人は毛にうるさい
- とりとめないわ 第2話
- とりとめないわ 門田陽
もうずいぶんと人間をやってますが、日々フシギなことだらけです。ボクは多くの人がスマホを見ている電車内では、いわゆる中吊り広告やドア横のステッカーや網棚上のポスターを眺めている時間が長い人です。この習慣というかクセがついたのは新入社員の頃(福岡の西鉄エージェンシーという会社に勤めていました)だから昭和60年代。当時の師匠の大曲さん(現在フリーのコピーライター)と電車に乗るたびに車内にあるポスターについてどう思うかを一枚一枚聞かれ、勘弁してよと思いつつ予習のために一人で乗るときもいつもポスターをひとつずつチェックしたのが今に繫がっています。話はいきなりバイパスに入りますが、福岡の西鉄電車並びに市営地下鉄の車内広告のポスターの質というか面白いものに出会う確率は東京はもちろん他のどの地域よりも高いです。この理由については明快な答え(推理かもしれないけど)があるのですが、語り出すと今日はそれで終わってしまうので本道に戻ります。
あれ?何の話でしたっけ。毛だ!そうです、毛です。3年くらい前からでしょうか。電車内の特に網棚上とドア横の広告は毛だらけなことになっています。特に夏前は激しくなります。そうまでして毛を抜きたいのか、それとも脱毛ブームでも来ているのかと思ったのですが、女性には至極当たり前のことなのだそうですよ。そんなタイヘンなことを意外と男達は知りません。詳しい人によれば世の大半の女性はムダ毛の処理をしているそうです。気になったので調べたところ10~30代の女性の8割以上が何らかの方法でやってる(処理してる)らしいのです。やってるんだな。あの人もあの人もやってるんですよ。そのやり方や姿を思い浮かべるだけで今夜眠れない青少中年が多数いるに違いない。江戸時代の女性の中には鋏でカットしたあとに線香で毛先を焼く人もいたそうなのです。これはチクチクしないように男性への心遣いで焼いたそうです。なんと健気な。
さて、そういえば去年観た映画「スイートプールサイド(監督松居大悟)」は毛深いことに悩む女子高生が、毛が生えないことに悩むバカ男子に自分のワキ毛を剃ってもらうという、いとすばらしき作品でした。毛が生えたのって(もちろんあの毛)何年生だったかなぁ?突然全部ボサッと生えるわけはないから最初は1本だけだったのかなぁ。明確には思い出せません。さらにワキの場合、女子は困ったと思うのかもですが男子は大人の階段上るシンデレラな気分で大事に育てるものです。 ボクもそうでした。あの頃はむやみにワキばかり見るバカの一人でした。そしてそんなことよりもどんなことよりも異性のあの毛が見たくて仕方のない一人でした。あー、懐かしい。一体何の話をしてるのだろう。アホです。
しかしそんな悶々とした学生時代を終えた90年代に入ったとたん、あの毛はヘアという名に生まれ変わり解禁されました。もう「写真時代(白夜書房)」に頼らなくてもよくなりました。見えた見えないで一喜一憂する毛の神秘。後輩のコピーライター芳谷兼昌くんが以前に書いたナショナルの鼻毛カッターのコピーは秀逸です。「彼女がほしい?その鼻毛で?」ね、いいでしょ!ところで最近はあそこに白い毛が混じってないかばかりが気になる話はまたの機会に。
Profile of 門田 陽(かどた あきら)
電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。