KNOCK KNOCK, そこにいるのは誰? @South London Gallery + Fire Station
- Vol.77
- London Art Trail 笠原みゆき
オーバーグラウンドのペッカムライ駅を降り大通りを西へ向かうと19世紀に建てられた煉瓦と赤の鉄筋作りの消防署が見えてきます。でも消防署の窓は虹色に輝いていて何か変? そう、実はここはアートギャラリーで、向かいにあるSouth London Gallery(第30回で紹介)の別館として先月オープンしたばかり。今回はこの別館と本館で現在行われている “KNOCK KNOCK. Humour in Contemporary Art”の紹介です。
早速消防署中に入ると虹色の光に巻かれてセミヌードで寝転んでいるのは?ごろりと横たわっているのは美しい女性ではなく腹の出た醜い親父ピエロ。そのふてぶてしい様子には滑稽というより苛立ちを感じてしまう?作品はUgo Rondinone の “If There were Anywhere but Desert, Friday, 2002”。
障子に目あり?なんだか誰かに見つめられている感じがして壁を見ると、子供の身の丈ぐらいの位置に、時々眉をしかめながら瞼をゆっくり開いたり閉じたりしている機械仕掛けの“目”があるではありませんか。 また目玉をキョロキョロさせている様子が愛らしく、しばらく見ていると“目”は、うたた寝を始めて‥。作品はRyan Ganderの “Diminae Illud Opus Populare, 2016”
誰から先に煮えたぎった釜に入るか討論している野菜達。後ろで「早くしてくれないかなぁ。」と見守るナイフ。 野菜達は八つ裂きにされてスープにされちゃうのにお風呂に入る順番を決めるようになんだか嬉しそう。作品は擬人化した野菜の水彩画シリーズの一つでAmelie von Wulffeの “Untitled, 2011- 2015”。
子供の時お弁当のおにぎりなんかが包んであったアルミ箔でよく人形とか変なものつくったなあ、などと子供の遊び心を呼び覚ます、アルミ箔でできた等身大のギターリストはTom Friedmanの “Untitled(silver foil guitarist), 2004”。
こちらもまた子供心に帰るカラフルで可愛らしいモビール。Danielle Deanのインスタレーション、“Keep out of reach of children, version2 2018”。タイトルは、そのまま「子供の手の届かない所に保管してください」という、危険物などに書かれているお馴染みの注意書き。モビールを見るとぶら下がっている切り抜きは火や水などの自然の元素、動物や虫などの生き物で、子供に危ないから近づかないようにいっているのか、子供(人)が近づくとそれらを破壊するからそれらを守るために近づくなといっているのか混乱させられます。
道を渡って、本館へ。入り口で出迎えるのは自転車になった羊!人の数より羊の方が多いと言われる、ウェールズ出身のBedwyr Williamsの自虐的作品、“Fucking Indred Welsh Sheepshgger, 2018”。
さて、今回の展示のタイトルにもなっている、“Knock Knock”ですが、古くはシェイクスピアのマクベスが起源だと言われる、イギリスの駄洒落を使った言葉遊び。これを視覚美術で表現したのがポップアートの先駆者、Roy Lichtensteinで、作品は1975年に制作された “Knock, Knock, poster”。
上からの視線を感じて屋根の桁を見ると、あれ、鳩があんなにたくさんとまっている。1,2, 3…40羽!ギャラリーに鳩の巣があったっけ?実はこちらも作品で、Maurizio Cattelanの “Others, 2011”。人を食ったようなこの作品、 最初のバージョンは1997年のヴェニスビエンナーレで展示されました。
おっと、上ばかり見ていると危ない!床にノコギリが!こちらはCeal Floyer の“Saw,2015”。床に黒い線が引かれているだけでくり抜かれている訳ではないのだけど、やっぱり円の真ん中には立ちたくないなと思ってしまいますね。
ずらりと並ぶ50枚以上の白黒写真の絵葉書。ひとつひとつ違う写真ですが、よく見るとどれにも行進するように並ぶブーツが写っています。ブーツ達は野宿をしたりしながら野山を抜け、砂漠を渡り農村を超えて、街に入ると映画館や酒場、スーパーへ行ったり、遊園地でローラーコースターに乗って遊ぶなどと、まるでブーツのロードムービーのようなこの作品はEleanor Antinの “100 Boots (uncancelled set of postcards #20), 1971-1973”。Antinはこの絵葉書を1000人以上の個人に送りました。当時少なかった女性のコンセプチャルアートの先駆けとなった作品。
雪のように白い肌、漆黒の目と髪にディズニーでお馴染みの衣装に身を包んだPilvi Takalaは白雪姫そのもの。そしてTakalaはその出で立ちでパリのディズニーランドに向かいます。入場ゲート付近では早速家族連れや子供達に囲まれ、サインや記念撮影を求められます。やがて警備員やスタッフがやってきて「中に本物の白雪姫がいるから君は入っちゃいけない」と彼女を排除しようと試みます。周囲の人々も「本物?」「本物じゃない?」と真贋を問い始めるものの、 記念撮影やサインは欲しいとまた群がってきます。見ていて笑いの止まらないこの映像作品はPilvi Takalaの“Real Snow White, 2009”。
現代美術の中のユーモアに焦点を当てた今回の展示、36名の作家の作品が展示されていましたが、その中のほんの一部を駆け足で紹介しました。最後にノックノックジョークをひとつ。 Knock knock(トントン) Who’s there? ( 誰?) Art (アート) Art who? (アート誰?) R2-D2/Artoo-Detoo (アールツーディーツー)
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com