日本での意識が薄くて心配になってしまうこと
コロナ禍と発令された緊急事態宣言によって、いきなり自宅で仕事をすることになってしまいましたね。
生まれて初めてのことでなかなか慣れませんでした。
会社の自分のチーム員たちも、多分戸惑うだろうなと思い、
休みじゃねえんだぞ。という意味も込めて、自分のチーム全員に毎日メールを出すことにしました。
テーマは、新型コロナのせいで世界中がロックダウンしているなか、
日本以外の国では何が起きていて、外国のクリエイターたちは何をどう対処しているか?
どんなテーマと撮影方法とどんな手法で何を制作しているのか?
それを、海外の、やはり時間のできたプロダクションの友人達と毎日やりとりして、情報をいただき訳してもらい、
興味深い作品のYoutubeなどの映像のリンクと、その和訳、バックボーンの解説をまとめて、
うざい自分の意見は極力入れずに1日に1つか2つの話題を土日を除いて毎日送り続けました。今も継続中です。
毎日毎日それをやっていると、なかなか日本にいると気にならないことが
外国、特にアメリカでは大問題になっていて、大きく社会が動こうとしているのがわかります。
ロックダウンのなか、最初に目についた各企業のコマーシャルは
クリエイター個人が家で家族と制作する、しかしレベルの高いCMや、リモートの画面をうまく活用したもの。
誰もいない大都市の映像など。
そのうち、コロナに対応している医療従事者へのリスペクトなどメッセージを伝えるもの、
コロナ後の社会を予想するものや、ソーシャルディスタンスもの、ステイホーム、コロナに負けるな的なメッセージものへと展開します。
そして、アメリカで起きた、白人の警官が黒人男性を殺してしまうという事件に端を発したBLM運動※¹が爆発し、
※¹「BLM運動:ブラック・ライヴズ・マターは、アフリカ系アメリカ人のコミュニティに端を発した、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動」
コロナの話が隅に行くほどの勢いでそれに関してのショッキングな内容のCMが一気に出て来ます。
その後、BLMと連動して、6月は世界中でプライド月間(LGBT※²の問題に関するイベントが行われる月間)に突入し、それについてのコマーシャルも増えました。
※²「LGBT:Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつ」
そんな中、一連の事件に対するトランプ大統領のヘイト発言について
明確な対応を取らなかったことへの抗議で米フェイスブックに対して、
スターバックスやユニリーバ、コカ・コーラ、など大手クライアントによる広告出向停止という動きも起こり始めました。
4月に世界的に経済の動きが止まってから3ヶ月ですが、
社会が変わるような大きな出来事、広告にも直接関係するような出来事がどんどん起きています。
アメリカの企業や広告業界はあっという間に反応します。すごいです。
日本でもここ数年、世界の潮流としていろんな言葉が紹介されてきました。
- ソーシャルグッド(Social Good):地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して良いインパクトを与える活動や製品、サービスの総称を指す。
- CSR(「corporate social responsibility」:企業が組織活動を行うにあたって担う社会的責任のことで、社会的責任とは、従業員や消費者、投資者、環境などへの配慮から社会貢献までの幅広い内容に対して適切な意思決定を行う責任のこと)
- SDGs:持続可能な開発目標(SDGs)通称「グローバル・ゴールズ」は、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を2030年の達成を目標に国連発信で呼びかけている。
- アドボカシー(advocacy社会課題を解決するためのキャンペーン):「擁護・代弁」や「支持・表明」「唱道」などの意味を持ち、同時に政治的、経済的、社会的なシステムや制度における決定に影響を与えることを目的とした、個人またはグループによる活動や運動を意味する。
- ダイバーシティ(diversity):ビジネス・経営・人事といった話題において「雇用する人材の《多様性》を確保する」という概念や指針を指す意味で用いられる語。
コロナ以前は、こういう動きが活発化しているということは日本の企業にも伝わって来て、多少、問題や話題になっていました。
企画するときもそういう観点から切り口を探す作業も少しずつ増えて来てはいました。
ただ、このコロナ禍、緊急事態宣言中から今までの日本では、この社会の動きに対してアメリカのような動きはほとんど見られませんでした。
近くで起きている香港の問題も、北朝鮮と韓国の問題も、水害の問題も、ヘイトや差別に関しての小競り合い、
とんでもないことだけど新型コロナウイルス関係でのコロナ患者や医療従事者へのヘイトや差別、
全然減らないパワハラ・セクハラの問題も、日本の中ですらたくさん起きているにもかかわらず、です。
気持ち悪さを感じるのは、僕にそのような問題を指摘する仕事がきたこともないし、日頃、オンエアでもあまり見かけないということです。
コンビニの袋が有料になる、程度。
そこに触るな、という感覚が未だになんとなくだけど日本にあるのはわかります。
コロナでそれどころじゃなかったのかもしれません。
アメリカの広告を毎日見聞きしていなかったら、僕も気づけなかったと思うのです。
ダイバーシティって言えばお台場でガンダムのプラモデル売ってるビルだと思っているようなものです。日本では。
ただ、こんなに対岸の火事的な扱いで本当にいいんでしょうか?
