日本語は難しい。
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.67
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
「KY」つまり「空気が読めない」という言葉がチョッと前に流行りました。 そしてその言葉は流行で終わらずに、しっかりと定着しちゃった感がある。実は僕、この「KY」という、なんとなく「いじめ」に近い感覚の、一見軽くてばかばかしい言い回しの言葉がなんとも言い得て妙だなあと密かに感心したりしているのです。
英語やフランス語がどうなっているかは分かりませんが、日本語のコミュニケーションには「言葉」という直接的な伝達方式のまわりに、必ず「空気」が存在すると思うのです。温度や湿度にも近いその「空気」は、一対一で話しているときと、打ち合わせや会議で話しているときではまるで変わってきます。 一対一の場合は、「関係性の空気」みたいなものが流れ、集団の中では「その場の空気」みたいなものが、ものすごい勢いで変化しながら漂う。
当然、その空気の中にはヒエラルキーや力関係や利害関係やなんやかんやが潜んでいて、ついでに敬語やなんかの言い回しとともに風向きが簡単に変わってしまう危険性も秘めています。とってもリスキー。
言葉以外の空気が本質を語り、決して口に出して言った言葉が全てでは無い。このテレパシーにも似た言語体系は何なんでしょうね?
「空気」を含んだコミュニケーションができない人は、鈍感だといわれ、忌み嫌われるのは昔からの事なんでしょうけど、それを若い人たちが、無意識に、馬鹿にした言い方で、新しく「KY」と表現したことがとっても面白いと思っちゃったのです。彼らもいろいろ思うところがあるんだなあ。と。
空気を読む、すなわち、「相手が本当は何を言おうとしているか?」を理解するのはとっても難しいことです。 本来、そういう理解力は、自分の浅はかな言動で、相手を嫌な思いにさせたあげくに自分も「嫌な思いをする」という経験を経て培われるものだと思うんですね。でも最近は、「嫌な思いをする」ということが否定され、自分の浅はかさを棚に置いて、嫌な思いをさせられると逆ギレして、なんなら訴えてやろうか、という風潮に変わってきています。 だから、人との関係性を大事にするということができない人もずいぶん増えてきてると思うのです。自分の事ばっかり言ってるやつがゴマンといる。
「空気」を伴う日本語の使い方を神経質に考えない人たちが増えてきて、その格差が広がってきているから「ウザい」とか「イラっとくる」という言われ方をするようになる人が出てくるのでしょう。そういう事が「いじめ」のとっかかりになっている事が多いのかもしれません。
そこにきて、今、コミュニケーションのツールとして台頭してきたのが、日本語でコミュニケーションをとるのがとっても難しいメディアだということも笑えない事実としてあります。メールやツイッター、SNSがそれでしょう。
メールやつぶやきで自分の思いや言いたい事を伝えるのは至難の業ですね。空気感を排除して言葉だけで伝えなければいけないからです。そういうつもりで書いたんじゃないのに!って感じで、メールを送った人ももらった人も逆上しちゃったり、ツイッターやブログが「炎上」したりすることがありますね。
それを回避するために、異常に発達しちゃったのが「絵文字」や「顔文字」なんでしょう。もうすごい発達。アニメーションのように動くやつもある。これらは多分「空気感」の代わりに威力を発揮するツールとして作られたんでしょう。絵文字のあるおかげで喧嘩にならないで済んでることはたくさんあると思います。 絵文字はKY回避ツールだとも言えます。
だけど、日常の会話で絵文字は使えません。やっぱり、会話の中で、自分の話す言葉だけで相手を納得させ、全体を前に進める技術。みたいな事が本当に必要になってくると思うのです。
そういう意味での「KYの撲滅」みたいな事を考えていかないと、いまの日本にある、なんというか閉塞感みたいのものはなくなっていかないんじゃないか?と思うのです。 国会の答弁を見ていても思う。何を言ってるんだろうこの馬鹿どもは? 「空気」に頼って、「皆まで言わすな、分かってくれよ。」はもはや甘えでしかありません。かつて日本の政治家が得意とした腹芸は、高度に共通化した認識の上でだけ成り立つテレパシーであり、そんなコミュニケーションが受け入れられる時代はとっくの昔に終わっているからです。
俺の常識はお前の常識じゃない。俺とお前は違う人。という事を前提に、相手が何を大切に思っていて、何が嫌いなのか、何をされたがっていて、何をされたたくないのか?をちゃんと感じ取って、自分の考えや主張を、ちゃんと言葉にして伝える事―――。 これ、すなわち「語り合う」ってことなんでしょうけど、その<相手を理解して、簡単に否定せず、語り合う>ということが「KY」にもならず、「絵文字」にもたよらず、人とコミュニケーションできる基本だと思うのです。 日本語はむずかしいなあ、てへぺろ(・ω<)
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV