職種その他2019.07.10

消せない今? Ann Bean @England & Co

vol.85
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

How things used be now 2012 ©Ann Bean

地下鉄ピカデリーサーカス駅を出て、大通りのショッピングストリーに沿って西へ、ロイヤルアカデミーの手前のSackville Streetに入ると右手の赤煉瓦の建物の窓から覗くのはなんと暮石!葬儀屋さんじゃあないよね…いいえ、ギャラリーです。今回はこの暮石に刻まれた「How Things Used to be Now」と題したAnn Beanの個展をEngland & Coよりお伝えします。

How things used be now 2013 ©Ann Bean

さて、暮石の隣には墓地の写真。写真にはゴーストのように墓地をさまようビーンの姿が。よく見ると例の暮石もそこに立っているではありませんか!北ロンドンにあるユダヤ人墓地で、ユダヤ人のルーツを持つ彼女と何か関係があるのでしょうか。

Five Drawings 1990 – 2000 ©Ann Bean

Ann Beanは70年代から現在に至るまで活動を続けている英国のパフォーマンスアーチストとして知られています。制作過程を作品とするビーン、こちらはドローイングパフォーマンスシリーズの一つ(Five Drawings 1990 – 2000)で、花火を使って紙を焼きながら渦巻き模様を描くパフォーマンス。時々パンパンと手で火を消しながら花火の燃え尽きるまでぐるぐる描いていきます。

Heat (Performed for camera 1977) 1974 – 1983 ©Ann Bean

火、水、地、風などの自然の要素を使った危険を伴うライブパフォーマンスも数多く行なっており、こちらもその一つ、「Heat (Performed for camera 1977) 1974 – 1983。」。ガスバーナーを使い、ガラスが割れるまで燃やし続けるパフォーマンスで、今割れるか、割れるかと画面から目が離せません。当時ライブで観ていた観衆はさぞかし緊張したのでは?

Heat (Performed for camera 1977) 1974 – 1983 ©Ann Bean

こちらはそのパフォーマンス写真と砕けたガラスを組み合わせた作品。

Night Chant 2015 ©Ann Bean

山のように積まれた白いリボンの束は何メートル?100メートル以上あるのでしょうか。「Night Chant 2015」はリボンに言葉を綴ったパフォーマンス。ビーンは2013年と2014年の間に70年代から志を共にしてきた友である女性美術家五人を一気に亡くしました。Night Chantはそんな友人たちに捧げた作品。

Night Chant 2015 ©Ann Bean

こちらはそのパフォーマンスの映像作品の一場面。

Un-painting 2017 ©Ann Bean

Un-painting 2017 ©Ann Bean

またビーンは「erasure(消去)」という作品シリーズを続けています。こちらはそのシリーズの一つで、美術評論家Rob La Frenaisとのコラボレーションのパフォーマンス作品、「Un-painting 2017」。静かに語りかけながら、 背後の棚にずらりと並ぶA4サイズほどのキャンバスに自ら描いた自画像を次から次へと白く塗りつぶしていくビーン。 一方のクリティックはビーンの問いかけにコンピューターの画面に言葉を打ち出しながらロボットのような音声で答えます。

Un-painting 2017 ©Ann Bean

最後には自分自身も白く塗りつぶして「自分」を抹消? 失うこと、消すこと、破壊することによって今を捉えようとするビーンの作品。歳を重ねるごとに失うことの重みが増す中、精力的に活動を続けているビーンにこれからも注目していきたいと思います。

プロフィール
London Art Trail
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。 ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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