんなに攻撃する必要はありません。 そこをはっきりさせようぜ。そうしないといじめも無くならないでしょう。
なにより、反撃される恐れの少ない相手に、めちゃめちゃぶち切れてみせて、謝らせたところで、いい気分か?冷蔵庫とか洗濯機にケリ入れてるのとあんまりかわらない。かっこわるいだろ?と思うのです。ナゲットに歯が入ってました、って話も結構怪しいし、当事者でもないのにギャーギャー騒ぐ事もないだろ。桃太郎も「自分より強いヤツを倒せ」っていうからかっこいいんでしょうに。
この異常ないらつきの原因をなくす様な事を本気でやらないと、なんかヤバい事になっちゃうような気がするのは僕だけでしょうか?原因は一体なんなんでしょうか?
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。