そうではないところにこの最近の問題の根深さと、市場や社会の大きな変化があるんじゃないんでしょうか。
なぜアメリカの大手企業がこれほど迅速に動いたのか?
この数年、NGO(非営利組織)によるアドボカシー(社会課題を解決するためのキャンペーン)に企業が積極的に参加し、
消費者や投資家、さらには社会からの期待に応えようという動きが活発化している背景があるからだと、ある記事には書いてあります。
いろんな社会課題の矛先が自社に向く前に、アドボカシーに参加して積極的な対応を取ることで、
消費者や投資家からの共感を得たいという思いもリスクヘッジとしては考えられますね。炎上対策。
しかし、それは「免罪符」的というよりは、先に手を打つことで、会社の強い意志と立ち位置を社内外に分かってもらおうという必死な気持ちだと思うのです。
若い世代に対しては、彼らは社会課題への関心が特に高い以上、消費者だけでなく、従業員対策としても、
企業の中で社会課題を念頭に置くことが重要になってきました。
おじさんたちの感覚はずれ始めています。
これらはアメリカだけの話ではなく、先進国でも途上国でも、さらには日本でも起きうる「CSRリスク」です。
新型コロナウイルスの感染拡大によってわかっちゃった事は、格差が拡大し、
貧困や生活苦の拡大によって「社会の沸点」が下がり、
その怒りの矛先が企業に向かう可能性を生み出した事です。みんなすぐ怒っちゃう。
それを「対岸の火事」と捉える企業は、火の粉を浴びる時代になってきたことを、
すべての経営者が認識しなきゃいけない時代になってきたんじゃないかと思うのです。
僕が社会人になった時は「プロ野球と政治の話は絶対するんじゃねえ」ときつく言われたものです。
スポーツ選手や芸能人が政治や社会問題に言及すると、いまだにニュースになり、ボコボコに叩かれます。
そういった風潮も、もうやめたほうがいいと思うのです。
立ち位置や考え方を個人が持つ社会でないと誰かにいいようにやられる人生です。
いろんな考えがあるのはわかりますが、今はっきりさせなければいけないのは
違う考えの人も、違う人種も宗教も、性別の考え方も、いちいち敵対せず受け入れなきゃいけないということでしょ?
求められているのは、自分自身や、自分の周りについての不都合な真実であってもしっかりと認め、問題に向き合い、対処することですね。
例えば企業は、どこに広告を出すか、それが社会にどんな影響を及ぼすのかを、慎重に考えるようにならなければならなくなるだろうし。
そしてヘイトスピーチや虚偽の情報を掲載しているメディアに広告費を出さず、表現の自由を逆手に取った無法地帯インターネットより、
質の高いインターネットの構築へ投資するという対応に、みんなで足並みを揃えていってほしいのです。
そういうことに気づいていないと、そして、無知のまま、無関心のままでいると
日本人の最近の傾向「今だけ、金だけ、自分だけ」という本当に卑怯者のような国の人に成り下がっていくような気がしてならないのです。
終始偉そうに書いてしまいましたが、日本の今のことも勉強しなければいけませんし、人間の本質に関わる難しい話でした。
でも未来の子供達のために、いい社会を作るいい転機だったのかもしれないので、逃すのは惜しいような毎日なんですね。今は。