スマートフォンとクラウドコンピューティング
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.45
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
最近話題のスマートフォンを、買いました。
なんというか、まあ、時代はここまできたんだなあという感想です。すごい。
僕は、もともと携帯情報端末(電子手帳)の愛用者で、15年くらい前にAppleのNewtonという製品を買って以降、ザウルス、パームパイロット、Clie、iPod touchなどの携帯情報端末を使いつづけてきました。
CMのプロデューサーをやっていると、軽く2000件を超えるアドレスデータを管理しなければいけないのです。「いけないのです」は言い過ぎかもしれませんが、僕は、何かがあったとき、すぐに、その関係者に電話できる準備が必要で、いかに捕まえにくい人とホットラインをもっているかがプロデューサーの価値を決めるという持論を持っています。
携帯情報端末は平たく言うと電子手帳の機能、住所録、スケジュール表、メモなどの機能に、パソコンとつないで同期したり、いろんなソフトウェアを追加することができて、写真が見られたり、音楽が聴けたりする道具。システム手帳やノートパソコンを持ち歩くより便利で軽いから、そういう僕にとっては利点の多い道具でした。
一方、近年めざましく進化する携帯電話は従来の「電話」という機能のほかに、アドレス帳や住所録をはじめ携帯情報端末的な機能をどんどん増やしました。当然のごとく、携帯電話と携帯情報端末の境界線が曖昧になってきて、というか、ついに携帯電話の機能が携帯情報端末の機能を飲み込んでしまい、たどりついたのがスマートフォンです。
「スマートフォン」とは「PDA(携帯情報端末)機能付き多機能携帯電話」という意味です。携帯電話に、電子手帳の機能と、ワープロや表計算などの軽いパソコンの機能、便利なソフトウェア、デジタルカメラ、インターネット機能と電子メールがついたものと考えていいでしょう。
いやはや、僕が携帯情報端末を使い始めた頃、こうなったらいいのになあと思っていたものを、携帯電話が実現してくれちゃったという感じです。
なにがすごいかって、携帯からパソコンのメアドにきているメールをチェックできるし、携帯単体のメールも使えます。インターネットも見られる。音楽も動画も手の上で聴けるし、見られる。GPS機能がついていて、カーナビの代わりにもなる。住所録に登録した住所で地図を表示することができるし、撮った写真はその場でインターネットにアップロードできる。いろんなソフトウエア(ゲームも含む)がインターネット上に公開されていて、それを無料か安価でダウンロードして使うこともできる。新聞を読むこともできれば、体脂肪を測ることもできる。これがすべて携帯電話についている機能なのだから、ちょっと恐ろしいくらいですね。
時を同じくして、インターネット上でも動きが起きました。
今まで、パソコンは、自分のハードディスクに値段の高いアプリケーションソフトをインストールして、いろんな機能を駆使し、莫大な量のデータを扱う道具でした。だから、メーカーはハードディスクの大きさやCPUの処理速度のスペック競争をしてきたわけです。インターネットは、そのパソコンとパソコンの間をデータやメッセージが通過する経路にしか過ぎませんでした。
ところが今、ユーザーが使うアプリケーションソフトは個々のパソコンにインストールするのではなく、インターネットのサーバーにサービスとして置いてあるものを使う流れが生まれています。パソコンやスマートフォンなどの端末からインターネットにアクセスし、インターネット上で作業をして結果だけを見る。つくったデータすらネット上に保存する。つまり、インターネットのネットワーク自体が大きなコンピューターで、そのモニターとしてパソコンや携帯電話を使うという考え方です。 パソコンのあり方も、大きく変化しつつあるのです。
これは「クラウドコンピューティング」と呼ばれています。クラウドコンピューティングの利点は「いつでも、どこでも、サーバー上のアプリケーションやデータベースを利用できる」こと。
ポケットにいれて持ち運べるスマートフォンの利点と、膨大な量のソフトやデータは個々にストックする必要がないというクラウドコンピューティングの利点はみごとに合致するのです。
具体的に言うと、イタリアンが食べたくなったとき、今までは、せっせと書き込んだアドレス帳に登録してある数少ないレストランの中から、電話番号を探して、電話して予約を入れていました。クラウドコンピューティングを使うと、スマートフォンにダウンロードしたレストラン検索ソフトを立ち上げて、たとえば「イタリアン」と検索すると、近くのイタリアンレストランが一覧で表示され、連絡先はおろか、メニュー写真や営業時間、他人の感想、ランク付けまで見られ、地図も表示されてメールで予約の問い合わせもできるわけです。
こういう便利さは、iPhoneブームの要因でもあります。検索サイトのGoogleは、アンドロイドという携帯電話用のシステムを開発して、インターネットとスマートフォンの間でのクラウドコンピューティングを活用しやすいものにしました。Google携帯と呼ばれているものがそれです。
グーグルの最高経営責任者のエリック・シュミット氏が、カリフォルニアで開かれた「サーチエンジン戦略会議」の中でこう言いました。
「ブラウザの種類も、アクセス手段も、パソコンかマックか、携帯電話かも無関係です。“雲(クラウド)”のような、巨大なインターネットにアクセスすれば、その利益、恵みの雨を受けられる時代になっています」
クラウドコンピューティングという言葉は、その発言から生まれたと言われています。概念自体はパソコンが誕生する前の1960年代には生まれていて、特に新しい考え方ではないそうですが、インターネットや携帯電話の急速な普及でいきなり現実的になってきました。
一般的に「クラウド的」と言われるサービスとしては、グーグルの「Google Maps」、「Gmail」、ヤフーの「Flickr」、アップルの「MobileMe」、セールスフォース・ドットコムのCRMシステムなどがあります。
自分の持っているスマートフォンをもじもじといじっていると、いろんなことに気づきます。最近はやりのTwitterなども、実はスマートフォンで使うのが一番使いやすいというのがわかります。いつでもどこでも、つぶやけるし眺められるからです。YouTubeで動画もなんなく見ることができます。企業のサイトもiPhoneやアンドロイド携帯でダウンロードできる動画を広告として用意して、ぞくぞく動画をアップロードしています。
ソフトをダウンロードするサイトを訪ねると、なにかの機能と広告を融合させたような企業のソフトが多数見受けられます。
動画はテレビのものだけではなくなったということに、気づきます。パソコン自体の機能、周辺技術と周辺状況、すべてが素晴らしく進化し、動く画像を閲覧する上での障害はどんどん低くなっています。コストも下がり、フォーマットの制限も、考え方の制限もなくなっています。そういう環境下での、コマーシャルフィルムの制作のリテラシーを磨くのが急務だと強く感じています。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV