噛み合わない話。
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.71
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
プライベートでは、住んでいるマンションの管理組合の組合長というか理事長みたいなのをまかされていたりします。 今年1年間だけですが。
あまりやる事も無いだろうと思って、持ち回りなので軽く引き受けたら、結構やる事があるものです。少し面食らってしまいました。 毎月一度理事会があり、役員の方と管理会社の方と集まって会議があります。
修繕計画に基づいて設備の取り替えをしたり、新しい決まりを作ったり、管理費から積み立てられている資金からの支払いを承認したり、議事録をファイルして次の年の人たちのために資料を残したり。です。 結構時間を取られるし面倒くさい。みなさんやっていらっしゃるんだから仕方ないですけどね。
そんな中、理事会が行われ、その日の大きな議題は、駐車場の立体駐車の重機が、計画上では交換の時期になったので全て入れ替える工事をしたい。ということでありました。 管理会社の担当者が、立体駐車場の重機の会社の人数人とお待ちになっていました。
マンションの一階のエントランスで、元々置いてあるソファとパイプ椅子を出しての会議がはじまりました。
司会の管理会社の人が説明をはじめました。 「今回の最初の議題は、立体駐車場の機械が交換時期になりましたので、その工事について承認頂きたく理事の方に集まっていただきました。」 こちらの方々はその施行会社の株式会社○○の方々です。と業者の人たちを紹介されてそれぞれから名刺を頂きました。 紹介された業者の方から、見積書が一冊渡されて、それをみると総額で600万円くらいかかる大規模な修繕工事になっていました。ふ~ん。と。
そこで疑問がわいたので聞いて見る事にしました。
「ところで駐車場の機材はなにかもう不都合が出始めているんですか?」
「いいえ、ゴム部分が経年劣化をしているだけで、なんの故障もみられません」
「え?何の故障も無いのに交換しちゃうんですか?」
「はい、交換時期が来ていますから」
というやり取りになった。予想通りでした。そうくるよなあ。 で、プロデューサーの気質がむくむく頭をもたげてきたのでまた聞いてみた。
「交換時期というのは、何を根拠に決められているんでしょうか?例えば、同じ機材でも、うちのマンションのように完全に屋内で稼働している機材と、ほかのマンションのように外で雨ざらしの状態の物とで交換時期は違うんでしょうか?」
「交換時期の条件なんて実はないんですよね〜。だいたい15年でよそのマンションは交換していますから、だいたいそんなもんです。設計した人がそう定めたんでしょうね。」
「あら、そうですか。震災後の点検でも異常は無かったんですよね。で、どこも壊れていないのに交換する。と、その理由は交換時期と定められているからだ。という事ですね。交換しないと何か不都合はありますか?」
その業者のほかの人が口を挟む 「今、交換しないで故障したら、私どもは責任取れませんが」
「ん?故障するような要因が見られるんですか?そうでも無いという話ですよね。もしくは、新品に全部交換したら絶対故障とか不具合は出ないんでしょうか?というか、その前にうちの駐車場の現状はこうで、すでにここが故障しているとか、故障した経歴がある。とか、こういうところが痛んでいるから、交換した方がいい。とか、ここは全く問題がないから交換しなくていいとか。そういう調査資料をおみせいただけないもんでしょうか?そういう資料をみせて頂かないと、見積書を一冊見せられて、ああそうですかって管理費の積み立ての中から600万円を払います、はい。って判子押すわけにはいかないと思うんですけど」
と言い放ったところで、僕に対して、こいつ嫌な奴だなあ。という空気が漂い始めました。黙ってはんこ押せよ。みたいな。うわあ、嫌われちゃったなあ。 「僕、変な事言ってます?」 みんなが「いえいえ」とクビを横に振るんだけど、なんか停滞した空気。
「じゃあ、話の矛先を変えてみましょう。例えば、このマンションの修繕計画に乗っ取って、駐車場の工事に関してなんらかの売り上げが設定されていて、それを予定通りに進めないと売り上げ目標が達成されない。とか、そういう大人の都合みたいな事はあるんですか?それで誰かがすげえ困る。とか。そういう話は理解しなくも無いですよ」
「そんなことは一切ございません」
管理会社の人が割って入る。 「櫻木さん、こういうことは一定の計画に基づいてやっているものですから、その辺を理解いただいて•••」
「お伺いしますが、その一定の計画には去年の大地震とかも入っているのでしょうか?そんな訳ないですよね。このマンションに非常用の飲料水のストックはあるんでしょうか?携帯トイレとか、非常食とか、懐中電灯のストックはありますか?監視カメラもVHSのテープにカメラが4カ所だけで映像が録画されていますが、今はハードディスクの時代なんじゃないんでしょうか?とかなんとか、偉そうに言いたくないんですけど、そういう事を先にやらなきゃいけない様な変化が起きちゃったんじゃないのかなあ?と思ったりするんですけど。正義感を振りかざしたい訳でもなく、突き詰めて行けばどうでもいい事かもしれないのだけれど、釈然としないからいろいろ聞いてみただけなんですけど。」
結果的には、駐車場の現状を調査して(していなかったのだけど)、ほかのマンションの同じ機材の現状などを報告してもらってから決める。という事になりました。非常用の飲料水のストックなども先に買う事になったのですが、その日の一連のやり取りで、なんとなく嫌な気持ちになってしまいました。
なんでしょうかね?黙って判子を押せばよかったのか?公共工事を否定したどこかの県知事の様な気分なのか?実はこの緩い感じが景気を上向かせたりしてきたんだろうか?こういう事が積み重なって経済が停滞するのだろうか?
仕事だったら、今や、コストダウンは最優先時効なので、こういう明らかに無駄な事はバッサバサカットして行きたい物ですが、今回の様な件は、なかなか判断が難しい物です。 まあ、何があってもこんなせこい事で社会に影響を及ぼす訳も無く、正しいと思う事を言うべきだ。ということで自分を納得させるしかないんですけどね。それが仕事じゃなくてマンションの管理組合だったとしても。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV