安定志向
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.41
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
「CMプロデューサー」という肩書きは「航空機関士」と同じように、時代の趨勢から見て、消えていく運命にあるものだと思う。 もはや、従来の意味でのテレビCMはブランディング/コミュニケーションにおける映像コンテンツの一部分にすぎず、その役割は今後劇的に減少していくだろう。 しかし、一方でオンラインコンテンツプロバイダー上でのCMや、YouTubeに特化した表現、地デジとオンラインをつなげる映像など、「CM」という概念は大きく広がってもいく。 よって、「意志があるならば」、CMプロデューサーは、テレビCMから、動画サイト、携帯コンテンツ、ショート&ロングムービーまでブランディング/コミュニケーションの全方位の映像制作を担い、なおかつ理想的にはその映像がおかれる「場」や、おかれる「仕組み」、「つながり方」自体から360度の発想が出来る「コミュニケーションプロデューサー」へ進化しなければならない。 ただ、進化しなければ、極端に言えば、3年後には違う職を探さなくてはいけないか、極端に低い賃金を受け入れなくてはならないだろう。
CMの制作会社も時代の変化とともに、役割もどんどん変わっていきます。既得権益もどんどんなくなっていく。どんどん進化していくと、世の中はどんどんイーブンになっていきます。つまり、何年やってきたベテランだと威張ってみても、いつ新しい勢力にひっくりかえされちゃうかわからない。そういう時代になってきている。僕はこの仕事を丁稚のときも含めて20年やっていることになるが、自分の立場に満足し、安心できたことなんか一度もありません。むしろ、どんどん大きくなる不安と闘いつづけた日々です。 一生懸命準備をし、チャンスをもらえるように動き、チャンスをいただいたらそれをものにして、次のチャンスへつなぐ。同時に、次の人材にチャンスを与える。そうやって間口を広げていくしか生き残る道はありません。金や名声は、その結果に応じてついてくるものです。できなかったらロッカールームを片付けるだけ。それが生きていくということではないかと、仕事を通して学びました。 なんの仕事をしてもそうだと思うのです。プロだから。 「年功序列や終身雇用なら、結果を出さなくてもお金はもらいつづけることができるんじゃないか?」というのは、そもそもおかしい考えでしょう。図々しいんだよ。 しょぼくれた奴らは、すぐに自分のことを全体の話にすり替えて、自分が好きなことをしない理由を言いたがりますね。 「好きなことがあり、その夢を追いかけるのは、選ばれた一部の人間だ。そういう人ばかりだと世の中は成り立たなくなる」と。「だから、大多数のみんなと一緒に、人に言われた仕事を一生懸命に分担して取り組むんだ。それの何が悪い? 嫌いな仕事をする人も必要なんだ」と。 村上龍の本に、こういう一節がありました。子供はいつか大人になり、仕事をしなければいけないのです。仕事は私たちに、生活のためのお金と生きる意味で必要な充実感を与えてくれます。お金と充実感、それはひょっとしたら、この世の中でもっとも大事な物かもしれません。子供がいつか大人になり、何らかの方法で生活の糧を得なければならないとしたら、できれば嫌いなことをいやいやながらやるよりも、好きで好きでしょうがないことをやるほうがいいに決まっています。 そして、自分は何が好きか、自分の適性は何か、自分の才能は何に向いているのか、そう言ったことを考えるための重要な武器が好奇心です。好奇心を失ってしまうと、世界を知ろうというエネルギーも一緒に失ってしまいます。
自分の好きなことはなんなのか? それで飯が食えるのか? それはどうやったらできるのか? そういうことを本気で考えることを最初から放棄して「不況だから安定した仕事がいい」って考えるのはやめたらどうですか? と思います。自分の人生なんだから一生懸命、満足できることを追い求めようよ、と。挑戦してみて、まったく歯が立たず、リングにはいつくばって、もう嫌だと思えたなら、そこで、嫌な仕事を受け入れてもいいじゃねえか。 若いうちから「終身雇用や年功序列とかいう安定志向を望む」と言っちゃうのは、生きていくことを放棄した状況としか思えないのです。完全に安定した状態の、いつまでもつづく仕事も、国家も、企業も、あまつさえ文明、地球ですらないのだから。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV