職種その他2012.09.12

Supernormal Encounters

London Art Trail Vol.3
London Art Trail 笠原みゆき
Supernormal Festival会場

Supernormal Festival会場

今年はオリンピックの影響を受け、警備費、簡易トイレのコストの高騰により、国内最大のGlastonbury Festivalは延期になりましたが、不景気にも関わらず動員数は逆に増えているといわれる野外音楽祭。新規参入組も増え、私もその中の一つ、Supernormal Festivalに行ってきました。Supernomalはアーチストとミュージシャンのグループが立ち上げた小規模なフェスティバルで、今年で3年目。3日間のイベントは音楽だけではなくアートにも重点を置いている新しいタイプのフェスティバル。ロンドン中心部から電車で30分、そこからバスで25分程のオックスフォードシャーの自然豊かなBraziers Parkが会場です。

野外メインステージ

野外メインステージ

会場は野外ステージ2つ、ディスコテント、ミニシアター、バーン(納屋)ステージと分かれていて、ウッドチップ・ボイラー式シャワー、数カ所に配置された排泄物を堆肥に変えるエコトイレと全て手作り。上の写真は昼の野外メインステージ。屋根の上の野草がいい感じ。

さて、アート散策をしてみると、早速ブランコで遊んでいる親子を見付けました。よく見るとブランコは隣のバーの建物に紐で繋がれ,更にその紐はバーの前のテーブルにある器械のような物に繋がっていて、ジーコ、ジーコと何かを削るような鈍い音が。Will CruickshankのSwing Etching Harmonographという作品でした。このドローイングマシーンは、縦線=左のブランコ、横線=右のブランコといった様に2つのブランコの揺れに合わせて線を描いていき、揺れの大きさ、速度によって描かれる線が変わります。私も体験してみました。

結果はこんな感じ(下写真)。 左右2つのドローイングは同一。

ブランコ・ドローイング

Will CruickshankのSwing Etching Harmonograph
(右)私のブランコ・ドローイング

今度は林を抜けてバーン(納屋)ステージの方へ。会場の前の小さな広場では手作りの窯でパンを焼いている人達がいました。丁度昼時でお腹も空いてきた頃。次に焼けるのは30分後ということで、納屋での演奏を聴いてから行くことに。

Campbell WorksのA Future That Long Since Began

Campbell WorksのA Future That Long Since Began

後ほど行ってみると、中から煙を上げて出て来たのは人体!思わずThe Wicker Manというイギリス映画を思い出してゾクり。こちらはCampbell WorksのNeil TaylorとHarriet MurrayのA Future That Long Since Beganというプロジェクト。焼き上がったのはサワードウブレッドというズッシリと重みのあるうっすら鼠色のパン。Harrietは言います。 “サワードウブレッドはヨーローッパ最古のパンの一つ。ライ麦、小麦に水を混ぜ、長時間ねかせ醗酵したら焼く。それだけ。天然酵母は、元々大気中にある、放っておけば勝手にやってくる乳酸菌と交わって生まれるの。現在イギリスでは急速に小麦アレルギーの人が増えている。多くはスーパーなどで売られている培養パン酵母(イースト) や、ベーキングパウダーなどの人工的な膨張剤を使って短時間で焼かれたパンを食べ続けたのが一因。この手のパンにはサワードウに含まれる小麦の消化を助ける乳酸菌、有機酸、抗生物質などが存在しないので、アレルギーを起こす人が出てくる。だから、サワードウブレッドはパンの中でも一番アレルギーが出にくいパンなのよ。”

早速イタリアンパセリのみじん切りと潰したニンニクの入ったオリーブ油に浸けていただいてみます。独特の酸味がオリーブ油で甘みに変わり、しっとりと弾力があり実に美味しい。実は私の一番好きなパンはこのサワードウブレッド。 高価なのでたまにしか買いませんが高い理由がわかりました。Campbell Worksの作品は私達の食文化について素直に問いかけています。

サワードウブレッドを振る舞う

サワードウブレッドを振る舞うお手伝いをしているのはNeilとHarrietの息子さんといとこの男の子

納屋の裏手に廻ってみます。するとそこには立派なお屋敷が。300年の歴史を誇るこの建物はJames Bondの生みの親 Ian Flemingの育った屋敷、 Mick Jaggerが一時隠れ住んだ屋敷としても知られています。現在は自給自足体制で共同生活を営むコミューンのレジデンスになっていて、彼らによってBraziers Park全体が運営されています。ここでは1995年~昨年までアーチスト・イン・レジデンスも行なっていました。 実際Supernormalはここからの転向で、アーチストとミュージシャンとコミューンとのコラボレーションであり、今回もミュージシャンの他に50人(組)程のアーチストが、それぞれのプロジェクトをこの屋敷内を含めパークのあちこちで展開していました。年々動員数は増し、ビジネスとして軌道に乗ってきたSupernormal。この先もその実験的な雰囲気を失わないで欲しいものです。

Braziers house

Braziers house。フェスティバル期間中は見学可。
ティールームもあり、好みのヴィンテージカップでティーを楽しめる。

 

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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