二度のアカデミー賞受賞!カズ・ヒロさんのクリエイティビティ
先月、アカデミー賞が発表されましたね。その中で私が一番注目したことと言えば「スキャンダル(原題:Bombshell)」でメイクアップ・ヘアスタイリング賞を受賞したカズ・ヒロさん。
BOMBSHELL Accepts the Oscar for Makeup and Hairstyling
ABC – Youtube
映画「スキャンダル(2019)」予告編(出演:シャーリーズ・セロン )
KINENOTE映画ライフログサービス – Youtube
映画「スキャンダル」は、アメリカの主要ニューステレビ局「FOXニュース」で起こった実話を映画化していて、FOXニュースの元人気ニュースキャスターだったグレッチェン・カールソンがFOXニュースCEO、ロジャー・エイルズをセクシャルハラスメントで提訴するということからストーリーが展開します。
シャーリーズ・セロン演じる、FOXニュースの人気キャスターであるメーガン・ケリー、ニコール・キッドマン演じるグレッチェン・カールソン、ジョン・リスゴー演じるFOXニュースCEOのロジャー・エイルズは実在の人物。新人キャスターであるケイラ・ポスピシルを演じるマーゴット・ロビーは、数人の実在したキャスターを合わせた架空のキャラクターになっています。
2019年にアメリカ市民権を取り、現在はロサンゼルスに住まれているカズ・ヒロさんですが、もともとは京都生まれの日本人。2018年にも「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」でアカデミー賞を受賞していますが、その時も、日本人がアカデミー賞を受賞したということで、日本でもかなり話題になっていたと思います。
Kazu Hiro@kazustudios – Instagram
過去には「グリンチ」、「猿の惑星」、「マッド・ファット・ワイフ」、「もしも昨日が選べたら」でも特殊メイクアップを手がけており、「マッド・ファット・ワイフ」、「もしも昨日が選べたら」はアカデミー賞のベストメイクアップ賞にノミネートされています。
今回の受賞で、改めてカズ・ヒロさんのことを調べてみましたが、世界でもトップクラスのクリエイターの凄さ、というのを実感しました。
映画「スキャンダル」では、実在の人物を演じるということと、実在する人物に対して世間が持つイメージがあるため、容姿を限りなく似せる必要があり、よって、キャストに特殊メイクが施されているのですが、カズ・ヒロさんの手にかかると、元の顔から全く別の顔になっていて、また、細部やプロセスなど、もう神技としか言いようがありません。
How Charlize Theron Transformed Into Megyn Kelly For ‘Bombshell’ | Movies Insider
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上記の映像では、シャーリーズ・セロンをメーガン・ケリーに似せるため、カズ・ヒロさんがどのようなプロセスを行ったかが解説されています。
0:05あたりで、シャーリーズ・セロンの元々の顔(画面右)と、特殊メイクを施した後の顔(画面左)が見られます。どちらもシャーリーズ・セロンで同一人物ですが、骨格や目の窪みあたりが全く違って見えますよね。
シャーリーズ・セロンへの特殊メイクのプロセスですが、まず、カズ・ヒロさんと彼のチームがメーガン・ケリーがキャスターを務める、FOXニュースのビデオクリップを見て、外見や特徴を可能な限り理解することから始まります。
そして、キャストの3Dボディスキャンを取り、元々の顔の型取りを作ります。その型取りに合わせて、付け加えたい、形を変えたい部分(顎、口、鼻、頰など)のパーツを作り、そのパーツを実際の顔に装着して、似せたい顔を作っていくのだそうです。ちなみに、この技術を英語で「Prosthesis(プロステーゼ、人口補綴)」と言い、メディアによって、カズ・ヒロさんは「Prosthetic Makeup Designer」と紹介されていることも見られます。
また、メーガン・ケリーの鼻腔が横に広いので、シャーリーズ・セロンの鼻の穴に「ノーズピース」を入れることによって鼻腔を広く見せているのですが、このノーズピースもカズ・ヒロさんによってカスタマイズされています。
このノーズピースを作るため、カズ・ヒロさんはシャーリーズ・セロンの鼻の中の型取りをし、Zblushというプログラムを使ってコンピューターでデザイン、3Dプリンタでプリントアウトしたのだそう。ノーズピースにより声に影響がでることもあるので、メイクアップチームと何回か試した結果、なんと40個も作ることになったようです。
Charlize Theron on transforming into Megyn Kelly for ‘Bombshell’
