A work of art と a walk of art
- London Art Trail Vol.10
- London Art Trail 笠原みゆき
ロンドンの地下鉄セントラルラインの西の終着駅であるEaling Broadwayから歩いて数分のところにPM Gallery & Houseがあります。 PM Gallery & Houseは、伴設する現代美術ギャラリーとPitzhanger Manor–Houseの総称で、この美しいマナーハウスは代表作イングランド銀行の建築で知られる建築家John Soane(ジョン・ソーン)が、彼の子供達ために田舎に週末の別邸をと1800年に購入し、大幅に改築して10年間使用した邸宅。 現在は地元イーリング区がその管理運営を行なっており、マナーハウス、ギャラリーの入場共に無料。
そのPM Gallery & Houseでは、“Walk on – 40 years of Art Walking“と題し、ランドアートの先駆者リチャード・ロングの70年代の作品から最近の作家の作品まで、過去40年間の歩くことをテーマに制作を続けている作家達の展示が行なわれていました。 なかでも幾つか気になったものをここで紹介します。
まずマナーハウスの2階のドローイングルーム(現在の客間にあたる)へ。 そこではロンドンの金融街シティーをバッキンガム宮殿衛兵交替でおなじみの英国近衛軍楽隊64名が、それぞれ別の経路でシティーを歩きまわり、互いが出くわしたら隊列を組んで行進、全員が合流するまでマーチし続けるという映像作品“Guards” が展示されていました。見ていると、こういうことロンドンであるかも!とうっかり納得してしまいそうなのですが、実はこれ、メキシコ在住のベルギーの作家、Francis Alysのでっち上げた世界。“Guards” は、第6回で紹介した美術団体アートエンジェルによるコミッション(Seven Walks 2005)の一部。
廊下を渡り隣のベッドルームに行くと、ベッドの脇のテレビ画面にロイヤルファミリーの肖像画が並ぶギャラリー内を、時には肖像画のにおいを嗅いだり、まるくなって居眠りをしたりしながらうろうろする狐の姿が映し出されています。こちらもSeven Walksからのアリスの作品で、ロンドンで一般的な野生動物である狐を、深夜のNational Portrait Galleryに放し監視カメラで撮影した“The Nightwatch”。アリスの作品をもっと楽しみたい方は、現在、東京都現代美術館で大々的な個展「フランシス・アリス展」を開催中なので足を運んでみては。(※編集部注|[メキシコ編]2013/04/09~2013/06/09 [ジブラルタル海峡編]2013/06/29-2013/09/28)
今度はPM Galleryへ向かいます。
手前の硝子のショーケースには博物館のコレクションのように発見された場所や日付の説明の札が付けられたオブジェが陳列されています。
作品は東ロンドンを拠点に活動するGail Burton, Serena Korda、Clare Qualmann 3人組のプロジェクト“Walkwalkwalk: an archaeology of the familiar and the forgotten”の一部である“Walk Finds”。
3人は2005 - 2010年にかけてライブアートとして一般の人を巻き込みながら東ロンドンを中心に歩きまわり、まるで考古学者や探偵のように発見した拾得物に残る人々の生活の痕跡と、そこで体験した出来事や状況の記録を繋ぎ合わせて様々な物語をつくりあげていきました。後ろの壁のポスターはその物語の一部。
こちらはTim Knowlesの“Windwalk – An excerpt from Seven walks from Seven Dials 2009”。Seven Dialsとはロンドン中心部、コヴェント・ガーデン近くの7つの通りが交わる小さな交差点のこと。(因みに交差点中央には6つの日時計が付いた塔が立っています。) Knowlesはここを起点にカイトのような風標をのせたヘルメットを被り、風向きに従って時には街角でグルグル回転したり、建物にぶつかったりしながら7回に分けて歩いたそう。
空になったウィスキーの小瓶の一つ一つに英語で手書きの俳句が付けられています。作品はAlec Finlayの”The Road North: the 53 stations 2010 – 2011“。詩人でもあるFinlayは故郷のスコットランドを日本の東北にたとえ、俳句を詠みながら東北を巡った芭蕉のように、スコットランドをKen Cockburnと共に歩いて巡りながらその53箇所のストップポイントごとでウィスキーの小瓶を飲み干して俳句を詠んでいきました。
イギリス人は歩くことが好きだといわれますが、ソーン自身もよくこのマナーハウスから自宅兼仕事場(現在はSir John Soane's Museumとなっている)のあったロンドン中心部のホルボーンまでの間の9マイル(約14.5km)程をよく歩いて通ったそうです。イーリングは今では都市ですがかつては自然の豊かな地であったことでしょう。産業革命を経て急激に縮まっていく都市と田舎との境をソーンはどんな想いで眺めながら歩いたのでしょうか。
Profile of 笠原みゆき(アーチスト)
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com