実力と真剣さ

番長プロデューサーの世直しコラム Vol.128
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

先月、しくじり先生の話を書いたらいきなりしくじりました。
最近の撮影で、思ったほどうまく進めることができなくて、
演出家をはじめ、自分で招集したいろんな人に迷惑をかけてしまいました。
関わってくれた優秀なスタッフのおかげで辛うじていいCMは上がりましたが、
自分の中で釈然としない毎日が今も続いています。
マネージメント側がこんな体たらくでもいいものが上がるなら
俺なんかいらねぇじゃん、とさえ思ったダメな仕事をしてしまいました。

悩んで、何年か前にネットで話題になった語録を思いつき、検索して探し出して読み返してみたら思い当たることがやっぱり書いてありました。

「正範語録」という名前の言葉です。
誰がお書きになったのかはわからないみたいですが、沁みました。

以下

実力の差は努力の差
実績の差は責任感の差
人格の差は苦労の差
判断力の差は情報の差

真剣だと知恵が出る
中途半端だと愚痴が出る
いい加減だと言い訳ばかり

本気でするから大抵のことはできる
本気でするから何でも面白い
本気でしているから誰かが助けてくれる

と書いてある。 僕がいつもここに偉そうに書いている事じゃないか。
耳が痛い。あー。

ここにも書いてあるように、物事をうまくいかせられる人は実力と真剣さを、いつも両方高い次元で出力すると思うのです。

実力。
これまで努力してきた成功と失敗の経験。人脈、間の取り方、話の持って行き方。情報と分析力と決断力。人の気持ちを理解する洞察力。 体力。心技体のうちの技と体。

真剣さ
とにかく、自分で矢面に立って事を遂行する覚悟。
誰かの陰に隠れてクスクス笑っているんじゃなくて自分で困難に立ち向かう気合い。何が怖いか敏感に察知するレーダーを作動させている事。
そして必ず自分でなんらかの対処をする。
心技体のうちの圧倒的な心の部分。

その二つが両立できないとやっぱり仕事はうまくいかないんだ、と痛感しました。

今回の失敗は、
マネージメントと称して若いスタッフに大役を任せてしまった事。
気を使ったふうに、口出しをしないという体でちゃんと見守らなかったことにある。若い奴らは相当頑張っていたから逆に言えなかったのか?

尊敬する先輩のプロデューサーから教えてもらった「マインドのマネージメント」ができていなかったのです。
気持ちは真剣なはずだったのに、やってることは結果的に真剣ではなかった。
独りよがりな真剣さだったんです。何があっても責任者は僕なのに。

こういう時は毎日嫌な予感がするものです。
もともと持っている、自分の中で感度を上げていったはずのレーダーは
ちゃんと警報を鳴らしているんですね。
身方からも助けてくれという電波が出ていたんです。
それに真剣に耳を貸さなかったんでしょう。対処すればよかった。
痛み出して知った傷は深いです。

それをリカバーするために本気で走りました。現場でも文字通り走った。
アップルウォッチの示す運動の量がバスケの練習の日の数値より多いくらいでした。ごめんなさいごめんなさいと思いながら走った。 歯を食いしばっていたら奥歯が欠けるくらい、自分に悔しい思いをしました。
プロデューサーがマネージメントを失敗したのが悔しくて仕方なかったのです。
なんの言い訳もできませんでした。

何年かに一度そういう仕事がある。まだまだダメだなあという仕事。
来年50歳になるのにまだこの程度かよ。
言い方が難しいのだが、色んなことに気を使って腰が引けてるような気分の時に必ずそういうことになる。
組織のバランスも考えなきゃいけないけれど、自分で何でもかんでもやるわけにはいかないし、ご時世的には休みも必要なんだけど、人が望む自分の商品価値を考えると最終的には要所は自分でやらなきゃダメなんだな。反省文だな、こりゃ。

うちの制作部、みんな、ごめんね。
次はちゃんとやります。それしか言えねえ。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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