オーストリア語は複雑? Austrian Cultural Forum London
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- Vol.72
- London Art Trail 笠原みゆき
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オーストリア大使館の入り口
ナイツブリッジの高級ショピング街の裏の閑静な住宅街に入り、出た先は紅白のストライプの国旗のかかったオーストリア大使館。大使館には国際文化交流を目的としたイヴェントスペース、Austrian Cultual Fotum London があり、現在そこで Language Strategies と題した展示が現在行われています。地下鉄ナイツブリッジ駅から徒歩5分。
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“ACTUAL Parachute, 2017" ©Alexander Jackson Wyatt
このご時世に大使館とくれば、警備員による持ち物チェックにX線スキャンでしょう?と思いきや、ベルを押すと若いオーストリア人女性が現れ、「展示会ですね。中へどうぞ。」と意外にすんなり。階段を登っていくと、天井からふわりと落ちてきているのはパラシュート。パラシュートには“ACTUAL" という文字が書かれています。そういえば落書きという言葉の語源は「落書(らくしょ)=天から降ってきた言葉」って意味だったっけ?「現実=Actual」がパラシュートで落ちてくるなんて考えてみるとちょっと楽しい世界。作品は Alexander Jackson Wyattの “ACTUAL Parachute, 2017"。
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“Postcards from Nowhere, 2017" ©Shao-Jie Lin
下の階へ行って見ます。ずらりと並ぶ白いポストカード。よくみるとインクの跡が見え、紙一枚一枚が手漉き。作品は112枚の英国入国カードを粉砕し再生した、Shao-Jie Linの “Postcards from Nowhere, 2017"。入国カードっていよいよ外国に着いたんだという実感と期待の一方、審査をされるぞという不安でいつもドキドキしますが、実は112という数は2016年度における英国への入国拒否をされた人の1日の平均数に当たるとか。 なにも書かれていない沈黙の白いカードが複雑な地政を語ります。
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“Du bist nicht gerade in Anordnung plotzlich de (2018)"
©Andrea Maurer
台風か何かで壊された広告看板?でも看板だけじゃなく、その文字までバラバラに!? 見る人の気を引くために誇張や捏造、誤報も少なくない広告掲示板や新聞の見出し。そんなマスメデイアの作り出す言葉を砕き、無意味な記号に仕立て上げた作品は Andrea Maurer の“Du bist nicht gerade in Anordnung plotzlich de (2018)"。
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“Integration: No Thanks! (2018)" ©Marika Schmied
今度は上階へ。中央にはグランドピアノが置かれ、天井からは硝子のシャンデリアの吊るされた部屋。壁にはなんだかそれに不釣り合いなポスターが所狭しと貼られています。ポスターは街頭デモなどの宣伝に使われそうな移民問題や人種差別問題を取り上げた政治色の強いもの。これらは実在のポスターではなく、アーティストで活動家でもある Marika Schmied が、Academy of Fine ArtsViennaのPost-Conceptual Art Practices (PCAP)コースの学生や講師とワークショップを通して制作したコラボレーション作品、“Integration: No Thanks! (2018)"。
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“Integration: No Thanks! (2018)" ©Marika Schmied
今回の展示はオーストリアのアーティストと英国在住のアーティストによるグループ展で、言論の自由を視覚芸術で表現するという試みでした。右派政権の強いイメージのあるオーストリアですが、あえて大使館というお堅い場所でこういった社会性のある作品を見せるということに、国の文化的に自由な気質が現れていて、是非一度オーストリアを訪れて見たいものだと思わせました。
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
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©Jenny Matthews
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com