今年のウェビー賞より:#MeTooと#NeverAgainムーブメント
- Vol.115
- Dig it! NYC 藤井さゆり
毎年5月に授賞式が行われる「ウェビー賞」、今年私が注目したのは「スペシャルアチーブメント(特別功績)」のウェビー・パーソン・オブイヤーとして選ばれたスーザン・ファウラー(Susan Fowler)さんと、ウェビー・スペシャル・モーメントとして選ばれたマーチ・フォー・アワ・ライブズ(March For Our Lives)。
ウェビー賞(Webby Awards)とは:
ウェブ・インターネット業界で最も権威ある賞と言われ、「スペシャルアチーブメント(特別功績)」「ウェブ」「オンラインフィルムとビデオ」「広告とメディア、PR」「モバイルサイトとアプリ」「ソーシャル」「ポッドキャストとデジタルオーディオ」、そして今年新設の「ゲーム」という8つのカテゴリーに分けられ、その中からさらに業界別やテーマ別といった部門に分けられて賞が与えられます。「スペシャルアチーブメント」は、その年、インターネット上で素晴らしい発展を遂げた個人または団体が選ばれ、その功績が称えられます。
賞の選出は、期間中エントリーされたものの中から、国際デジタルサイエンスアカデミー(IADAS)によって各部門ごとにノミネートが選ばれ、最終的にノミネートの中から、アカデミーによって選ばれるWebby Award Winnerと、一般投票によって選ばれるPeople’s Voiceの2種類の受賞があります(スペシャルアチーブメント以外)。1997年に第1回目が開催、第22回目となる今年は、70カ国から13,000件以上のエントリーがあり464組が受賞、授賞式は2018年5月14日、ニューヨークで行われました。
スーザン・ファウラーさんは、以前、自動車の配車サービス・アプリを運営するUber(※ウーバー:世界600カ国で展開され、企業価値699億円と言われるテクノロジーカンパニー)にエンジニアとして勤務していた時に上司から受けたセクシャルハラスメントの実録をブログに書き、それがソーシャルメディアで拡散され、#MeTooムーブメントを加速させるきっかけとなった人物。
スーザン・ファウラーさんのブログより:
Reflecting On One Very, Very Strange Year At Uber
#MeTooムーブメントとは、セクシャルハラスメントを受けたことのある人が#MeToo(私も)というハッシュタグを使ってソーシャルメディア上で自身の経験を告白していく、というもの。
#MeTooムーブメントによって、セクシャルハラスメントが明るみになり、加害者が逮捕されたという事件があります。2017年10月、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが行ってきたセクシャルハラスメントが、#MeTooムーブメントによって、グウィネス・パルトロウやアンジェリーナ・ジョリーといった女優たちが告発、ワインスタインはその後職を追われ、逮捕に至っています。
このハリウッドの#MeTooムーブメントは、スポーツ界にも影響を及ぼしました。アメリカ女子体操選手のオリンピック金メダリスト、マッケイラ・マロニーさんも、ツイッター上で#MeTooを使い、女子オリンピック代表チームのスポーツ医師だったラリー・ナッソーによって行われてきた性的虐待を告白。実際にラリー・ナッソーは150人以上の女子選手より被害告発をされており、17年に渡り行ってきた性的暴行罪により最長175年の禁錮判決が出ています。
結果、Uberも、ファウラーさんのブログと#MeTooムーブメントの影響力により内部調査が行われ、社内のセクシャルハラスメントに関与した社員20人以上を解雇、これ以降も、俳優、セレブ、政治家への告発が相次いでいます。
以下のビデオは、ウェビー賞授賞式でのファウラーさんのスピーチです。(一昨年のウェビー賞で、キム・カーダシアンを「モダン・モバイル・セレブリティ」として紹介した、テクノロジー・ジャーナリストのカラ・スウィッシャーさんが今回もプレゼンターとして冒頭に登場しています)
ウェビー賞ではおなじみ、スピーチは5つの単語のみというルールで、ファウラーさんは「Words can change the world」(言葉は世界を変える)と語りました。
Kara Swisher presents the 22nd Annual Webby Person of the Year Award to Susan Fowler
The Webby Awards - Youtube
そして「ウェビー・スペシャル・モーメント」として選ばれた「マーチ・フォー・アワ・ライブズ」ですが、彼らは、アメリカの銃規制を訴える現役高校生が中心となったNPO組織です。
アメリカでは、1999年に起きたコロンバイン高校の事件から数えても多くの銃乱射が各地で起こっており、死亡者が出ているにも関わらず、多くの政治家が全米ライフル協会(NRA)より多額の寄付を受け取っていることから、銃規制が進まない現状があります。
そして2018年に2月に起こった、フロリダ州の高校で教職員と生徒ら17人が死亡した19歳の少年による銃乱射事件を受けて、生き延びた生徒たちが「もうたくさんだ!」「大人たちがやらないなら生徒たちが銃と闘う」と、ソーシャルメディア上で銃規制を求め#NeverAgain(二度とない)と呼びかけました。
このムーブメントは全米に広がり、翌月の2018年の3月、全米の生徒たちを中心に「マーチ・フォー・アワ・ライブズ(私たちの命の行進)」が立ち上げられ、首都ワシントンで集会が行われました。「マーチ・フォー・アワ・ライブズ」によって、銃規制を求めるムーブメントは、アメリカでもこれまでに例がないほど広がりを見せています。
以下は、ウェビー賞授賞式で流れた「マーチ・フォー・アワ・ライブズ」に賛同する生徒たちの声と中心メンバーによるスピーチ。「Stand up and speak out.(立ち上がって声を上げよう)」「We want change!(私たちは変わることを望んでいる)」「We refuse to stay silent.(私たちは黙ることを拒否する)」「Kids shouldn’t fear being shot.(子供たちは撃たれることを恐れるべきではない)」 と若者たちから発せられる言葉に、力強さ、悲痛な叫びが感じられます。
