「道草を食い過ぎた日」
梅雨の中休みの日の昼休み。少し時間の余裕があったので西新橋でいつも行列が絶えないラーメン屋さんにトライしようと向かう途中にあった児童公園の横を通ったとき、目の端に引っ掛かるものが映ったので立ち止まりました。道草です。
気になったのはこの光景(※写真①)。正面にまわるとこの姿(※写真②)。そうです!二宮金次郎の銅像です。昭和の頃には小学校を中心にどこの街でも見かけたのですが、平成になって「子どもに労働はおかしい」や「時代にそぐわない教育方針」「戦時教育」、さらには「歩きスマホの助長」などといういかにもネット的な批判の嵐でその数は激減。それにしても二宮金次郎。子供時代の有名なエピソードは知っているけれどそれから先、何をした人だったかなぁ?きっと習ったはずですがまるで覚えていません。急に知りたくなって銅像の横のベンチに座ってスマホで二宮金次郎を調べると、なんと偶然にもその名もズバリ「二宮金次郎」という映画が恵比寿の写真美術館で上映中。これはもう行くしかないと方向転換、駅へ向かいました。
ウィークデーの午後にしてはなかなかの大入り。実在の人物を描くことに定評のある五十嵐匠監督の作品で、あっという間の113分。ふだんはあまり好まないどっしりしたタイプの映画でしたが素直に面白かったです。ただ僕の思っていた二宮金次郎像(この像は銅像の像でないですよ)とはまるで違う人の映画を観たという印象。子ども時代の例の薪を背負って本を読んでいた場面は僅かで大人になってからの物語です。
二宮金次郎(後に二宮尊徳)は一言で語ると凄い人でした。江戸時代の後期、飢饉で苦しむ地方をまわりその生涯をかけて600を超える村々を復興させた人。この人が今、復興大臣ならきっと大活躍したはずです。ただ、映画の最中からいくつか違和感がありました。特にこの三つ。まずは主人公の役者(合田雅吏)が長身のイケメンだったこと。貧しいなか勉強に励む銅像のイメージからか、小柄で瘦せっぽちな人物を想像していました。次に金次郎の美しい妻なみ(田中美里)が何のなれそめもなく唐突に登場したこと。物語の本質とは関係ないとはいえ、主人公のパートナーですし、ふつうはもう少し描かれるはず。謎でした。そしてもう一つは金次郎の特異な行動。仕事をなまける村人の家々をまわり覗き穴から暮らしを監視する様子。これはヤバイでしょ。ストーカーというか今の時代でなくてもアウトなふるまい。その辺が気になって仕方なくて映画館を出るとすぐに本屋さんへ向かいました。
この場合の本屋さんはもちろんここです。
玄関入口で二宮金次郎像が迎えてくれる八重洲ブックセンター(※写真③)。一目散に6階の児童書伝記のコーナーへ。ありました、二宮金次郎(※写真④)。隣にあった春日局もちょっとそそられますが、集英社版とポプラ社版の2冊を購入。先ほどの三つの違和感がスッキリしました。
まずは二宮金次郎はデカかったのです。182センチ94キロ。足は28センチという江戸時代でなくても大男です。次に美人の妻「なみ」は二番目の奥さんだったのです。最初の妻「きと」は金次郎の日頃のムチャについていけず逃げ出しています。失礼ながら急に親近感がわきました。そして覗き穴の話は本当だったようです。良く言えば人間っぽい人というか、かなり変人だったのでしょう。ま、普通の人だったら伝記にはならないですもんね。妙にいろいろ納得のいった一日でした。もう一つだけ映画について付け加えます。
脇役ですが村人の五平を演じた柳沢慎吾がとてもよかったです。柳沢慎吾は常に「柳沢慎吾」というキャラクターを演じているかのようにも見えますが、この映画での五平はすばらしくて、いいものを観たという心持ちになりました。
ところで、そんなこんなで気が付くと昼休みはとっくに終わり夕暮れどきでラーメンどころか食ったのは道草だけという話はまたの機会に。(文中敬称略)
Profile of 門田 陽(かどた あきら)
電通第5CRプランニング局 クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。 TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。