会って話さないと伝わらない。
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.73
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
会社の管理部の若い男の社員が、会社のフロアで会っても、目も合わせなければ挨拶もしない。しないというか、できない。いつもうつむいて歩いている。
だけど、そいつは自分が担当する会社の用件を一方的にメールで送りつけてくる。会社の書類をすぐに提出してください。とかそういうのだけど。
で、奴から送りつけられたメールの用件を完璧に無視していると 「あの件はやっていただけましたでしょうか?」 というメールが来る。 ばったり廊下で会っても、挨拶もしなければ口もきかないので、当然そのメールの用件の話をしてくることはない。
そうやって直接言わないから、そのメールをまた無視していると、 「期限がすぎているのでやっていただかないと困ります。決まりは守ってください。」 という内容のメールがくる。 そのメールには丁寧に管理部長や副社長にccがついている事が多い。 ちゃんと要請をしていますが聞いてもらえません。ってことか? それでも、相変わらず廊下ですれ違っても、そいつがその件について僕に話しかける事は無い。挨拶もしない。そもそもそいつがどんな奴か、詳しく話もした事が無いのでわからない。
という話は一つのコミュニケーション障害野郎の例ですが、そんなニュアンスの事が全体的にも多くなってきました。つまり、直接話をしないでメールだけで他人との用件を済ませてしまおうという感覚。新しい間違った時代に入ってきました。
メールが便利なのはわかります。クラウドとかFacebookとかLINEとか、スマホを持っていたらどこに居ても、いろんな人に用件が届けられるようになってきました。ちゃんと伝わったかは不明ですが。本当に便利です。自分の言いたい事は一方的にだけど確実に言える。ぼくも毎日活用しています。ただ、使って行くうちに分かってきたのは、こういう機能は、話の内容が「いい話」のときにしか機能しないということですね。
自分にとって不利で大事な用件や、困った用件を人に伝えたり、自分以外の人に解決を要請したりする場合には、メールを使っただけでは失敗します。コミニュケーションの本質から、実は外れているからです。
僕らの仕事は、技術を持った各パートの人を束ねてCMを作る。ということなのですが、基本的には、お願いごとをすることばっかりです。そんな事を20年以上やって分かった事があります。 「問題が起きたとき、その当事者と直接会って話さないと、その問題は解決しない」 ということです。
だから、僕は、必ず、ピンチになった時、大事な事をお願いするときは、その人に直接会いに行く事にしています。 メールなんかじゃ怖くてだめです。電話でもだめ。
こじれた案件が、当事者に会いに行かないで解決した事は多分ありません。 会いに行っても会ってくれない事もありますが、会ってくれるまで行きます。 ある有名監督がなかなか会ってくれないから路上で待ち伏せした事もある。 会ってもらえたら、直接話をしたら、妥協した結果となってもなんらかの解決はあるものです。
普通の生活もそうですし、恋愛だってきっとそうなんだろうけど、大事な人の気持ちは「会って伝える」ことをしないと伝わらない。という事なんでしょう。
会うとなると、相手のスケジュールを確かめなければいけないし、相手の状況も考慮しなければならない。場所を設定しなければいけないし、自分の着ていく物も気を使わなければいけない。その場での食べ物や飲み物も気にかかる。いろんな事を考えて、いろんな事に気を使う。
・・・ということをやれた上で、はじめて、相手からすると「自分を大切に思ってくれている」ということになる。自分を大切に思ってくれてはじめて、「自分にとって嫌な(もしくは重い)内容の他人のお願い」を聞く気になるというものです。
それをメール一発でやってしまおうと思う事は、はなはだ図々しい行為でしかないのでしょう。受け取る側からするとメールを送ってきた人が本当はどう思っているか、細かいニュアンスが分からないからです。
コミュニケーションのためのおかずとして進化したe-mailやSNSなのにそれが主食になっているような人が多いんじゃないでしょうか? 会って人と話す。相手の表情や声のトーン、笑い方や黙り方を敏感に感じ取りながら、自分の思いを伝える。というのが主食じゃなきゃいけないです。そうじゃないと受け取ってもらえない。その会話を充実させるための情報を収集する道具(おかず)として、e-mailやSNSや携帯電話は使う物です。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV