「頼まれていないこと」をやる。コルクの佐渡島さんが語る、令和時代のクリエイターの輝き方
コミック、エッセイ、小説、音楽、動画。たくさんの才能がインターネット上にあふれている時代に、クリエイターはどのように自分の強みを見つけて、世の中に発信していけばいいのでしょうか? 多彩な才能と日々触れ合う佐渡島さんに、インターネットを通して自分の個性を発揮する方法を伺いました。
「作品の質」と「労力」は関係ない
佐渡島さんが代表を務める株式会社コルクには、「漫画家」「小説家」「ライター」など、数多くのクリエイターが所属していますよね。クリエイターとファンをつなぐために、具体的にどんなことをしているんですか?
クリエイターが創作に夢中になれるように、生活環境を整えることがコルクの仕事です。
例えば、クリエイターが楽しんで作ったものを商品として加工したり、クリエイター本人のSNSから、他のプラットフォームに行動範囲を広げる手伝いをしたり。「お金を稼ぐ」部分を、コルクがサポートしているんです。
あくまでも、創作するのはクリエイター本人なんですね。
そうです。ただ、どれだけ素晴らしいゴルフプレーヤーでも必ずコーチがいるのと同じで、クリエイターにもフィードバックしてくれる人間が必要です。
何かを作り上げたときって、達成感があるじゃないですか。「自分で作ったぞ!」の気持ちが強いと、作品の質がどうであれ、クリエイターがそこで満足してしまう可能性がある。でも、作品の質に、クリエイターの達成感は関係ないですよね。弊社では客観的な意見を伝えることで、作品のクオリティを高めているんです。
作品のクオリティを高めるために、どんなことをクリエイターに伝えているんですか?
「僕はこの作品からこういうメッセージを受け取ったけど、あなたが伝えたいメッセージと同じ?」と確認するんです。クリエイターの伝えたいことが作品で表現されていれば、僕が受け取ったものとイコールになるはず。
僕が受け取ったものがクリエイターが意図したメッセージと違ったり、作品から何も伝わってこない場合は、クリエイターが伝えたいことが作品で表現しきれていないってことですよね。
「作品から受け取ったメッセージ」と「クリエイターが作品で伝えたいメッセージ」を、すり合わせているんですね。自分の達成感に惑わされずに、クリエイター本人が作品の質を高めていく方法はあるんでしょうか?
作品の質に、自分の疲労感を入れないことが大切だと思います。「これだけ時間をかけたから、いいものだろう」「こんなに努力したから、クオリティは高いだろう」って。
会社員に当てはめると、「これだけ残業しているから、自分は評価されるはずだ」とか。本来は、残業時間ではなく、仕事の成果で評価されるべきですよね。
自分の作品を客観的に見るには、「達成感」だけでなく、「費やした時間や労力」もいったん忘れたほうがいいということでしょうか?
そうそう。「自分の感じている達成感や疲労感は、作品の質に関係ない」と自覚していれば、冷静に作品を見直せると思います。
クリエイターの苦労は、作品を受け取る側からしたら関係ないことですからね。
「頼まれていないこと」をやる人は強い
自分の作品を世界に発信したいクリエイターにとって、今はどんな時代だと思いますか? 個人的には、SNSなどで発信しやすいメリットがある反面、たくさんの投稿に埋もれやすいデメリットもあると感じています。
確かに、発信はしやすくなったと思います。昔は、熱意を持って漫画や小説を書き上げても、出版社のOKが出ないと世に出せないこともあったでしょうね。
発信するうえでの制限が昔はたくさんあったけど、今はとても少なくなっている。本当にクリエイティブな人には、すごく有利な時代だと思います。
「本当にクリエイティブな人」というのは、どんな人なんでしょう?
僕がクリエイターとしての才能を感じるのは、「誰にも頼まれていないことをやる人」です。
「お金がもらえる」「人から注目される」と期待せずに、自分がやりたいことを毎日やる人。誰にも依頼されていないのに、ついやっちゃう人。自分ができるようになりたいことを、毎日やりさえすれば、クリエイティブの質は必ず上がっていくんです。でも、それができる人はほとんどいない。1カ月続く人も少ないし、3カ月続く人はもっと少ない。だからこそ、毎日できる人は、それだけで才能があるんです。
「毎日やる」、単純なようですごく難しいですね。
なかなか難しいと思いますよ。何かを継続するために、強制力や不安感が必要な人も多いですから。
例えば「勉強する」という行為も、自ら問題集を解いたり、教科書を読んで勉強すればいいだけです。でも、ほとんどの人はできない。だから中間テストや期末テスト、受験がある。何らかの強制力の中で、みんな勉強しているんですよね。「仕事する」のも、働かないと生活ができない不安感があるから。
こんな世の中で、不安を感じずに自分がやりたいことを淡々とできる人は、本当にすごいんです。令和時代にインターネットの世界で勝てるのは、誰からも強制されず、自分の「やりたい気持ち」に従って行動した人だと思います。
「お金が欲しい」は、やっぱり人間の欲求として強いと思うんですが、お金が欲しいから行動するのは駄目でしょうか……?
