おじいさんは27歳

とりとめないわ 第31話
とりとめないわ 門田陽

シャララーラ、シャラララーラ♪とザ・ハイロウズの「日曜日よりの使者」のフレーズを口ずさみながら桜満開の陽気に釣られてつい外に出てしまった日曜日の昼下がり。出て数分でクシャミが止まらず数えること15回を超えたところでたまらず部屋に引き返して花粉症のクスリを飲みました。治まるまで一旦自宅待機。テレビを付けると春の選抜高校野球の富山商業対智弁和歌山戦の最中でした。胸に大きく旧漢字の「智辯」のユニフォームは甲子園ではすっかりお馴染みの光景です。8回の裏4対2で智弁和歌山がリードしていました。よし、落ち着きました。散歩のやり直しです。

本日二度目の外出はお気に入りのチューリップハットを目深にかぶり、「花粉・ウイルスを99%カット」がキャッチフレーズのパーフェクトブロックマスク(エリエール)で目から下をがっちりガードして未解決事件の犯人のような出で立ちで京橋公園(※写真①)まで足を延ばしました。京橋公園には桜もありますが僕の楽しみはこの公園ではなく隣接した道です。ここから東銀座の歌舞伎座に向かう「木挽町仲通り(※写真②)」とさらに小道を一本挟んだ「木挽町通り(※写真③)」という二本の道を目的なく歩くのが大の好物なのです。企画やコピーに詰まったとき、ここを歩いている途中でパッと解決したことがあって勝手にマイパワースポットな道なのです。

写真①

写真②

写真③

距離で言うと端から端までおそらく5~600メートルくらいしかないと思いますが、気になる路地(※写真④)やレトロな佇まいの飲み屋さん(※写真⑤)やバナナジュースしかないお店(※写真⑥)や妙に魅かれるロゴのシャッター(※写真⑦)やこじんまりとかわいい鳥居(※写真⑧)などが所々にあってこれがどれもなかなかいい味で癒されるのです。はい、早速この日もここでグッとくるモノを見つけました!

写真④

写真⑤

写真⑥

写真⑦

写真⑧

このポスト(※写真⑨)!!いやー、久々に見ました。「ペンキぬりたて注意」の貼り紙。子どもの頃はよく見た記憶があるけれど最近見ないのは気のせいでしょうか。独特のちょっと甘そうなペンキの匂いが漂っています。う~~~、触りたい衝動がふつふつと湧いてきます。イカンイカンイカン、触っちゃダメダメ。う~~~~~~~~、触りぇ~~~~~~~~~。

写真⑨

見ちゃダメと言われると見たくなるし、開けちゃダメと言われると開けたくなるし、食べちゃダメと言われると食べたくなるし、やっちゃダメと言われるとやってしまうのが人情です。大昔から語り継がれているおとぎ話にもそんなストーリーがいくつもあります。「決して中を覗いてはいけません」と言われるけど見てしまう鶴の恩返し。「この箱は決して開けてはいけません」と言われるけど開けてしまう浦島太郎。思えば浦島太郎のタイトルって、「亀の恩返し」でもいいですよね。鶴と亀。この二つの話って、繋がっているのかもしれませんよ。

むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんがいました。寒い雪の日、おじいさんは町へたきぎを売りに出かけた帰りに田んぼで罠にかかっている一羽の鶴を助けました。
その夜、この話をおばあさんにしていると、トントン、トントンと戸をたたく音がしたので扉を開けると雪の中に美しい娘が立っています。娘は「道に迷ったので泊めてもらえませんか」と頼んできました。おじいさんとおばあさんは不憫に思い「こんなところでよければ」と泊めてあげました。それから数日、外はずっと大雪で戸も開けられません。娘は二人に「決して中は覗かないでください」と言って奥の部屋に籠りはた織りを始めました。
三日後、娘は素晴らしい錦を織り上げました。
雪も止み、おじいさんがその錦を町に売りに行くと高い値段で売れました。その後娘は何枚も錦を織り、暮らしはラクになりました。 そんなある日、はたを織る娘のことが心配で決して覗いてはいけない部屋をおじいさんが覗くとそこには一羽の鶴が自分の羽毛を抜いてはたを織っていたのです。見られたことに気付いた鶴は「私はおじいさんに助けられた鶴です。ご恩をお返しにと思い娘になっていましたが、正体を見られてはもうお別れですね」と、立ち去ろうとする鶴に突然おじいさんが飛び掛かり強引に押さえつけ「キミがどんな正体でも構わないからうちの娘に、いや違う、オレの愛人になってくれ」と頼んだのです。

このおじいさん、実は玉手箱を開けてしまった浦島太郎だったのです。「御伽草子」の設定によれば浦島太郎の年齢は24歳。それに竜宮城での3年間を足して27歳。世間体を考えおばあさんと一緒になった浦島は、見た目は年寄りですが頭脳と体力は27歳の悶々とした青年だったのです。それからおじいさんと娘は結ばれ、おばあさんと三人で仲良く暮らしましたとさ。と、くだらない妄想をして本日のお散歩終了。

ところで、外から戻ってテレビを付けたらまだ「智辯」のユニフォームが映っています(※写真⑩)。え!?あれから追いつかれて延長戦にでもなったのかと思ったら智弁和歌山ではなく次の試合の智弁学園対日大山形戦だったという話はまたの機会に。

写真⑩

Profile of 門田 陽(かどた あきら)

門田陽

電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

続きを読む
TOP