AR、VR、プロジェクションマッピングを使ったインスタレーション「Arcadia Earth」
先月の2019年9月23日〜29日まで、ニューヨークではClimate Week(クライメート・ウィーク)が開催されていました。クライメート・ウィークは、ニューヨーク市と国連が連携して開催しており、世界の人々が示している気候変動対策について、その方法を議論する場、期間となっています。期間中は気候変動に関する様々なイベントが催されます。
クライメート・ウィーク期間中、ニューヨークでの気候変動へのストライキの様子。
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タイムズスクエア付近のビルの明かりがグリーンに。
View this post on InstagramGreat to see so many buildings, as well as Times Square, go green for #ClimateWeekNYC
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ニューヨーク市長が地下鉄に乗って「この地球を守らなくてはならない!もっと人々の助けが必要です!」と訴える様子。
View this post on InstagramTaking the subway with #mayorblasio to the #climatestrike in support of #climateweeknyc
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期間中の9月23日には国連で「気候変動サミット」が開催され、前回のコラムで書いた16歳のスウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんも出席。スピーチでは、“世界が大変な危機に晒されているのに、経済発展やお金についてのことしか考えていない”と、大人たちへの怒りを露わに。
国連気候行動サミットにおけるグレタ・トゥーンベリさんのスピーチ(日本語字幕版)
国連広報センター (UNIC Tokyo)
クライメート・ウィークということもあり、ニューヨークでは気候変動に関する活発な動きがある中、その繋がりでたまたま見つけたのが「Arcadia Earth(アルカディア・アース)」というアートインスタレーション。
自然、植物、海、動物、生物、陸など地球に存在しているものをアートとして創作展示をした空間に、AR、VR、プロジェクションマッピングといった技術と重ね合わせることにより、地球に今、何が起こっているのか、そして、どうしたら地球を救うことができるのかを来場者に気づかせるというもの。
最初は、「AR、VR、プロジェクションマッピングを使ったアート展示」という部分に興味を引かれて行ったのですが、私にとっては結構、衝撃的なものでした。
ARCADIA EARTH NYC
Vimeo – ana
Arcadia Earth
Instagram@arcadiaearth
Arcadia Earth
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(以下に、地球環境について起こっている事柄、現状についての説明がありますが、これらは全て展示されてあるものからの情報です)
いくつかあるそれぞれの部屋を、別々のアーティストがテーマごとで表現している形になっており、順番通りにその部屋を巡って閲覧していきます。
部屋には至るところにARを使った仕掛けが用意されており、あらかじめ専用アプリをダウンロードしていないと楽しめない展示となっているため、事前にスマホへアプリをダウンロードすることは必須。持っていない人は、専用アプリがダウンロードされたタブレットを貸してもらえます。
入場前に説明を受けて中へ。最初の部屋では美しい海中の空間が広がっていました。ある場所で、専用のARアプリを起動してスマホ画面から見ると、サメや魚の群れが横切ります。その様子をすかさず専用ARアプリでビデオ撮影。アプリでビデオ撮影をしたものはライブラリに保存、もしくはSNSに投稿することができます。
専用のARアプリで映し出されたサメ(画像下左)
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— Sayuri Fujii (@sayurifujii) September 29, 2019
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最初は、美しい青い海を表現したアート空間に、スマホをかざすと不意に現れる魚の群れやクラゲに興奮。
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しかしよく見ると…
浮いているクラゲの左下に見える光っているものや、ぶら下がっているものは、瓶やペットボトルなどで作られたものとなっているのがわかるでしょうか。これは、海や川にはたくさんのペットボトルや瓶が投げ捨てられている、という現状を表しています。
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こちらは紫のライトに照らされた幻想的な白い洞穴。見た目にも美しいアートに見えるのですが、実はこれは全て白いレジ袋で作られています。
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上記ビデオの冒頭で出てくるキャプションにご注目。
In New York State over 23 billion plastic bags are used every year, thats around 44,000 a minute or the amount in this cave.