いや、駄目ではないですよ(笑)。「お金が欲しい!」と行動して、結果的に成功した人もいると思います。
ただ、お金を目標に成功した人は、どうしても成長がストップしやすいと思います。実際にお金を得たら、そこで満足してしまうから。
自分のやりたいことに夢中になっていたら、一定のお金を得たとしても、熱意が消えることはない?
実際に、僕が担当していた『宇宙兄弟』の作者、小山宙哉(こやま ちゅうや)さんはすごかったですよ。宇宙兄弟の連載が開始された頃、12月31日に小山さんから原稿を受け取ったんです。
年が明けて、少しくらいお休みになったかなと思って「お正月はゆっくり休めましたか?」と聞いたんです。そしたら、1月1日の午後から仕事していたそうで。「半日完全に休んだのは、1年ぶりでした」って言うんですよ。
ほとんど、1年中漫画を書き続けていたということですね……!
そうそう。でも、驚いたのはその後です。「そんなに休んでいないと、大変じゃないですか?」と小山さんに聞いたんですよ。
それに対して、「仕事している気持ちはなくて、ずっと遊ばせてもらっていて悪いなと家族に思っているんです」と返ってきて。 すごいですよね。第一線で活躍している人の言葉だな、と感じました。
継続に必要なものは「健康な心身」
「継続したい、でもできない」という人も、きっといると思うんです。「やる気が出ない」「気分が乗らない」という日もあるでしょうし……。
継続できない人は、そもそも疲れていて動けない可能性もあると思いますよ。人間は健康であれば、やりたいと思ったことは勝手にやるんです。それができないなら、自分が気付いていないだけで不健康なのかもしれない。
何をするにも、土台となるものは「健康」です。「仕事」や「お金」が、「健康」より優先されてしまうのはおかしい。土台が崩れてしまうから。
疲労している人ほど、魔法みたいなアイデアを欲しがるんですよね。「これさえやっておけば大丈夫!」ってやつ。でも、残念ながらそんなものはないです。コツコツとやり続けるしかない。やり続けるためには、疲れをしっかり自覚して、ケアする必要がある。
そのために、佐渡島さんが日常的に取り入れていることはありますか?
僕の場合は、睡眠時間や心拍数をすべてアプリで管理しています。健康状態が数値で可視化されるので、疲れを自覚する前に、「数値が悪いから疲れが溜まっているんだな」と分かるんです。
健康状態が分かると、「睡眠不足だから今週はいつもより長く眠ろう」と、自分をケアするための選択ができる。アプリを使用しなくても、毎朝起きたときに体と心の状態をメモしておくだけでもいいと思いますよ。
質のいいクリエイティブを生み出すには、健康な心身があってこそなんですね。クリエイターの発信方法についても、ぜひお聞きしたいです。「創作熱意はあるけど、発信が下手な人」もいると思うのですが、世の中に見つけてもらうにはどうしたらいいでしょう?
発信方法については、深く考えなくてもいいと思います。「安定的にしっかり作って、インターネット上に置いておく」ことができていればいい。クリエイティブの質がよければ、誰かが見つけて、勝手に拡散してくれる時代ですから。
「Twitterの140字の中で、人目を引くことを言わなきゃ!」とか意気込む必要はないです。「バズりたい」ではなく、「自分がやりたいからやっている」なら、他者評価を気にする理由もないですよね。
「バズりたい」「有名になりたい」の気持ちに、つい引きずられてしまうこともありそうです。どうしたら、純粋な気持ちで創作を楽しめますか?
「他者評価」よりも、「自己評価」を意識することでしょうね。
自己評価がうまいと、「今回はここがよかったけど、ここが駄目だった。次はここにトライしよう」と、永遠に自分の中で課題が見つかるんです。課題をこなしていくうちに、どんどん自分の実力が磨かれていく。
他者評価は、人によって意見がバラバラですから。評価する声もあれば、批判の声もあります。たくさんの声に振り回されてしまうと、クリエイティブの質がにごると思いますよ。
人の評価が気になってしまうときは、どうやって自分の軸を守ればいいでしょう?
「自分は何のために作っているのか?」を考えたらいいと思います。クリエイティブの一番の目的は、自分を喜ばせることのはず。自分自身が最高に喜ぶものを、同じように喜ぶ人に分けているだけなんです。
どうして作り始めたのか、どうして今でも作っているのか。他人の気持ちではなく、自分の気持ちと向き合えば、自分の軸を思い出せるんじゃないでしょうか。
最後に、今後コルクを通して成し遂げたいことがあれば、教えてください。
クリエイターが楽しみながら創作できる環境を、今後も作っていきたいと思っています。
昔は、例えば漫画家だったら、すでに完成している出版社の仕組みを使わなくてはいけなかった。今は、そんな仕組みがない環境でも、自由に作品を作ることができます。ただし、自由だからこそ、正解が分からない。これからどうなるか、まだ誰も知りません。クリエイターと一緒に試行錯誤しながら、「クリエイターが作品を作りやすい世界」を、一緒に模索していきたいですね。
取材日:2020年12月15日 ライター:くまのなな スチール:幸田森
撮影場所:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)
■ホームページ:https://corkagency.com/ ■Twitter:@sadycork