「事情が知りたい件。つまり事件」
「エッ~」に濁点がついたような自分の声とは思えない声が出ました。家の机に突っ伏したまま首から流れる汗の気持ち悪さで飛び起きました。時計を見ると18時を回っています。お昼にコンビニで買ったパンを食べたのが13時くらい。知らぬ間に5時間経過していました。この9月後半の3連休2日目のことです。前日の夜は地下鉄でウトウトしてしまいどこだかわからない駅で降りて最終電車で何とか家路に着きました。カラダがヘンです。が、原因はわかっています。いわゆる時差ボケ。片道14時間40分ノンストップ(飛行機って、そんなに燃料が持つんですね。知りませんでした)でメキシコシティから戻って来ました。
今回の仕事(ロケ)現場はメキシコシティからさらに飛行機で2時間のユカタン半島にあるメリダの街。「ゆか」という名前の大半の人は子どもの頃は「ゆかタン」だったかなぁ、とか思いながらの土地でしたが、ひと言で言うと「蒸し暑い」ところでした。何もしなくてもすぐに体がベタベタする街。そのせいなのかはわかりませんが人懐こくて温かい人たちに出会いました。
このメリダの街生まれのホセはやさしくって力持ち。彼は今回知り合ったロケバス(大型)のドライバーです。愛されキャラで地元での友達も多く、運転だけでなくエキストラの手配や現場でのトラブル処理まで大車輪の活躍をしてくれほんとに頼もしい存在でした。私生活では早くに結婚をして、美人で料理上手(ロケの途中でホセの家で手作りのタコスをごちそうになりました)な奥さんと4人の娘に囲まれています。ホセ以外全員女子。男の子も欲しかったそうですが、こればかりは授かりもの。ホセ同様若くて結婚した長女と次女にはそれぞれ二人ずつの子どもがいます。つまりホセには孫も4人いてこれがまた全員女子。さらに次女は最近離婚して子どもを連れて出戻ったためホセ家はいま1対6のダブルで姦しい男女7人物語真っ最中。逞しすぎる生活力です。
そのホセの腕には12-12-62というタトゥ―(※写真①)が入っています。1962年12月12日の意味でしょう。これを僕は勝手にホセの生年月日だと思い僕より年上なことに驚き、言葉は通じないですがそれなりの態度で接しました。でもどう見ても若いので通訳を兼ねたコーディネーターに聞いてもらったら52歳、少しですが年下。タトゥーはホセのご両親の結婚記念日なのだそうです。うん?自分のではなく両親?それはメキシコでは当たり前なのかと聞いたところ、そんなことはないそうです。事情は聞かなきゃわかりません。
事情がわからないと言えばこの夏の終わりに福岡から東京に戻る飛行機の中での出来事。
その日は夏休みの最終日で満席の機内。僕の座席は最後方から2列目の通路側。隣が空いていたのですが出発時間ギリギリでCAさんが小学校低学年の男の子を連れてきて「お隣よろしくお願いいたします」と言われました。その子に「一人か?」聞くと「前にいます」との返事。そっか、満席だから親とは別になってしまってかわいそうだなと思いましたが礼儀正しくしっかりしているので特に心配しませんでした。それが羽田着陸間際になってまたCAさんが来て、「つばさ君、左の通路から出てね。前でお父さんとお母さんが待っているから」と言うのです。え?お父さんとお母さん?違和感がありました。だとしたら普通、親のどちらかとつばさ君が一緒でここに座るのは親のどちらかだよな、という疑問。それからモヤモヤしました。どんな親なのか、せめて顔を見てやろうと降りるときにつばさ君のすぐ後ろに回りました。だんだん前が近まります。ちょっとドキドキ。すると前方席で笑顔のお父さんとお母さんと小さな弟と妹さらにお母さんの腕には赤ちゃんの5人でお兄ちゃん(つばさ君)を出迎えたのです。そういうことか!確かにこれなら後ろに一人で座るのはお兄ちゃんになるよな!ゴメンつばさ君、へんな想像をいっぱいしてしまった。でも何だか不思議ないい気分になりました。本当に事情は知らなきゃわかりません。
ところで、メリダの街ではVWビートルをよく目にしました(※写真②~㉑)。かつて都市伝説でビートルを見たら、その日幸せなことがあるというあの車がまだ現役バリバリで走っています。8泊11日の滞在中に軽く100台以上は目撃しましたが向こうもこちら(ロケバス)も走っていることが多いのでなかなかカメラで撮れません。あ!という間に何度もチャンスを逃しました(※写真㉒~㉔)。自分のまばたきがシャッターだったらいいのにと思うこともしばしば。待ち時間に道路の前でじっとスマホを構えているところを見られてしまったのでしょう。カメラマンの山田トモフミさんに「何を狙ってたんですか?」と聞かれ「VWビートル」と答えると、「ふ~ん、この街は多いですもんね」と言いながら見せてもらった一枚(※写真㉕)。プロには敵いませんと思ったけど言わなかった話はまたの機会に。