橋の下のニューヨークアート
- Dig It! NYC Vol.1
- Dig It! NYC 藤井さゆり
みなさん初めまして。ひょんなことからニューヨークに住むことになり、このコラムを書かせて頂けることになりました、藤井さゆりと申します。今回より私が住むここニューヨークから、「Dig It (好きもしくは理解するの意味)NYC」と題し、ローカルのクリエイター、デザイナーの生の声や、日常のクリエイティブなデキゴトをお届けできればと思っています。どうぞよろしくお願いします。
現在、私はニューヨークのブルックリンに住んでいます。マンハッタンへは自宅の最寄り駅から地下鉄で20分以内。ブルックリンに住む多くの人は、市民の足である地下鉄を使ってマンハッタンへ通勤しています。ブルックリンは、マンハッタンと比べてローカルっぽさが強く、中には「ブルックリン訛り」を話す人々も。脱力系カフェやレストランが多いのもブルックリンのよいところです。 そのブルックリンの中でも、今、ヒップでアートな街として注目を集めているのが“ダンボ”地区。
先日、そのダンボ(DUMBO:Down Under the Manhattan Bridge Overpass、マンハッタンブリッジの高架下という意味)で開催された、アートフェスティバル“D.U.M.B.O. ART UNDER THE BRIDGE FESTIVAL”に行ってきました。ダンボは、その名の通りマンハッタンとブルックリンを結ぶ橋の高架下周辺に位置し、もともとは倉庫街であった場所を劇場やギャラリー、ショップ、レストランなどに改装して、アーティストやオシャレな若者に注目されるようになった新しい街です。
1997年にスタートし、毎年秋に開催されるこのアートイベントは今年で12回目。2008年は9月26日(金)~9月28日(日)の3日間で開催されました。65以上のインスタレーション、スカルプチュア、パフォーマンスなどのパブリックアートが実施、100組以上のローカルアーティストがアトリエを開放してこのイベントに参加。期間中、全てのアート作品が無料で楽しめます。
私が行った土曜日は小雨が降っていて夕方にも関わらず、ギャラリーだけではなく、レストラン、ショップ、全ての場所が大賑わい。このイベントの面白いところは、街中の至るところにアートが存在すること。ショップ、ビル内の廊下、壁、階段、公園、ウォータータクシー、道路、倉庫。少しでもスペースがあればアートを見せてやろうという意気込みを感じさせます。
立地をうまく利用したアートワークで興味深かったのが、マンハッタンブリッジの下で行われていた光のインスタレーションとビデオアート。ビジュアルアーティストが街をキャンバスとし、彼らのスタイルで、街を、アートを楽しんでいるかのようです。
もう一つ興味深かったアートワークでは、エレベータ前の小スペースで行われていた「ソルト・オファリング」というインスタレーション。「Salt Prayer Wall」と呼ばれる塩で造られた城壁に、訪れた人がそれぞれの願いを込めながらウェットソルトを盛って行くという、儀式的な意味が込められたアートワークです。城壁の小窓からオレンジ色の優しい光がこぼれ、作品自体もたいへん美しいものでしたが、アーティストからのアプローチに応え、訪れた人々も一緒に参加するところもインタラクティブで面白いところ。 制作したアーティスト、メーガン・レボリオスのウェブサイトには「このアートワークを制作しているときに、色々な面が癒された。」と書いてありました。日本にも厄よけのための「盛り塩」という習慣があるように、塩には大きなパワーがあるのかもしれません。 メーガン・レボリオスのウェブサイト http://www.meghanleborious.com/
また、数多くのローカルアーティストがこのエリアでアトリエやオフィスを開放し、このイベントに参加していました。期間中アトリエへは出入り自由。ペインティング、スカルプチュア、グラフィック、インスタレーション……様々なジャンルのアートを見ることができました。 製作中のキャンバス、使用中の絵の具や筆、デザイン書や本が散らばっているのを見ると、ここで制作しているんだなというライブ感が伝わってきます。訪れた人に作品について熱心に説明をするアーティスト、奥のほうでゆっくりのんびりしているアーティスト、入ってみたら食べ物が置いてあるぞと思ったら、仲間同士でパーティーを開いているところもありました。 また、もともと倉庫であった場所をアトリエとして使用されているところが多く、古さと飾り気のなさが却っていい雰囲気を出していました。ギャラリーで展示されているものを見るのとはまた違う面白さがあり、アーティストとの距離も身近に感じられ、このローカルさ、ラフさがニューヨークのよさなのだと思います。
また、このイベントで絵を展示されていた日本人アーティスト、北島志織さんにお会いしました。ニューヨークに住んで1年半になる北島さんは、東京やウィーンでの個展、ソーホーでの企画展に参加されたこともある実力派のアーティスト。何層にも重ね塗りされたアクリル絵の具を削って制作された作品は、繊細なタッチでありつつもダイナミック。女性のエロティシズムをテーマにされているとのことですが、女性の持つ美しさや上品さが感じられる素敵な作品ばかり。日頃アーティストとして、クリエイターとして実行していることは、ポートフォリオとスケッチブックを肌身離さず持ち歩くことだそうです。今後がとても楽しみなアーティストです。 北島志織さんのウェブサイト http://homepage.mac.com/kitajima_siori/
アトリエやギャラリーでは、たくさんの人が作品を前に感想を述べ合ったり、アーティストの話に耳を傾けたりして、アートを通して活発なコミュニケーションが行われていました。ニューヨークという土地柄か、アーティストも訪れる人も多国籍。アジア人も多く日本語もよく耳にしました。ローカルでありつつもインターナショナルなアートイベントです。
イベント主催者であるDAC(ダンボアーツセンター)は、ここで生まれるクリエイティブアートが企業に搾取されないよう保護し、今までにない自由な発想で表現できるチャンスをアーティストへ提供し続けています。だからこそ最先端のアートがここで生まれ、ニューヨークのアートが世界から注目される理由なのでしょう。 DAC(ダンボアーツセンター)ウェブサイト http://www.dumboartfestival.org/
イベントの模様をもっと見たい方はこちらから http://www.flickr.com/photos/26735624@N06/show/
Profile of 藤井さゆり
東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
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