職種その他2017.12.13

過去ー現在、全て一度に! Lisson Gallery + The Vinyl Factory


Vol.66
London Art Trail 笠原みゆき

“Test Patterns[n°12], 2017 ” ©池田亮司 今回の会場はThe vinyl Factory Store Studiosで地下鉄テンプル駅から徒歩5分。

 

「まずは靴を脱いで列に並んでください。」ええっ靴脱ぐの!今日の気温は摂氏一度。ギャラリー内は外と変わらない寒さで天気予報では明日は雪。渋々ブーツを脱いで千鳥足で列に並びます。中に入るとモールスコードのような電子音に合わせて変化するバーコードのような光のパターンが空間を覆っていて…。今回はリッソンギャラリー(Lisson Gallery)のヴァイナルファクトリー(The Vinyl Factory第32回でも紹介)とのコラボレーションによるオフサイト展示プロジェクト、Everything at Onceの紹介です。

竹の子のようにニョキニョキ出てきては消えて行く、様変わりの激しい現代美術ギャラリーの中で、リッソンは1967年に開館したロンドンでも最も長く続く老舗の現代美術ギャラリーのひとつ。ロンドンに二つ、ニューヨークにもギャラリーを持つリッソンですが、今回はヴァイナルファクトリーの広大な展示空間を使い、そんなギャラリーの作家のうちの25人の作品を一挙に公開!という贅沢な展示。更にヴァイナルファクトリーによる5名のコミッション作品が加わっています。
さて、先ほどの作品は池田亮司の2006年から行なっているインスタレーション作品“Test Patterns”のシリーズの“Test Patterns[n°12], 2017 ”。変化するバーコードのような視覚パターンの周波を読み取った音がリアルタイムで流れるという仕組み。

Ai
“Odyssey, 2016” ©Ai Weiwei

 

60メートルの壁紙には現在でも戦火の中東や、世界中で問題になっている難民キャンプ、そして数千年の時を超えてギリシャやエジプトの奴隷の様子まで詳細に描かれていてまるで絵巻物のよう!作品は中国人作家で活動家、Ai Weiweiの“Odyssey, 2016”。でもこのWeiweiの壁紙を部屋に貼ることができるお金持ちの中には、先行きの不安に怯えながら屋外でクリスマスや年越しを迎えなければならない難民キャンプの人々のことを想ったりしない人もいるんだろうなあと考えると悲しくなります。


“The Black Pot, 2013” ©Nathalie Djurberg(アニメ担当) & Nans Berg(音楽担当)空間のイメージを伝えるために4つの写真をつなげてみました。

 


凍りつく夜空に広がる光と音の祭典を見ているような気分にさせるのはスイス人デュオ、Nathalie Djurbergと Nans Berg の“The Black Pot, 2013”。水の雫のようなものが弾け泡になると今度は真っ赤な炎の塊に変わり溶け出して……。実はクレイアニメーションでスクリーン4面に投射された映像は空間の内側からも外側からも鑑賞できるようになっています。


“Al Araba Al Madfuna lll, 2015(23分)“ ©Wael Shawky“

 

これはどこかの惑星の物語?X線使い、SFの世界のような映像はエジプト人作家、Wael Shawkyの “Al Araba Al Madfuna lll, 2015(23分)“。エジプトの小さな村で、お告げを聞いたシャーマンは地下トンネルを掘ることを指示します。そのトンネルは王(ファラオ)の財宝の眠る古代寺院につながっていて…。演じているのは全て子供で、アラビア語の大人の声で吹きかえられています。

”Breath, 2003”(一部分) ©Shirazeh Houshiary

 

霧のかかった空間。折り重なりながら聞こえてくるのは異なる言語、宗教の祈りの声。そこに浮き上がるのは銀河の星屑? 星屑は吐息のように広がり、収縮し、消えては現れます。インスタレーションはイラン人作家、Shirazeh Houshiaryの“Breath, 2003”。 声は仏教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒の祈りの声を織り交ぜたコーラス。

“Tools, 1986” ©Tony Cragg

 

ロケットのようなトーテンポールがテムズ川を望むロンドンの夜景を背景に聳えます。作品はイギリス人作家、Tony Craggの“Tools, 1986”。Creggは古くからのリッソンのギャラリー作家の一人でこの作品は何と30年前の作品 。タイヤや車のパーツなどを積み上げた作品ですが、現在ではこんな感じの塔、どこかのビルの上に載っていそうですね。

“Love is the Message, the Message is Death(2016)(7分)” ©Arthur Jafa

 

最後はこちら、ビルの屋上に仮設された、巨大なテントの中に入ってみます。巧妙に編集され、軽快なヒップポップにのって中央に映し出されているのはバスケットボールの試合やコンサート、人々の祈りや会合、暴動、警官の民間人へ発砲、オバマ大統領の演説など。作品はアメリカ人作家、Arthur Jafaの “Love is the Message, the Message is Death(2016)(7分)”。 現代版アメリカ黒人社会の歴史をコンパクトにまとめた映像で、会場のテントは実はアメリカの南の州において、一般的にキリスト教徒の会合に使われる仮設テントを模倣したものだとか。布教の場がミニシネマに早変わりです。 



以前はイギリスを代表するミニマル、コンセプチャルアートの大家のギャラリーという印象が大きかったリッソンギャラリー。でも最近はちょっと変わってきた?と感じさせる展示でした。



Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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