伝説上の仲間達に出会う?! @The Curve – Barbican Centre
- Vol.79
- London Art Trail 笠原 みゆき
地下鉄バービカン駅を降りてSF映画に出てきそうな薄暗いトンネルを抜けるとコンクリートの重厚なブルータリスト建築の建物が見えてきます。見渡せば周辺一帯も皆この建築スタイル。今回はここ、バービカンセンターにあるギャラリーの一つであるThe Curveより、Francis Upritchardの個展、”Wetwang Slack”を紹介します。
第二次世界大戦の爆撃でほぼ廃墟となったロンドンのシティにあるバービカン地区は60年から80年代にかけて大規模な再開発が行われ、その一角にバービカンセンターは当時1億6100万ポンドの莫大な建設費を投じて、1982年にオープンしました。ヨーロッパ最大級の複合文化施設として美術ギャラリーにコンサートホール、劇場に映画館も備えています。センターには入り口が沢山あって、The Curveの入り口は何処だったっけといつも迷ってしまうのですが、その名の通り、蹄鉄型のカーブを描いた部屋を目指します。
中に入るとピンクのポールの上に案山子のように立っているカラフルな等身大の像や巨大な手?などが見えます。こちらは麻の葉模様のチャンチャンコに空色のポップなサングラスをかけたキャラクター。手や顔には刺青のようなものも?作品は”Happy Sad(2018)”
釈迦と観音を合わせたような像は、手は4本、足は3本のミステリアスな”Hot Future(2018)”。この像の一つ手前に並ぶ黒い“手”の像には“Hand of Japan(2018)”というタイトルがついていて何か日本と関係がありそう?
様々な帽子がお店のディスプレイのように綺麗に並べられてあります。西洋風のものから東洋風、民族調のものなど実に様々で、手作り帽子のその数は43個。 先ほどの像が被っていた帽子も含まれています。一つ一つタイトルがついていますが、数が多いのでここでは省略させていただきます。
今度は壷がずらり。どれも蓋があり、擬人化された顔がついていて、ユーモラス。
巨大化したジャコメッティの像を思わせるような手が長~い、足が長~いカップルの像が大きな岩の上に立っています。タイトルはそのまま、”Standing: Long Legs, Long Arms (2018)。 “Long Legs, Long Arms ” を日本語に訳すと、「手長、足長!」。ここでようやく、日本の昔話「手長足長」の巨人の話からインスピレーションを得た作品であることがわかります。そう考えていくと、最初に出てきた仏のような像はもしかして巨人を壷に封じ込めたお坊さんで、先ほどの壷はその巨人の入った壷なのかも?と勝手な想像が膨らみます。
馬と人が一体になったケンタウロス?大英博物館に収められている、アテネのパルテノン神殿のレリーフでしょうか。ギリシャ遺跡を彷彿とさせる彫刻作品は”Celebrating Centaur and Weapons (2018)”。ところで先ほどの手長足長といい、このレリーフといい、よく見るとゴムみたいな、でもまるで木のつるようにうねったテクスチャーのある自然素材でできています。実はこの素材はブラジルにあるBalataという、野生のゴムの木から抽出した樹脂で、水中で凝固するという不思議なゴムです。第二次大戦中は国内の重要な軍事用ゴムとして生産され、機械のベルトやゴルフボールなどの材料としてアメリカへも大量に輸出されていました。しかし、1950年代半ば入り、合成ゴムが発明され、次第にその需要が減ると、Balataのゴムは地元の工芸品の材料として使われるようになっていったそうです。赤道直下の熱帯雨林に生えるこのゴムの木は現在では地元のコミュニティーによって管理され、地元の限られた工芸家のみが限られた量を使うことが許されています。Upritchardはそんな中、2004年以来地元の工芸家と親交を重ね、そのコミュニティー外で唯一、 Balataを使うことを許された作家になったのだそうです。
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com