ロックダウン前の最後の展覧会!? @New Art Projects
英国政府のロックダウン声明が出される前々日、向かったのは東ロンドンにあるギャラリー、New Art Projects。 その日はすでにカフェやレストランから劇場、映画館などの娯楽施設に至るまで閉鎖するよう政令が出ている状態。そんなわけで公の美術館やギャラリーは閉まっていたものの、個人のギャラリーは事前予約で何とか入ることができました。今回はオランダの美術家、Rob Voermanの個展 「Colony」をお伝えします。ギャラリーはベスナルグリーン駅から徒歩10分ほど。
「ドアノブからトイレまでしっかり除菌してお待ちしていました。」オーナーに鍵を開けてもらって誰もいない地下のギャラリーの中へ。
落書きの描かれた権?なコンクリートの祭壇の中央にあるのは段ボールの建築物で、窓もなく崩れ落ちそうなのに中からあかりが煌煌と灯っています。この特徴のある建築の形状どこかで見たような?表題の「Unité 」から、ル・コルビュジエの設計した集合住宅ユニテ・ダビタシオン( Unité d’habitation )の一つで、世界遺産に指定されているマルセーユのもの(1947年-1952年建設)がモデルだなと察しがつきます。戦後の都市における住宅不足を解消するため建てられたこの集合住宅はその後のモダニズム建築、建築家に多大な影響を与え、評価の高い建築です。英国においてもまた、コルビュジエの思想に影響を受け1950年台から1970年代にタワーブロックとよばれる高層の公共住宅が建てられました。戦後の復興を象徴するように白くそびえる未来的な外観と展望の良さから人気を呼び、建設コストも手頃であったため、各地の自治体の都市計画家や建築家によって競うように建てられました。しかし施工を急ぎ、経費をさらに安く上げるための工期の短縮は、いわゆる手抜き工事を生み出します。やがてそれが致命傷となり、多くのタワー・ブロックで、ひび、漏水、鉄骨の腐食などが表れ、建物の構造上の安定を脅かすほどになります。さらにそのデザイン上、維持管理が行き届かず、侵入盗、ヴァンダリズム、路上強盗など社会的問題が激増、「空中のスラム (slums in the sky)」と呼ばれ、コルビジェの目指したユートピアとはかけ離れた世界へと転倒していってしまったのです。
空飛ぶ街それとも戦艦?こちらもまた上部は落書きのされたブルータリズムの建築、そしてその下には蜂の巣のような形状の建物が不気味に増殖しています。真っ赤な管の部分は血管系のようにも大砲のようにも見えます。作品はColony, 2020。
どんどん膨らんでいく巨大な卵、虫のように見えるのは人々で、卵に引きよされるように集まっています。さらに卵の頂上には教会のような建物が小さく見えます。作品はBelief, 2014。
王蟲のような生き物を彷彿させる建物にはランダムに足場が組まれていて建築中なのかそれとも途中で放り出されたのか? 中を覗くと森のように木が生い茂っていて、緑の光が不気味に差し込んでいます。作品の材質の表記を見ていくと、スチール、エポキシ樹脂、木材、段ボール、ガラス、セラミックス、そして”ashes of the artist”(製作者の遺灰)と書かれている所に思わず目が止まります。よく見ると扇のような形をした屋根のような上部の構造はまだ焼成されていない粘土の状態。 不思議に思って隣の壁に貼られたバイヤーとの契約書のようなメモを見ると、なんと作家が亡くなった後、その粘土の部分をまず素焼きにしてから彼の遺灰を加えた釉薬をかけて焼いてようやく作品が完成することが判明。作品を購入した人のために釉薬の調合の割合から焼成の温度、それを施工する陶芸家まで細かく指示されていました。作品は The Last Resort (最後の手段) 2020。
ディストピアの世界を描き出すVoermanの作品は、世界中で疫病が猛威を振るっている現在の状況下にふさわしい、といえるかもしれません。一方、このコラムを書いている現在、英国を含めほとんどの国がロックダウンに入り、日に数千人が亡くなっている渦中のヨーロッパにおいて、そう客観しできないのも現実です。来月のコラムではロックダウン下の英国で作家やギャラリーがいかに対応しているのかについて書いていければと思います。