映像2016.02.26

半分大人時代

とりとめないわ 第6話
とりとめないわ 門田陽

お昼にお酒を飲んで、ほろ酔いでいられる日には、「あー、大人になってよかった」と思います。

先日、土曜の昼間に最近行きつけの飲み屋さんがランチを始めたので寄ったときのことです。隣のテーブルで30~40歳くらいの2組の夫婦が食事をしていました。婚礼とまではいかないまでも4人ともよそ行きで特に女性陣は強めのオシャレをしています。そしてみんな揃って緊張気味。せっかくの週末なのにビールを頼む人もいません。僕は好奇心がムラムラしてしまい、全力で彼らの会話に耳を傾け事情がわかりました。午後から小学校で1/2成人式なのだそうです。

なのだそうです。とさも当然のように書きましたが、僕はこのとき初めて1/2成人式というコトバを知りました。この辺に疎いのはいい歳をして独り身の弱味。あとで仕事仲間に聞くと小学校ではすっかり定着した行事だそうでして。さらに尋ねると、平成3年生まれの後輩に「私も10歳のときにやりましたよ」と言われ、軽くショック。昭和は遠くになりにけりです。突っ込んで聞いていくと平成元年生まれの人はやった記憶がないそうなので平成2年か3年くらいから始まったと推察します。それでももう四半世紀続いているのですね。全く知りませんでした。(※ネットで調べてみると関西の方ではもっと早くから行っていたようです。)

しかしその内容を聞いて違和感があったというと怒られそう(誰に?)ですが、何なのそれ!?です。地域や学校によって多少差ははあるようですが、概ねどこも子供たちがこれまで10年間大事に育ててくれてありがとうの作文を親の前で読むのが主。あとは本物の成人式のときに開けるタイムカプセルを埋めたり、10年後の自分へのメッセージビデオを撮ったりするのだそうです。親からの手紙が読まれることもあります。うん?いりますか、そんなの。きっとどこかの学校でやったことが話題になり何かに取り上げられて全国に広がったのでしょう。そもそも親への感謝なんて個人的にひっそりやるだけでよくないですか。公的にも母の日も父の日も敬老の日もあるのだし。ついでに言うと近頃はハロウィンだの、恵方巻だの、いい夫婦の日だの、付き合って1ヶ月目(月命日か!)だの記念日や催し物が多過ぎです。あんなにハロウィンが盛り上がったらサンタクロースの立場がない。

話を元に戻します。1/2成人式。もしも僕が10歳だったらどんな作文を書くのか、考えただけでも気がめいります(苦笑)。

「お父さんお母さん、今日まで10年間本当にありがとうございました。誕生の日、4230gなんてでかい図体で生まれてしまいごめんなさい。1歳のとき、大病で手術になって心配させてごめんなさい。幼稚園には3年間通わせてもらいました。年少のときはうめ組。担任の鐘ヶ江先生のスカートの中にもぐってばかりでごめんなさい。年中のときはさくら組。送迎バスの色が赤なのが気に入らなくてごめんなさい。あの頃は青色が好きでした。年長のときはすみれ組。プールが嫌いで入らずに逃げ回ってごめんなさい。そのせいか今でも金槌です。小学1年のときは体育の時間に裸足になるのを拒否してしまいごめんなさい。なぜ拒否したのかいまだにわかりません。小学2年のとき、ドッジボールで女子の投げたボールを顔面に受け鼻血を流し担任の山本先生に「男のくせにしっかりせんか」と怒られてしばらく口をきかずにごめんなさい。小学3年のとき、通っていた書道教室の月謝をごまかしてアイスクリームを買ってしまってごめんなさい。しかもそのアイスクリームのバーが当たりで2本も食べてしまってごめんなさい。そして僕はいま小学4年生。無事に1/2成人式を迎えることができました。とにかくいままでごめんなさい。」

いやー、これではもうこれ以上大人になんかなりたくありません。僕らの頃にこの制度がなくてほんとによかったです。それにしても大人になってずいぶん経ちますが、あの頃考えていた大人って、もっと大人な気がします。もしかするとまだ大人になりきれていないのかもです。

ところで、先般の店で母親同士の「絶対泣いちゃうわよね」「もちろん泣くわよ」と会話する姿は、あれはあれで幸せな大人に見えたなぁという話はまたの機会に。

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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