映像2017.11.22

「冬将軍って、誰なのさ」

とりとめないわ 第27話
とりとめないわ 門田陽

「明日の天気はどうですかね?」「明日になればわかるよ」

10月の終わりに南太平洋にあるバヌアツ共和国のタント島に行きました。仕事(撮影)です。乾季と雨季との合い間のロケでしたのでどうしても天気が気になります。冒頭の会話はそんな心配ばかりをしている僕と地元でいちばん天気に詳しいと言われている漁師さんとのやり取りです。いま客観的にみるとずいぶん哲学的というか禅問答というかジョークにも聞こえますが、僕も漁師さんも至ってまじめに話したまんまです。

そりゃそうです。僕たちが訪ねた村は電気どころかガスも水道も来ていません。もちろんテレビもスマホもゲームもないですし、人口80人の村人は全員服も着ていません。下半身は男性は筒のようなもので、女性は蓑(みの)で隠してはいますが上半身は裸。子どもたちは全裸です(※写真①)。日の出と共に起きて日が暮れると寝る生活。晴れの日、男たちは狩りに出かけ女たちは家事を行い作物を育て、子どもたちは大人の仕事を手伝います。雨の日はただひたすら屋根の下で雨が止むのを待ち(※写真②)、自然に逆らうことなく暮らす人たちに天気予報などまるで無意味なのです。村にはお店はもちろん学校も病院も全く何もありません。

写真①

写真②

不思議なのは、僕たちは島の中心地のロッジに泊まったのですがそこだと電気はありますし(といっても昼間はほぼ停電でしたが)WiFiも繋がるのです。その場所から車で約1時間走るといきなりのタイムスリップ。村では計4日間撮影しましたが、まるでテーマパークにいる感覚で後半はややウキウキしていたのです。慣れは恐いです。本気で可能なら彼らの村に民泊(意味違うかな?)するのも面白そうだとまで思った程です。

が、そんな慣れは錯覚だと最終日に思い知らされます。日々通ううちに僕たち日本人スタッフと現地の何人かは気持ちの距離が近付いて与太話もできるくらいになりました。なかでもネスポくんという20歳くらいの(みんな正確な生年月日は知らないので年齢は推定だそうです)青年とは打ち解けました。彼は飛びぬけて明るく社交的でそして信じられないほどの運動神経の持ち主です。素手で大木を垂直に登れます。しなやかで全身バネとは彼のことです。冗談でなくボルダリングをやれば世界クラスのはずです(ほんとにやらせてみたいです)。その彼に「村の女の子の中で誰が好きなの?」と尋ねたところ「村の女の子にそんな気持ちにはなれない」と言うのです。「またまた、照れちゃって。ほんとは?」としつこく聞くと「だってみんな兄弟姉妹だから」という答え。80人全員がほんとの意味でのファミリーだと言うのです。さらに「お母さんはわかるけどお父さんは誰なのかわからない」と言うのです。ショーーック!!(クイズタイムショックのショーーック!!のエコーが頭を駆け巡りました)彼のコトバは僕の中の人生観の柱をクラクラ揺らしました。世界は狭いようでまだまだ広くて人間はいろいろです。

さて、日本に戻るとまたいつもの日常です。 今年は秋が短くて急に寒くなりました。テレビでは各局こぞってお天気お姉さんやらお天気イケメンやらアマタツやらが嬉々として冬将軍の到来を告げています。職業柄なのか、 冬将軍って、どんな人かなとついつい想像してしまいます。冬といえば北。北の将軍といえば例のあの人。いやいや、違うな。将軍といえば暴れん坊。暴れん坊といえばやっぱり 北の例のあの人。いやいやいや、それは違うって。「控え控えー、この方をどなたと心得る!恐れ多くも先の冬将軍、水戸・・・」って、スミマセン。このボケ一度言ってみたかっただけです(苦笑)。

ところで、冬将軍もだけど鍋奉行って、誰なのさという話はまたの機会に。

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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