薄氷の殺人

ミニ・シネマ・パラダイスVol.31
ミニ・シネマ・パラダイス 市川桂

1月なのですが、暖かい日もあったりと、今年は雪は降らないのかなーと最近は考えています。

『薄氷の殺人』は、「ふーん、まあちょっと観てやろうじゃないか」みたいな ちょっと上から目線な感じで観に行くことに。 中国映画は好きです。 王家衛(ウォン・カーウァイ)という中国の監督が好きなので、たびたび観る機会があります。 同じアジア圏ではありますが、独特の文化や美的センス、パワーを感じることができるのが好きなポイントですね。

ですが、そもそも映画でチープな感じに陥りやすいなーと個人的に思っているのが、 「死を扱うもの」で 「それに関わる男女関係」とか、そこにいる「不思議な魅力がある傷ついた女」とかで かつそれが「排他的で」「ネオンきらきら」「場末っぽい」「なんか知らないけど裏社会っぽい人がいる場所」 とかで行われると、なんとも要素だけで十分お腹一杯になれるので、 雰囲気だけで押し切られることが多く・・・。 (中二病の人が好きになりそうな。別に嫌いじゃないのですが。) 予告編やサイトを観て、そういった条件が揃っているのが「薄氷の殺人」だったのでした。

久々に新宿武蔵野館へ。お客さんは他は男性のみでした。1人客ばかり。 サスペンス色が宣伝されているからでしょうか?そもそも中国映画のファンが男性が多いのかもしれません。 その答えは分からないままでしたが、「観てやろうじゃないか」なんて私の上から目線は、すぐに撤回することになりました。

『薄氷の殺人』は、中国北部の地方都市が舞台。 謎多きバラバラ死体殺人事件に関わる刑事・ジャンが主人公。 ジャンは腕はある刑事ですが、素行に問題があり、私生活はまあまあのダメ男です。 なんとなくキャリアダウンしていく中で、数年前に未解決のままだったバラバラ死体殺人が再び起こり、 そこに関わる一人の女・ウーと出会います。 彼女の周りで数年間の間に3人の男が失踪している、これはアヤシイ、と。 ジャンはその事件とウーに首を突っ込んでいきます。 そんな彼女は感情がまったく読めず、どこか不安げなのか不満なのか悲しいのか分からないけど、とても美しい女性。 彼女はいったい何なのか。謎が謎を呼ぶサスペンス展開が待っています。

中国北部の地方都市は、建物も多く沢山の人が住まう場所。豪雪まではいかないけど、 常に薄い雪が降り積もり、スケートリンクが遊び場となり、ネオンや電車、ビルを冷え冷えと包んでいます。 本当に寒そうで、常に寒そう。それがサスペンス要素をさらに鋭いものにさせているようです。 ジャンやウーが歩くと、ギシギシと雪を踏みしめる足音が耳につきます。 ウーはすっぽりとマフラーに顔をうずめながらも、白い肌の鼻先が赤くなっています。 食堂で運ばれてくるあつあつの小籠包や、ウーが勤めるクリーニング屋で湯気を上げるアイロンは、大量の水蒸気を上げています。 幻想的で美しい場所を舞台としていて、また映像の切り取り方も絶妙です。 そしてセリフが少ない。画がしっかりとセリフを語っています。

監督ディアオ・イーナンは、中国出身で、長編作品は3作目。 幼少期は日本の映画にとても影響を受けて、黒澤明や小津安二郎が好きらしい。 そういわれるとなるほどーと思うほど、映像を大事にした映画のお手本的な手法を持ちつつも、 中国ならではの音楽の感性や美的センスも入っているので、たいへん楽しめました。

この日は日本は暖かでしたが、中国北部はあんなに寒いのか・・・と思いを馳せつつ、 上から目線発言を心の中でお詫びしました。 2014年・第64回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞と男優賞をダブル受賞している作品ですので、ぜひ寒い時期にご覧ください!

『薄氷の殺人』

『薄氷の殺人』
製作年度 2014年
上映時間   106分
製作国 中国・香港合作
配給 ブロードメディア・スタジオ
監督 ディアオ・イーナン
キャスト
リャオ・ファン、グイ・ルンメイ
http://www.thin-ice-murder.com/

Profile of 市川 桂

市川桂

美術系大学で、自ら映像制作を中心にものづくりを行い、ものづくりの苦労や感動を体験してきました。今は株式会社フェローズにてクリエイティブ業界、特にWEB&グラフィック業界専門のエージェントをしています。 映画鑑賞は、大学時代は年間200~300本ほど、社会人になった現在は年間100本を観るのを目標にしています。

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