“ニューヨーク州では、毎年230億個のレジ袋が使用されている、これは1分間に約44,000個使われているということであり、また、ここの展示で使われているレジ袋の数である。”
にわかに信じられない数ですよね。最近ではショッピングバッグを持参して買い物をする人たちも増えましたが、ニューヨーク州だけでレジ袋がこんなに使われているとは…
このキャプションと、洞窟の下に浮遊しているおびただしい量のレジ袋は、専用のARアプリで映し出されます。
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こちらの部屋では、ところどころ切れた網らしきものがぶら下がっています。これは、魚を捕獲するために使用する漁業用網です。ARで映し出された、画面いっぱいに浮遊している丸いものと曲がりくねった断片、これはおそらく、魚を捕獲するために破壊され、散らばった珊瑚の一部と、漁業用の網の切れ端だと思われます。
魚の乱獲、混獲により、海の生物が危機に晒されている現状を表現しています。
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この現状を避けるためには、海藻類や貝類など、サスティナブルなものを選んで食べ、魚の消費量を少なくすることが解決策、ということ。
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「Plastic Tsunami(プラスティックの津波)」と題された部屋に入ると、ペットボトルやストロー、レジ袋などで作られた津波が目に飛び込んできました。
津波インスタレーションの周りには、ARで映し出された、浮き上がるレジ袋やストロー、ペットボトル、その横ではイルカが泳ぐ様子が。
アメリカでは、1年に400万〜1,200万トン(1分間にトラック一台分)というプラスチックが海に投げ捨てられているそうです。
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この部屋のテーマは「食べ物を無駄にしない」こと。
人が行う農産業のために、毎日、50,000エーカーを超える森林伐採が行われ、毎年、世界で作られる33%の食べ物が投棄されているそうです。
この現状を避けるためには、二酸化炭素を吸収する木を植えること、食べ物をコンポストすること、食べ残しをしない、など。
上記二つのビデオは同じ場所で撮影したものですが、上のビデオはiPhoneで普通にビデオ撮影したもので、下は専用ARアプリで撮影したもの。専用ARアプリで見ると、植物がニョキニョキと生えてくるのが見られます。これは、木(植物)を植えよう、という呼びかけが表現されています。
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この部屋は「肉類を少なく食べる」がテーマ。
1パウンド(およそ450グラム)の牛肉を製造するために、およそ14,000個のペットボトルの水を使うこと、畜産農業で使用するために、毎分、フットボールスタジオおよそ27個分以上の広さの森林を伐採しているという現状があるそうです。
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上記は、専用ARアプリで見られる映像。「今の肉類の消費を半分にすることで、車の運転をやめるよりも、CO2の放出を抑えることができる」というメッセージが出てきます。
他にもまだたくさんの部屋がありましたが、印象的な部分のみご紹介しました。
ビデオ撮影だけではこの展示の面白さが伝わりにくいとは思いますが、AR専用アプリを使ってのアート展示を閲覧することで、もっとアートに深く入れ、アーティストからのメッセージがより伝わってきましたし、地球環境の危機についての理解も進んだと思います。
環境問題はデータや専門用語などもあり、硬く語られることも多いので、このように、ARアプリなどのテクノロジーやアート表現と絡めた方法で伝えた方が人々に響くのでは、と思いました。
今回撮影はしませんでしたが、VRを体感できるスペースもありました。
Arcadia Earth
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地球環境や気候変動に関する問題について、もちろん知識としてはあります。ですが、このインスタレーションを通して、改めて問題を突きつけられたような気がしました。今の現状や地球に起こっていることは衝撃的でしたし、私自身も以前にはない気づきがありました。
ぜひこの展示をアメリカだけではなく世界中で、特に先進国で行ってほしいと思います。グレタさんが世界中のたくさんの人々の意識を動かしているように、地球が晒されている危機について、多くの人の意識が変わっていくのを感じています。