こんなにも政治的なメッセージが盛り込まれた年はなかった、今年のスーパーボウルコマーシャル
- Vol.101
- Dig it! NYC 藤井さゆり
またこの時期がやってきました。毎年恒例、スーパーボウルコマーシャル特集。いや、その前に!
ガガ最高〜!!
Lady Gaga's FULL Pepsi Zero Sugar Super Bowl LI Halftime Show | NFL
今年のハーフタイムショーはレディー・ガガでした。期待以上の力強いパフォーマンスを見せてくれたガガ。冒頭ではアメリカ合衆国の「忠誠の誓い」の一部を引用し、“One Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all”(全ての人への自由と正義を備えた、分かつことのできない、神のもとにある一つの国家)と今のアメリカに向けたメッセージを送りました。
さて、今年51回目となるスーパーボウルは、2017年2月5日(日)にヒューストンで開催。スーパーボウルとは、ナショナルフットボールリーグ(NFL)の優勝決定戦のこと。スーパーボウルはテレビ中継され、全米では1億人以上が視聴すると言われる最大のスポーツイベントです。
そして、同様に注目されるのがこのスーパーボウル中継を挟んで放映されるコマーシャル。なんと広告費は30秒で500万ドル(約5.6億円)!と高額ですが、たくさんの人にリーチできることもあり、毎年かなり力の入ったコマーシャルが作られます。
今年は世相を絡めた政治的メッセージを盛り込んでくるコマーシャルも多く見られ、興味深く、考えさせられるものがありました。個人的に面白いと思ったものをいくつか紹介したいと思います。
84 Lumber Super Bowl Commercial - The Entire Journey
建築資材を供給する企業、84 Lumberによるコマーシャル。メキシコ人と思われる母娘がアメリカへ移住するための旅を描いたもの。長い旅の末、アメリカとの国境で目にしたものは大きな壁。絶望に暮れ、彷徨う二人が気づいたものは……。トランプ大統領の「メキシコとアメリカの壁建設」という政策が注目となっている中で、このコマーシャルはかなりの議論を呼び、テレビではフルバージョンでの放映は許可が降りず、途中でカットされたものとなりました。
We Accept | Airbnb
宿泊先を貸し出しする人、そこに泊まりたい人のためのマッチングサービスAirbnb。全世界で191ヶ国、65,000以上の都市でAirbnb体験が行われているからこそのコマーシャル。「“We Accept” あなたがどこから来ようと、何を信じようと、誰を愛しようと私たちは受け入れます。受け入れると世界はもっと美しくなる。」という、トランプ大統領による移民政策への政治的なメッセージが盛り込まれています。
Budweiser 2017 Super Bowl Commercial | “Born The Hard Way”
スーパーボウルコマーシャルのスタメンであるバドワイザーも、今年は移民をテーマにしたコマーシャルを打ち出しました。夢を持ってドイツからアメリカへ移民として来た、バドワイザーの創業者である若きアドルファス・ブッシュ。「国に帰れ!」と言われながらもセントルイスに渡り、もう一人の創業者であるエーベルハルト・アンハイザーに出会うまでを描いた映画のようなコマーシャル。
Coca-Cola Commercial: Coke Stands by Super Bowl "America the Beautiful" Ad's Message
YouTubeでの公式コカコーラチャンネルでは非公開になってしまったコマーシャル。アメリカで生まれた若いバイリンガルの女性によって、7つの言語で歌われる「America the Beautiful」が使われています。このコマーシャルについては、賞賛の声と「アメリカの言語は英語一つだけだ、コカコーラをボイコットする」という声があり、こちらも議論を呼びました。
Google Home | 2017 Super Bowl Commercial
ハンズフリーの家庭用音声アシスタントデバイス「Google Home」のコマーシャル。昨年はAmazon Echoを取り上げましたが、今年はライバルとなるGoogle Homeが登場。冒頭に出てくるレインボーフラッグ(LGBTコミュニティの象徴)や、様々な年齢や人種の人々が家に帰ってくる様子、Google Homeを通して家族と触れ合うシーンなど、政治的なメッセージは露骨に出してはいませんが匂わせています。そういう見方をしなくても、Google Homeの機能をうまくアピールできており、「カントリーロード」の音楽も耳障りがよく、暖かい気持ちにさせてくれるコマーシャルです。
Audi #DriveProgress Big Game Commercial – “Daughter”
自動車メーカー、アウディは「男女間の賃金格差」について焦点を当てたコマーシャル。昨年、ワールドカップでの優勝経験もあるアメリカのサッカー女子代表チーム選手の収入が、男子代表チームより25%少ないと訴えを起こしたことにより、男女選手の収入格差を廃止するようアメリカサッカー連盟に求める決議が可決されたことや、2016年のthe US Joint Economic Committeeのレポートによると女性は平均で男性より21%少なく賃金が支払われている事実もあり、アメリカでは男女間の賃金格差は見過ごせない社会問題となっています。コマーシャルは、娘が出場する車のレースを見守る父親目線で描かれており、娘が男の子のドライバーを打ち負かしスカッとするエンディングとなっています。
Tiffany & Co. — Introducing Lady Gaga for Tiffany HardWear
ティファニーがスーパーボウルのコマーシャルに登場!新しいキャンペーンの広告塔であるレディー・ガガを起用しています。このコマーシャルの後、ガガによるハーフタイムショーがスタート、という流れ。個人的にティファニーはセレブを広告塔に使うイメージがないので意外でした。
Watch Einstein Play Lady Gaga On the Violin | ‘Genius’ SB51 Commercial With Geoffrey Rush
レディ・ガガのハーフタイムショーのすぐ後に流れたコマーシャルがこちら。俳優、ジェフリー・ラッシュが演じるアインシュタインがバイオリンを演奏。なんと彼が弾き始めたのはガガの「Bad Romance」!これはナショナルグラフィックチャンネルの新番組「Genius」の宣伝なのですが、なかなかのサプライズです。
Who Is JohnMalkovich.com? | Get Your Domain Before It’s Gone | 77s
ウェブサイト制作からドメイン、サーバーまでウェブに関する一切のサービスを提供するSquarespace。最近は毎年のようにスーパーボウルコマーシャルを打ち出していますが、個人的にこれがベストだと思います。今年は演技派の俳優、ジョン・マルコビッチを起用。彼は自身がデザインするファッションブランドを立ち上げていますが、ウェブサイトのドメイン“JohnMalkovich.com”がすでに取られており、怒り心頭でそのドメイン主に連絡を取る、というコメディ仕立てのコマーシャル。
いかがでしたでしょうか。
私が過去に見てきたスーパーボウルコマーシャルでこんなにも政治的なメッセージが盛り込まれた年はなかったのではと思います。コマーシャルは“顧客への訴求”という目的の他、世の中で今問題になっていることへの企業の姿勢や意思表示をテレビコマーシャルという媒体を通して表現するという側面もあるのだなと思いました。もちろんそこから「嫌い」「不適正」といった反応など、問題になったり、物議を醸し出したりすることもありますが、それは私は世の中的には「良いこと」だと思っています。それによって、改めて考えさせられたりすることもあるはずです。
この他にここで紹介しきれなかったのもありますので、全てのコマーシャルを見たい方はこちらをチェックしてみてくださいね。
Profile of 藤井さゆり
東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
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