DeRay McKesson introduces the March For Our Lives moment at the 22nd Annual Webby Awards
The Webby Awards - Youtube
「マーチ・フォー・アワ・ライブズ」の中心メンバーである、フロリダ銃乱射事件で友人を失ったエマ・ゴンザレスさんの日本語訳付きスピーチをご紹介します。このビデオでは削除されていますが、スピーチ開始からアラーム音が鳴るまでの6分20秒、エマさんは何も話さず黙っていました。この6分20秒は、犯人が銃乱射をし続た時間だそうです。
【フロリダ高校乱射】エマ・ゴンザレスさんの演説
BBC News Japan - Youtube
以下のビデオは、フロリダのタウンホールで行われた、同事件で生き延びた生徒たち、犠牲者の両親、教師と、フロリダ州上院議員のマルコ・ルビオ氏とのCNNによる公開ディベート。
同じく「マーチ・フォー・アワ・ライブズ」の中心メンバーであり、同事件で友人を失ったキャメロン・カスキーさんが、「今後、NRAから、寄付を受けないと今ここで言うことができますか?」と訴えている(3:00〜)のですが、現役高校生にも関わらず大物政治家を前に怯むこともなしに、堂々と意見をしていて本当に素晴らしいです。しかし、ルビオ氏は「学校を安全な場所にし、気が狂った銃殺者から銃を遠ざけるための法律が作られるようにサポートする、しかし、私を支援してくれる人たちからの寄付は受け取る」と言っていて、銃乱射事件は「銃規制をしないことが問題」ではなく「銃を扱ったのが気が狂った人であったこと」、かつ、「NRAからの寄付は受け取る」という姿勢のようです。
Survivor to Rubio: Will you reject NRA money?
CNN - Youtube
#MeTooムーブメントは、アメリカだけではなく、日本語での「#MeToo日本」ムーブメントも動きを見せています。セクハラ、女性差別発言といった問題は、昨今、日本でもよくニュースになっていますね。ちょっと前なら「会社が黙認、言われても我慢、うまく受け流せ」といった風潮で、こんなに明るみになっていなかったかもしれません。ポジティブに考えると、よくニュースになっているというのは「そう言う行為は許すべきではない、罰せられるべき」という社会に変わってきているからだと思います。
また、アメリカの銃社会ですが、日本から見ると「アメリカは銃があるから怖い」と、とても脅威に感じることでしょう。そう思うのは仕方がないことですが、アメリカは少しずつ銃規制に関して変わり始めている、と思っています。
#MeTooムーブメントも#NeverAgainムーブメントも、共通することは「声を上げる」こと。社会的に地位のある団体や人に「声を上げる」というのは、とても勇気のいることです。しかし、インターネットを介して、同じ思いや目的を持つ他者と繋がり、それを見た誰かが賛同またサポートしてくれることによって、それがムーブメントになれば変化をもたらすことができる、と証明してくれた今回の受賞。このような変化をもたらした、インターネット、ソーシャルメディアにも恩恵を感じられずにはいられません。
これを書いていて思い出しましたが、約9年前、アメリカに来て最初に就職した会社(アメリカの企業でしたがその部署は日本人のみでした)で、同じ部署の先輩たちから社内いじめ、パワハラを受けた経験があります。その本人たちは覚えてないと思いますが、髪型についてとても失礼なことを言われたり、勤務時間中に仕事とは関係のないことを強要されたり、仕事でミスをした後に仕事を全くさせてもらえず、罰としてレポートのようなものをずっと書かせられたことがありました。毎日本当に辛く、会社のトイレや家で泣いていたことを記憶しています。9年前の出来事ですが、はっきりとその人たちの名前を思い出すことができます。
今回の#MeTooムーブメントで、1980年代、1990年代にセクシャルハラスメントをされたと告発するケースも見られるのですが、相手側の言い訳として「そんな昔のことは覚えていない」もしくは「したかもしれないが、あの時は許される時代だった」と言われがちなんですよね。でも、傷を受けた方はちゃんと覚えているんです。
小さいですが、私の中での#MeTooムーブメントということで、ここに記しておきます。
(参考記事一覧)
The Webby Awards - webbyawards.com
March For Our Lives - marchforourlives.com
Vox:
Gwyneth Paltrow and Angelina Jolie join the growing list of Harvey Weinstein’s accusers
Young women reported Larry Nassar for decades. No one took them seriously — until now.
The Guardian:
Uber fires more than 20 employees after sexual harassment investigation
CNN Politics:
Transcript: Stoneman students' questions to lawmakers and the NRA at the CNN town hall
Business Insider:
The 26 most valuable private tech companies in the world
Profile of 藤井さゆり
東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
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