リーダー論

番長プロデューサーの世直しコラムVol.42
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
基本的に政治に関してはあまり書きたくないのだが、なんというか腑に落ちないことが多いので話のきっかけにしてみようと思う。 政権交代前、日本の首相はころころと代わるので困ると思っていた。政権与党が代わってもやっぱりその傾向は変わらず、また短期間で首相が交代した。 事件が度重なり、批判が強まり、首相を辞めたくもなっちゃったのもわかる気はするんですが。 似たようなことが、サッカーの日本代表にも起きている。サッカーの監督は大変だ。勝てば選手のおかげ、負ければ監督の責任。よくそう言われるが、本当にそういう扱いだ。これを書いている今は、ワールドカップの直前で、日本代表は本番前のテストマッチに負けつづけ、世の中は戦犯さがしに躍起になっている。調子の悪い選手がやり玉にあがるのはわかるが、なぜか必ず出てくるのが監督の進退の問題である。 日本の首相もサッカー日本代表の監督も立場がよく似ていて、調子の悪い状況がつづくと、「辞めろ、辞めろ」、「責任を取れ」と騒がれる。で、「やってらんねえよ」と辞任します会見になるのだが、辞めたら辞めたで「無責任だ。ちゃんと責任を果たせ」という騒がれ方が待っている。 実は、僕は、ここで使われる「責任」という言葉にとても違和感を持っているのである。 印象を述べます。鳩山首相は、戦う相手がアメリカ政府なのに、日本人に手足を縛られ、「ほら、戦ってこい」とリングに上げられたボクサーに見えました。キックもパンチも出せず、助けてくれよっていう視線をセコンドに向けたら、ものすごい勢いでセコンドが怒っている。「公約を守れよ、てめえ!」と。大風呂敷を広げて、政権まで交代させちゃったのだから、言った分の責任はあるんだろう。しかし、自分たちのボスが、どう見ても勝てるような状況でもないのに、助けようともせず、嘘つきだと非難しているだけでいいのだろうか。しかも非難している人たちは、明らかに「自分が同じ立場に立つのなんか、ごめんだぜ」と思っている。 サッカーの岡田監督も、悲惨。オシムが急に倒れて、学閥に縛られた日本サッカー協会があわてて人選して、この状況ではこの人以外にないと持ち上げられて、しぶしぶ引き受けた監督職だったはずだが、今は辞めろ辞めろの大合唱である。本心では「やってられない」だろう。 「ワールドカップでベスト4を目標にする」と言ったのも、彼らしく控えめな表現だと思う。 フランスワールドカップの時に、岡ちゃんは「ビッグマウスといわれるかもしれないが、目標は1勝1敗1分けで」と言った。どこがビッグマウスなのか? ワールドカップに出る国の目標はどこでも「優勝」なんじゃないのか? と海外のメディアは冷ややかに日本代表を笑った。 岡ちゃんにはそのときの反省もあるだろう。だからベスト4。 それでも目標は優勝と言わないところが、奥ゆかしい。競技というものは勝とうと思ってやるのだから、全試合勝ちに行く気持ちで、目標は「優勝」である。それを、今さらとっつかまえて「これでベスト4になれるのか?」という論調も変だ。そういう記事は、スポーツをやったことのない奴が書いたんじゃないかと思う。 大体、負けちゃうのは選手のパフォーマンスが悪いからだ。岡ちゃんが率いているのは中学生のチームではなく、海外で活躍するようなプロの選手たちのチームである。岡ちゃんの標榜するサッカーをその立派な選手たちが普通に実現したら、そんなに負けてばかりではないと思うのです。むちゃくちゃ無理なことを、岡ちゃんは求めているわけではない。 今の日本で「責任を取る」ということは「その立場を辞する」ということと同義になっている。辞めたらなにか責任を取ったことになるのだろうか? 「いろいろやったけど俺には無理だ。もうやらねえ」って途中で投げ出すことが責任を取るということなら、子供たちは、みんな嫌なことを投げ出すのを正当化しはじめるぞ。と、心配になります。 また、そんな時、リーダーの資質とかリーダー論とか戦国時代の武将は素晴らしかったとかなんやかんや言い出して、あの人には求心力があったとか、この人には人望があったとか、忍耐強かったとか、過去の立派な人たちの偉業がもてはやされる。だけど、そんなことばっかり言っている人たちは、気味の悪い集団であると気づいた方がいい。 リーダーっていうのは、平たく言えば、その集団がめざす場所と、現状と、何をすればめざす場所に到達できるのかを理解して、そのためにとる行動を決める。何かに失敗しても、失敗した理由は何で、どうすればよかったのか、リカバリーは出来るのか、次の手段はなんなのかを考え、発表する。実行するための人選をする。それができればいいんじゃないかと思う。 求心力や人望や忍耐強さっていうのはあるに越したことはないが、何をしたらいいかわからないリーダーに忍耐強さだけあったても、むしろ迷惑じゃないか。あの人辛そうだけど何もしないなあ、大丈夫かなあという心配だけが膨らみますよ。 鳩山さんも岡ちゃんも、もっとちゃんとインフォメーションをすればよかったのかもしれません。 ある種の理想を掲げて、本気で対処してきましたが、現状はこうで、こういう問題が生じている。それへの対処は、こういうことをこういう順番でしていく。それにはこれくらいのコストがかかりこれくらいのリスクを負うが、それが最良の手段だと思われるので、国民の皆さまに理解をいただきたい。と。 直訳すると、お前らなんかより凄い時間をかけて考えて、日本で一番そのことに詳しい人間が集まって、いろんな角度から検証して、行きたいところへ行く最短距離はこの方法だと判断したんだから、がたがた言ってんじゃねえ。それでもダメなら、別の手段をものすごい勢いで考えるからちょっと待ってろ。俺とお前は違う人間なんだから、お前の思うとおりになるわけねえじゃねえか。お前らが俺を選んだんだから、選んだ人間も選んだ責任を感じて、任期くらいは俺の判断でやらせろ。ダメだったら次は選ぶな。それでいいじゃねえか。それでも嫌なら、お前が日本人辞めろ。 アメリカのホワイトハウスで、大統領の報道官は、毎日、記者を集めてそういうことばっかり言ってるような気がする。「わかってるでしょ? 責任っていうのはお互いにあるんですよねえ」と。 リーダーじゃない人たちが、リーダーじゃない人の責任として、そういうところから考え直していかない限り、なにもよい方向には向かないだろうし、組織も進歩しないんじゃないだろうか? 日本でリーダーになるのは大変なことだ。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~

  • 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
  • 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
  • 2000年にプロデューサーに昇格。
  • 2009年 社名がリフトに変更。

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。

<主なプロデュース作品>

  • AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
  • 日清食品 焼きそばU.F.O
  • マルコメ 料亭の味
  • リーブ21 企業CM
  • コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
  • クレイジーケンバンドPV
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