ゲームもほどほどに! at Somerset House
- London Art Trail Vol.46
- London Art Trail 笠原みゆき
テムズ川ほとりの冬のアイススケートリンクでお馴染みのサマセットハウス。ハウスは16世紀にサマセット公爵が建てた宮殿跡地に、18世紀後半に20年をかけて当時最大級の公共建築プロジェクトとして建てられ、現在では政府機関のみならずコートールドギャラリー、ロンドン大学キングスカレッジなどの美術、教育機関を含む多目的建造物として使われています。今回はロンドンゲームフェスティバルの一環としてそのサマセットハウスで行なわれた三日間のゲームの祭典、“Now Play This” より。100点近くのゲームが出展された中から、ほんの一部の紹介です。
父と息子の家族三人が小さな画面に食い入って何かを探しています。画面を見ると緻密なイラスト。これ、現代版ウォーリーを探せ!とでもいいましょうか、画面右にこの人を捜して下さいと指示が出て、背景は都市、工場、森と変化していきます。難しいのは白黒に加え、人の手足が動いたり、建物のドアが開いたりと全体がさりげなくアニメーションになっていること。 スマートフォンやタブレット用のこの作品はAdriaan de Jongh & Sylvain Tegroegの『Hidden Folks』。
色とりどりのペンで描かれた来場者のドローイングが七夕の短冊のように壁に貼付けられています。一つ取って隣にあった機械に通してみると!何とメロディーを奏でます。会場にはペンや紙が用意されていて好みの形状を描いて音にして遊べるのはMiyu Hayashi&Pär Carlssonの『Shiki-On』。
壮絶な母と娘の戦い!テニスの試合を観戦するように見ている方もハラハラのゲームは//////////Fur////の『Snakepit』。1970年代からある古典ビデオゲームをスポーツのように楽しめる体験型にしたもの。2人で行なうゲームで互いの蛇をペダルで誘導しながら餌を与えポイントをためていき、お互いにぶつかったり、壁に衝突したりするとゲームオーバー。
1m四方程の紙の升目に区切られて並ぶ単語を、片手のみを使用、5本の指が届く範囲で押さえて会話をつくり出し、会話が途切れるまで続けるというゲーム。上方へ向かえば向かう程難しくなるというこのゲーム、その警告も無視して早速上方から始めてみると。できあがったのは、"Squid Robot Committee Constitution Done"(イカ型ロボット委員会が憲法を制定)。SFになってしまいました……。作品はIvan Gonzalezの『Holding Conversations』。
ヘッセの小説で紹介される、音楽と数学にもとづく符号と式を用いて、あらゆる学問や芸術の内容を理解したり表現したりする言語ゲーム“ガラス玉遊戯"から発想を得たCharles Cameronの『Hipbone』。とはいえ実はそんなにお固いものではなく、“腰骨"というタイトルから想像できるように、腰骨に大腿骨が繋がって大腿骨に頸骨が繋がって……と、まず一人がアイデアを図表に書き込み他がそれに応えて関連する言葉を書き込んでいくというシンプルなもの。幾何学的な図表のパターンは様々で、最大15人ぐらいまで参加できるゲーム。早く済ませれば15分、のんびりすれば3日くらいかかるとか。
頭を使った後は人間サイズのbadger(アナグマ、通称ムジナ)の巣穴!で癒されます。靴を脱いで巣穴を抜けると2匹のアナグマではなく、2人の子供がゲーム中。どんなものにも登れて、どんな方角にも跳べてまるでリスになった気分!のこの作品はCat Burton & Nate Gallardoの『Forager』。草や木の実を食してみたり、巣を作ったり、気づいたら冬眠の準備を。はまると人間社会に復帰出来ないかも?
川辺で一休みと外にでると、水兵になりきった子供達のチームが数百メートル程先に見える相手方を双眼鏡で伺っているのが目に入ります。子供の一人が巨大な升目に配置された大砲のような駒を一つ動かすと相手方の合図により攻撃を逃れた事が分かり、次の瞬間チームは歓声をあげて“MISS"(回避)の看板を掲げます。こちらは卓上ゲームの海戦ゲーム(Battleship)をチームゲームにアレンジした、劇団Mufti Gamesの『Massive Battleships』。実は海戦ゲームは第一次大戦中に生まれたといわれる、紙と鉛筆のみで2人で行なうゲームで、升目を引いた紙を海戦図として、相手方に知られないよう配備した軍艦を魚雷攻撃によって先に沈めた方が勝ち。
さて、最後は戦争ゲームで締めくくりましたが、戦争もまた、ゲームの延長だと私は考えます。国際法の規制などにより昔のように単に勝った国が領土や利権を得て栄えるという事はなくなった今、利を得るのは武器商人や軍事産業、それを支える権力者や関係者のみですから、それにしては戦争はあまりにも大きすぎる犠牲を伴います。戦いたいという本能が人にあるとしても、それを押さえて回避することができる理性や知性も人は備えているはずです。
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com