「無観客の大声援」
いくつになっても初めての経験はあるものですが、今回のコロナの事態は誰一人望んではないものです。現状まだまだ先は見えませんし、専門家の意見もそれぞれですし、軽々なことは言えませんがそれでももがいて進むのが僕たち人類の特性なのかもしれません。
僕が中学3年生のときですからもう40年以上前。当時の担任は理科の黒岩先生。あの頃は不人気だった卓球部の顧問でした。もしご健在なら御年90近いはずです。
毎日帰りのホームルームが長くてちょっと苦手な先生でしたが、ときどき妙に哲学的だったりフシギな話をすることがありました。
卒業間近のある日、「最終的に勝ち残る者は、腕力が強い者でも勉強ができて偏差値が高い者でもなく、その時代時代に順応できるいわば要領がいいヤツだな。これって、ダーウィンの受け売りだけどな、ホホホホ」と話したのを覚えているのですがそのときは何のことなのか理解できませんでした。が、最近の状況を考えると案外ちゃんとしたことを言っていたのかもと、今さらながら先生のことを見直しました(目上の人を見直すというのはヘンな日本語かな?ま、あの頃の先生の年齢を超えているから許してくれるでしょう)。
それを思い出したら、急に調べたくなりダーウィンの「種の起源」を紐解いてみました。
本名チャールズ・ダーウィンは1809年イギリス生まれの自然科学者で代表作「種の起源」は彼が50歳のときに発表されたものです。この本はいわゆる進化論を唱えたもので神様のチカラを借りることなく生命のなぜを説明した画期的な内容です。当初は激しい抵抗もありましたが今ではこのダーウィンの考え方を基に生物学の研究は行われています。
彼には数々の名言があって、先程の黒岩先生が自分のコトバで言われていたものは直訳では「最も強いものでも最も賢いものでもない。唯一生き残ることができる種とは、最もよく変化できるものである」とあります。
なるほど、黒岩先生は僕たち中学生にわかりやすく話そうとしていたのですね。
他にもダーウィンには「愚か者の実験が大好きだ。私はいつもそれを行っている」や「1時間の浪費を何とも思わない人は、人生の価値をまだ発見していない」や「酒を飲んで酔っ払った経験のあるアメリカ猿は二度と酒には手を付けない。つまり人間よりはるかに頭がいいということだ」等々、興味深い言葉を残しています。会ってみたかったなぁ。
もし今の世にダーウィンがいたら、この新型のウィルスにどう立ち向かうかの(もしかすると仲良くしたかも)知恵を教えてくれたのかもしれません。しかし彼がいない2020年の人類も精一杯の抵抗を試みています。
ヨーロッパでもアメリカでも国や大都市が封鎖されました。映画の世界でも見たことのない信じられない光景です。
日本でも会社や学校をはじめあらゆる業種が打撃を受けています。多くのスポーツやイベントが中止や延期です。
無観客の試合や無観客の音楽ライブや無観客のお笑いライブがいくつかできたのは今の時代ならではの媒体があるおかげかもしれません。ネット配信という手がなければ、お笑いライブを無観客ではやらないはずです。僕が大好きな相撲と落語も大きな影響を受けました。大相撲春場所は無観客での開催でした(※写真①)。
確かに異様な雰囲気で盛り上がりには欠けたのでしょうが、ふだんは気が付かない力士や行事や呼び出しさんの一挙手一投足が注目される利点もありました。テレビの視聴率もいつもより下がったとはいえそれでも10%以上はあって相撲ファンにも一生忘れられない場所になりました。
そんなファンの思いは間違いなく力士にも見えない歓声として届いていたはずです。だって、ほんとに本気の熱戦が多かったのですから。土俵際でいつもは砂かぶりにいる観客を気にせずにぶん投げ合う大男たちの姿はいい絵でした。
僕は勤務先がリモートワークの間、ずっとテレビを付けていたおかげで(?)横綱土俵入りの雲竜型と不知火型の所作をマスターしました。生涯どこでも披露することはないでしょうが(笑)個人的には収穫の一つです。
落語もいわゆるホール落語はほぼ全滅ですが、なぜか寄席だけは都内四つとも何事もないかのように開いています(※写真②)。室内だしお年寄りが多いしヤバそうですが笑うと免疫力が上がるそうなのでトントンですかね。それも寄席らしくていいのかもしれません。
ふつうの日常の良さをしみじみ感じる2020年の春。今年の桜はそんな人間たちにかまわず咲き乱れています。
ところで、黒岩先生はかなりピッカリな頭髪でしたが「僕は名前が黒いわなのにこの髪」という自虐ギャグを放ったことがある話はまたの機会に。