営業活動
- 番長プロデューサーの世直しコラムVol.75
- 番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
僕らの仕事にも、売り上げのノルマがあり、年度初めには年間の売り上げの目標を決めて、会社と約束しなければなりません。 レギュラーの仕事を軸に、今年はあの会社のあの人とこの人からこんな仕事を何本。なんて想像して目標を書いて行く訳ですが、実はそこには何の根拠もありません。
CMプロデューサーという職種はCMを作らないとCMプロデューサーではありません。プロダクションマネージャーからプロデューサーに昇格させてもらえたとしても、ほとんどの場合、会社は昇格させただけで、「じゃあこれやれ」と仕事をくれる訳でもありません。駆け出しのプロデューサーに、たまに会社の上司から仕事が降りてくる事がありますが、それをうまくこなしたとしてもただの「ラインプロデューサー」でしかなくて「プロデューサー」ではないのです。
だから、自分にやってほしい、というお客さんをどれだけ増やすか?という勝負になってくるので、足しげく広告代理店のお客さんに連絡を取ったり通ったりすることになります。
で、営業でお客さんに会いに行って話をするんですが、いきなり 「お仕事ください」 って言う人がいます。
馬鹿じゃないかと思います。
営業にいって「お仕事ください」とか「なんかあったらお願いします」とか言うのは「お金をください」といきなり切り出している事に近いからです。 物乞いをしに行っている様な物です。
僕のところにも日々いろんなスタッフから連絡があり、ただやってきて「どうですか?櫻木さん、お忙しそうですね」「お仕事ください」という人がいます。残念な気持ちになります。売り込みに来ておいて、ただ「お仕事ください」という人は、自分に売り込む物が無いのと同じですね。何を売りたいですか?と
というわけで、『営業活動=自分の売り込み。』なので、他人と違った売り込むネタがなければなかなか厳しい物になります。人が金を出して買いたくなるほどの他人と違ったネタを持ってるんだったら、営業活動なんかしなくても忙しいという事にもなります。きつくて営業しなきゃいけない場合は、それを探すのは大変です。だから、売れたかったら、なんらかの作戦や努力を日々しながら、他人と違う僕を、時間をかけて作っておかなきゃいけないんだと思うんです。 「これを買いませんか?」と持って行くべきです。
また、逆の考え方をすると、売り込みに行く相手を選ばなければならないということもあります。つまり、自分がやりたい方向性や面白いと思う事をやっている人にアプローチしないと意味が無い。ということです。
テレビを見ていて、ああ、こんなコマーシャルを作りたいなあ。と思う物を作っている人に、面識が無くても、いきなりでもいいから勇気をだして連絡をとって、「あなたの作ったこのCMが大好きなので、お話を聞かせてくれませんか?」とやる。これでも十分OKだと思うんです。
ある日、一度も会った事の無い音楽プロデューサーの方から電話をもらいました。僕がやったある作品の音楽について「すごくかっこいい。大好きなんだけど、テレビCMで使われる音楽としてはハードにロックすぎるんじゃないかと思う。どういうやり方でこの方向に持って行けたか、どうやって試写が通ったのか?を是非知りたいから、一度お会いして話を聞かせてもらえないだろうか?」と。
へえ、そんな風に思ってくれる人がいるんだなあ。と、まず、うれしくなりました。で、積極的にスケジュールを調整して、その人とお会いする段取りをつけて、早速お会いしました。サクっと引っかかっちゃった。で、自分からいっぱいしゃべって、気持ちよくなって、その方の作品集を見て、で、ほめちゃったりして、気づくと仕事をする事になっていました。まあ、単純な人間ですから。その人の飛び込み営業の作戦にまんまとやられちゃった訳です。
で、思いました。ああ、こういう営業の仕方もありなんだなあ。と。 その人と会って話をしてみたくなった。そう思わせるのもまた営業なんでしょう。そこには、本当にそれがいいと思っていないとできない事でもあるので、好きな事をやっている人に近づいていくだけです。嘘をついてもすぐばれる。
とにかく、どんどん縮小して行くテレビCM制作のパイを、どんどん出てくるCMプロデューサーと取り合いをしなければいけない戦国時代なので、黙っていても仕事にはありつけない。 平たく言うと、何の仕事もそうなんでしょうし、就職活動もそうです。売り込みですから。きっかけ作り。
成功している人は、「身もふたもない努力」を延々やっているもんだと思うのです。身もふたもない努力が偉いんじゃなくて、身もふたもない事をやっていられる対象を持っているということが偉いんだと思います。
そうやって、きっかけだけ作れても、実際の作業がそつなく、発注主の想像以上の物を出して行かないと継続もないのでしょう。でも、信頼関係の少ない若いプロデューサーに、まず教えてあげたいのはこういうことです。
チャンスは自分でつかみましょう。 営業は、身もふたもない努力です。 でも「営業には理由が必要」です。
Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~
- 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
- 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
- 2000年にプロデューサーに昇格。
- 2009年 社名がリフトに変更。
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。
<主なプロデュース作品>
- AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
- 日清食品 焼きそばU.F.O
- マルコメ 料亭の味
- リーブ21 企業CM
- コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
- クレイジーケンバンドPV