Yahoo Entertainment – YouTube
上記の映像では、1:18あたりに出る、ロジャー・エイルズ演じるジョン・リスゴーの変身ぶりに注目。左側が元々の姿、右側が変身後です。ロジャー・エイルズは、最初、特殊メイクを施されるのに難色を示していたようですが、いざテストメイクをしてみたら「もっとやってくれ!」とかなり気に入った様子だったとのこと。
Kazu Hiro@kazustudios – Instagram
Kazu Hiro@kazustudios – Instagram
上記はエイブラハム・リンカーンの特殊メイクアップを施すタイムラプス。特殊メイクを学びたい人にとって、こういったシェアはかなり有益ですよね。
その他、カズ・ヒロさんのInstagramで印象に残った投稿と言えばこちらです。
View this post on InstagramAfter Oscar dinner with Charlize. @charlizeafrica #oscars #oscars2020 #oscarwinner
Kazu Hiro@kazustudios – Instagram
シャーリーズ・セロンとアカデミー賞受賞後に、ディナーを共にしているワンシーンです。シャーリーズ・セロンがかなりリラックスしている様子ですよね。カズ・ヒロさんのアカデミー賞受賞時のスピーチに、シャーリーズ・セロンがとても感動していたのも印象的でした。お互いに信頼がある関係性であることがうかがえます。
How Prosthetic Makeup Designer Kazu Hiro Transformed Charlize Theron For ‘Bombshell’
Deadline Hollywood – YouTube
上記の映像では、カズ・ヒロさん自ら、特殊メイクに興味を持ったきっかけを語っています。
カズ・ヒロさんは子供の時、一番最初のスターウォーズを見て、スペシャルエフェクトに興味を持ったそうです。特殊メイクに初めて興味を持ったのが「ゴッドファーザー」や「エクソシスト」などで知られ、メイクアップアーティストの父と呼ばれるディック・スミスによる、リンカーン大統領の特殊メイクを雑誌で見たことがきっかけとなり、「これが本当に自分のやりたいことだ」と確信。そして、ディック・スミスに手紙を書いたところ文通が始まり、その後、ディック・スミスの下で経験を積むことになります。
Kazu Hiro@kazustudios – Instagram
上記の投稿で4枚目の写真を見て頂くと、実際にカズ・ヒロさんに届いたディック・スミスからの手紙が見られます。「アメリカにも良い特殊メイクの学校がない」こと「特殊メイクを学ぶなら独学か、トップのメイクアップアーティストと一緒に仕事をすること」など、アドバイスが書かれています。
それにしても、「自分のやりたいことはこれだ!」と思い、ディック・スミスに直接手紙を書いて返信が来る、というのは素晴らしいですよね。多くの人は「返信なんか来ないだろう」と(海外ですし、しかも英語で)手紙を直接書くことはしないと思います。
ほとんどの人が「自分がやりたいこと」を実現することは難しい、現実は厳しいと諦めているような気がします(自分も含めてです)。しかし、本当に望んでいて、実現しようと行動すればできるかもしれないですよね?カズ・ヒロさんのように。
映画「スキャンダル」も、セクシャルハラスメントを受けていた女性たちが覚悟を決めて権力のある男性を提訴する実話です。セクシャルハラスメントで権力者を訴えることは、とても勇気のいることです。それに、セクシャルハラスメントは決して許される行為ではありません。
自分が望んでいること、やりたいことがあれば行動してみませんか?初めはネットでリサーチするだけでもいい。それがいつか花開くかもしれない。
パワハラ・セクハラをされている方、勇気を持ってしかるべき所に相談するなど行動を。動かなければ何も変わりません!
コラムを書いててこんなことを思いました。
最後に、現在のメーガン・ケリーはこちら。セクハラを訴えて退社させられたFOXニュースの元同僚たちと映画を一緒に見て、自分のYouTubeチャンネルで語っている動画です。メーガン・ケリーは2017年にFOXニュースを退社、NBCニュースのキャスターとして番組を持っていましたが2019年に退社。その後は、ニュースキャスターとして特に目立った活動はしていないようです。
Megyn Kelly Presents: A Response to ”Bombshell” Preview
Megyn Kelly – YouTube
カズ・ヒロさんは、映画のお仕事は自分がやりたいと思ったもののみで、基本的には現代アーティストとして活躍されているようです。Instagramでも最近のアート作品がたくさん投稿されているので、ぜひフォローしてみてください。
(参考)