「2+2=5の国」
僕の大好きな映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の舞台で、また同じく大好きな映画「ゴッドファーザー2」の中でもキーになった国、キューバへ仕事(ロケ)で行って来ました。どんな所か事前にずいぶん調べましたが聞くと見るとでは菅田将暉と神田正輝くらい違いました(または蒼井優と蒼井そら、または陣内孝則と陣内智則、または壇蜜と段田男)。
何から話しましょう。今回僕が滞在した首都ハバナ(8泊10日)は人口約215万人。名古屋市と同規模くらいですが、すぐに感じたのは時間の流れの遅さです。まず交通量が少ないです。一台一台の車間距離が広めです。 多くの車がデカイせいかもしれません。パッと見、3台に1台くらいの割合で5、60年代のいわゆるアメ車が現役で走っています(※写真①~⑩)。
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写真①
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写真②
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写真③
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写真④
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写真⑤
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写真⑥
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写真⑦
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写真⑧
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写真⑨
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写真⑩
ジョージ・ルーカス監督の出世作「アメリカン・グラフィティ」の世界。安直な言い方だとタイムスリップしたかのようです。最近の車はほとんど見かけません。2000年以降に作られたのはどれも新車として売られていてそれらは金額がべらぼうで一部のセレブしか買えません。昔の車をとことん修理して乗ります(※写真⑪)。
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写真⑪
車だけではありません。大切なモノに対しては本当に大事に扱います。街角には靴やライターの修理屋さんが小さな机を出しています(※写真⑫)。見ているとかなりの頻度でお客さんがやって来ます。100円ライターのおニューは約60円で売られていて、使い切ると捨てずにガスだけを約15円で入れてもらえます。これが実に見事な手先の器用さで30秒もあれば一丁上がりです。修理する職人さんの姿もカッコイイですがモノへの愛情あふれるお客さん(つまり広く世間一般のキューバ人)っていいなーと感心していたら、現地在住のコーディネーターのユキさんが「いやいや、モノへのこだわりとか、もったいないなんて気持ちは誰にも全くないですよ。モノがないので仕方なくやっているだけ」と冷静かつ沈着に僕の誤解を正してくれました。
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写真⑫
確かに街を歩くと大人も子どももこぞってポイ捨てをします。ペットボトルや空き缶空き瓶お菓子の袋、そして目立つのが煙草のポイ捨て。アパートの2階や3階から下の道に色んなものが飛んできて危ないです。その行為が悪いとは思ってないのだそうで、それを教えるのは不可能だとまで言われました。清掃員の仕事を提供するのだから問題ないということなのです。世界は広く果てしないです。
ただ、モノがないことに嘆いたり暴れたりすることもないそうです。この国には「キューバ人は生まれたときに忍耐という予防注射を打つ」という有名なコトバがあるとこれもユキさんから教わりました。
そんなキューバの人たちですが、基本は根っからのラテン系。愛のために男女こぞって頑張るせいか離婚率85%、3回以上結婚するのが当たり前。僕が撮影に行ったご家族は5人姉妹でしたがお母さんは一人だけどお父さんは5人全員別の人でした。貯蓄という概念がなく、慰謝料がないことも原因かもね、とこれもユキさんから習いました。「ない」と言えば街中に広告がありません。ホテルのテレビは薄型でしたが一般家庭のテレビはまだブラウン管でCMは流れません(※写真⑬)
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写真⑬
ケニアの奥地でもモンゴルの村でもマダガスカルでもチベットのラサ地区でも見かけたコカコーラの看板がありません。CMや看板がないと人はどうやって商売をするのか。そうです!自力で声を出してモノを売るのです。パンを売る青年(※写真⑭)も花を売るお兄さん(※写真⑮)もモップを売るお姉さん(※写真⑯)もみんな大きな声で意味はわかりませんが「ロ~~~レロ~~」や「ホホホッ~~ラホ~~」と叫んでいます。たぶん「なっとなっとぉ~~」や「たけや~~さおだけ~~」みたいなものでしょう。日本の街も昔と言っても江戸や明治まで遡らず昭和40年代くらいまでは売り声で溢れていました。人間のやることは変わりませんね。点になった目から鱗の発見が続々ありました。
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写真⑭
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写真⑮
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写真⑯
そうそうもう一つだけ。街のあちこちに「2+2=5?」という落書きがありました(※写真⑰⑱⑲⑳)。これは1+1=2だけではない、という自由でクリエイティブな発想が好きという気持ちの現れだそうです。最低限の衣食住は国からの支給ですが、いずれも工夫を施しオシャレをしたり料理を楽しんだりリフォームをしたりして、あとは得意のダンスと歌を歌って生きるチャーミングな人が多い国。お腹を壊したりお金をなくしたり凹むこともあったのに、またいつの日か次は私的に訪れたいと思ったのはマスクだらけの帰りの飛行機の中でした。
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写真⑰
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写真⑱
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写真⑲
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写真⑳
ところで、ロケ中にエンストした車をスタッフみんなで押し掛けしてエンジンがかかったときの満足感の話はまたの機会に。