目で楽しむ音楽!? White Cube Bermondsey
- London Art Trail Vol.32
- London Art Trail 笠原みゆき
音楽を耳だけでなく目でも楽しむ方法とは? その答えを用意したのが現代美術家で音楽家のChristian Marclay。 そのマークレーの個展が現在、南ロンドンにあるWhite Cube Bermondseyで開かれています。
まず、左手奥の部屋に入るとそこは四面から湧き出るオノマトペの世界! オノマトペとはフランス語<onomatopèe>からの外来語で擬音語、擬声語、擬態語を包括的に表す言葉。
“ポップ”という言葉がシャボン玉のように“ポップ、ポップ、ポップ”と次から次へと浮かんでは弾けたかと思うと“ズゥゥーム”が壁から壁へとものすごいスピードで走り抜け、“シィィーッ“が滝のように大量に降ってきたりという具合で、コミック本の吹き出しから集めたというオノマトペの、夜祭りの花火ならぬ言葉の花の散る世界に引き込まれます。 このサイレント・アニメーション作品は “Surround Sounds” 2015。
その先には音を再現したアクション・ペインティング。 北斎の波を思わせる青い大波の上をスプロォーシ、ウゥーシといった言葉が飛んだり回ったり。オノマトペを含んだ18枚のインクとアクリルの連作絵画にはそれぞれ”Yellow Bloop”, “Red Splish’, “Blue Splaf”といったようにテーマ色ごとに名付けられています。 下の写真はその中の一つの "Red on Blue Splat” 2014。
奥に進むとパブのビールのグラスやジョッキに囲まれた部屋の中央に人だかりが。覗いてみると床に置かれたギターやドラムがエフェクター、チューナーなどの音声機器に繋がれ、 真ん中で男性が水または酒類?と思われる透明な液体の入ったグラスに小さなオブジェを投じて、そこに更にコンタクトマイクを付けて音を作り出しています。この男性はDavid Toopで英国インプロバイス・ミュージック(即興音楽)の旗手の一人。
通路を挟んで向かい側の部屋に行くとそこには何と出張レコード製造所が! 実は先ほどトゥープが演奏していた部屋では、展示期間中の毎週末音楽家やオーケストラを招いてパフォーマンスが行なわれ、そこで奏でられた音楽はこのThe Vinyl Factoryの出張レコード製造所でレコードにされ、来場者がお持ち帰りできるという手の込んだ趣向。
通路両側には11枚の映像作品が投影され、その前を忙しなく往来する来場者の人影が映像に取り込まれ作品の一部と化していきます。 映像はマークレーがビデオカメラ片手に、空または飲みかけのワイングラスやパイントグラス、瓶、缶などの残骸の残る“祭りの後”の早朝週末の東ロンドンの路地を歩いて撮影した作品 “Pub Crawl” 2014。マークレーが散歩中時々立ち止まっては銀のペンでワイングラスやビール瓶を叩いたり、ビール缶を足で潰したりして生み出された風が作り出す音のように自然なオノマトペは、会場の喧噪に静かにとけ込んでいました。
70年代にはターンテーブルを駆使したDJのパイオニアとして知られたマークレー。 2011年には“The Clock"(2010)がヴェネティア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞するなど、近年は現代美術家としても評価され、音楽、美術、ポップアートの世界の橋渡しをしていく彼。その活動にはこれからも目が離せません。
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com