テーマパーク?Art 13
- London Art Trail Vol.9
- London Art Trail 笠原みゆき
英国でアートフェアといえば、秋の催し。ところが今回春の新しいアートフェア、“アート13 (http://artfairslondon.com/)”が開催されると聞き、早速会場の西ロンドン、オリンピアへ。世界30カ国129のギャラリーの出展でその7割はロンドンのアートフェア初参加。メインのギャラリー、美術系出版社の出展ブースの他にパフォーマンス、トーク、ファミリーイベントといった催しとアート13プロジェクツという企画展示が盛り込まれていました。
アート13プロジェクツは、出展ギャラリーのうちの22のギャラリーがそれぞれの抱える作家に委託してブース外の会場のあちこちに作品を設置したもので、まずこちらはそのアート13プロジェクツの一つ、中国人作家 Zhu Jinshi(朱金石)の Boat(2012)。8000枚の宣紙と竹、綿糸を用いて作られた長さ12mのトンネルのような作品の中に入ると、辺りの音、空気が遮断され、まるで大きな繭の中にいるような懐かしい感じ。
こちらもアート13プロジェクツからレバノン人作家 Zena el Khalil のPeace Be Upon You(2009)。アラビア文字で“Allah”(アッラーの神)という言葉を掲げ、きらきらと輝くミラータイル張りの高さ/幅4mの彫刻が、周りのものをなぎ倒して踊り狂うかの様に回転しています。首都ベイルートの、今最も人気のナイトクラブがあるホリデーイン・ホテルは、内戦中、軍人がその屋上から人々を放り投げ空中で射ちぬく格好の遊び場だったという逸話が寄せられていました。
Alexander Ochs Gallery(ドイツ/中国)で目に入ったのは Yin Xiuzhen (尹秀珍)のPortable City: Madrid(2012)。スーツケースの中から飛び出す玩具の世界のような縫い包みの都市。一つ一つ建物をよく見ると、Zara、Mangoといった服のメーカーのラベルが付いています。 XiuzhenはPortable Cityのシリーズを暫く続けていてその都市ごとに住人に提供してもらった古着を使って作品を制作しているそう。
Scaramouche Gallery(アメリカ)で、人だかりが出来ていたので覗いてみると、黒い液体の中から現れたアメーバーのようなものが頭蓋骨の上を時には菊の花の様に形状を変え這い回っているのが見えます。映画“エイリアン”に出てきそうな美しくも気味の悪いこの作品はイタリア人作家Alessandro Brighettiの Narchitectureシリーズで、 SPION (Superparamagnetic Iron Oxide Nanoparticles=超常磁性酸化鉄ナノ微粒子)という医療技術に用いられる、文字通り強力な磁性を持つ、ものすごく細かい微粒子を磁力でコントロールする事によってあたかも生き物が動き回っているかの様に見せる作品。
豪奢な打掛またはクリムトの絵画のようなこちらの作品はガーナ人作家El AnatsuiのIn The World But Don’t Know the World(2009)。破棄された一万個もの飲料ボトルのアルミ蓋を一つ一つ平らにのばし、銅線で縫い合わせて作られています。October Gallery(英国)のブース。
FaMa Gallery(イタリア)で、小さな女の子が積み上げられた本の上に座っている、人と豚とのハーフのような不思議な生き物に熱心に話しかけていました。作品はテクノロジーと生命倫理を作品テーマのひとつとする、シエラレオネ生まれのオーストラリア人作家、Patricia PiccininiのThe Student(2012)。
さて喉が渇いてきたなあと思っていたところ何処からか爽やかなフルーツの香りが。見るとオレンジを積み上げたピラミッドに人々が群がっています。6000個のオレンジを積み上げ、来場者に持ち帰ってもらうこの作品はサウスアフリカ人作家Roelof LouwのSoul City、1967年の作品。アート13プロジェクツの一つ。
全体を廻ってみて、一番多かったのは英国のギャラリーとはいえ、中国の作家を扱ったギャラリーも多かったためか、中国のギャラリーの出展が圧倒的という印象がありました。 日本のギャラリーの出展はありませんでしたが、シンガポール、韓国、アラブ系やインドの出展も数多く、後ほどこのフェアーの仕掛人がアジアで成功を納めたArt HK(香港インターナショナルアートフェア)の創立者のSandy AngusとTim Etchellsである事を知り納得。またフェアディレクターは、英国最大のアートフェアのフリーズアートフェアで長年マネージメントを務めたStephanie Dieckvossという事もあり、フェアの構成はフリーズに酷似していて“新しい”という印象は希薄気味。会場内のカフェは外の価格の2倍、Fortnum & Masonのシャンペンバー&レストランも設けられ、不景気で作品が売れない中、来場者に如何に会場で消費してもらうかに重点を置いたテーマパークのようなアートフェアは益々拡大傾向にあるようです。
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com