新ゲーム「マーダーミステリー」って何? なぜ、人々が熱中するのか? バズる秘密に迫る!
マーダーミステリーというジャンルのゲームをご存知ですか? 殺人事件を題材としたシナリオが用意され、プレイヤー(参加者)は推理小説のような物語の登場人物に扮して、犯人を推理したり、犯人ならば捜査から逃げたりと、制限時間内に各々の目標達成を目指すゲームです。
日本では2019年に動き出したばかりの、まだ新しいゲーム「マーダーミステリー」 において、名作と呼ばれる『ランドルフ・ローレンスの追憶』を創作したゲームクリエイターの佐藤倫(さとう りん、通称じゃんきち)さんに制作の裏側を伺いました。ハマる人が続出しているマーダーミステリーを知ることで、バズる仕掛け作りのヒントが得られるかもしれません。
ゲームを作るために、常に「驚き」を探している
ゲーム制作に携わるようになったきっかけを教えてください。
6年ほど前、スマホゲーム『パズル&ドラゴンズ』(パズドラ)が運営メンバーを募集していたのに興味が湧いて申し込んで、いろいろな企画書を作ってみたら、めちゃくちゃ面白かったんです。結局入社はかないませんでしたが、それがきっかけでゲームの企画を考える仕事を志望するようになりました。
ゲームプランナーになりたくて、今取材いただいているフェローズさんに応募したんですよ。「プランナー志望だけど未経験なので、ステップアップするためにデバッカーから入りたい」と申し込んだら、「最初からプランナーで入れるところがあるのでどうですか」とお話をいただいて、ソーシャルゲームの運営会社でプランナーの仕事に就きました。
弊社で就業されていたなんて驚きました。では伺いますが、 制作のフィールドがデジタルゲームからアナログゲームに移ったのはなぜでしょうか?
プランナーとして働いているときに趣味で「人狼ゲーム」を始めたら、一緒に遊んでいた人にお店をやらないかと誘われて、面白そうだなと思って「人狼ゲーム」のお店に関わることを決めました。でもゲームを作ること自体は好きだし、いつかまたプランナーに戻りたい気持ちもあります。少しずつゲームを作り始めて、その中の一つが『パンドラの人狼』でした。
『パンドラの人狼』は、「配役が非公開の状態で自分にどんな役割があるのかを考えながら立ち回りを検討する」ことに軸を置いた人狼ゲームです。プレイヤーは、ゲームの中で物語を体感しながら他プレイヤーと交流し、自分の役割を模索していきます。
普段ゲームを作るときは何から着想を得ることが多いんですか?
特に意識して探そうとしているのは「驚きのある仕掛け」です。マーダーミステリーやパンドラの人狼は一度遊ぶと二度と同じシナリオを遊ぶことができないのですが、その理由はこの「驚きのある仕掛け」が積まれているからです。
犯人が誰か分かってしまうという単純な問題に限らず、映画のラストでの大どんでん返しのようなものを常に探しています。
年末にシナリオを募集するコンテストも開催されましたよね。今後マーダーミステリーのように『パンドラの人狼』が1ジャンルに昇華することはありますか?
マーダーミステリーほどは流行らないと思いますが、同人コンテンツとして細く長く続くんじゃないでしょうか。
不満点を潰して出来上がった作品『ランドルフ・ローレンスの追憶』
では今度は、熱狂的なファンも多いマーダーミステリーの名作『ランドルフ・ローレンスの追憶』(通称ランドルフ)について聞かせてください。制作には、何かきっかけがあったのでしょうか?
初めてマーダーミステリーをプレイしたときに、ゲーム構成自体は面白いと思ったんです。例えば映画を見ても主人公に感情移入したり、主人公の気持ちを考えたりすることはあっても、自分が物語の登場人物になって発言する体験はないじゃないですか。そこはすごく面白かった。
ただ「もっとうまく作れる」って思いました。その不満を潰して制作したのが『ランドルフ・ローレンスの追憶』です 。
例えば、どんな不満が解消されたのでしょうか?
「ランドルフ」は、マーダーミステリーとしては特殊なシステムを積んでいます。物語は、プレイヤー全員が自分の名前以外の一切の記憶を失っている状態から始まるんです。
マーダーミステリーって、通常A4用紙2~3枚ほどのシナリオを10分程度の短時間で読み込んで、そのキャラにならないといけないので、遊ぶ人がすごく大変。その問題を解消するために記憶ゼロで、物語が進むうちにだんだん記憶が戻っていくシステムを構想しました。
ずばり、マーダーミステリーの魅力とはなんでしょうか。
人間にとって「会話は最大の娯楽だ」と言われています。そんな会話がゲームのUIとして機能していることが、アナログゲーム独自の魅力なんですね。
会話のきっかけになったりその内容を面白くしてくれるツールが、マーダーミステリーや人狼ゲームのような会話中心のアナログゲームです。マーダーミステリー最大の魅力は、コミュニケーションツールとして非常に優れていること。目的を持った会話をさせてくれるところじゃないでしょうか。
シナリオを読んだ人の行動を作る
でも、何をしでかすか分からない人間の行動をゲームに取り入れるって、一筋縄ではいかないですよね。私は参加者が常に一定の満足度を得られることが「ランドルフ」の魅力だと考えていますが、ゲームを作るうえでプレイヤーの行動管理をどの程度考えてますか?
おっしゃる通り、プレイヤー全員が一定の満足を得るために、「ランドルフ」はかなりしっかりレールを引いていますが、そのレールをなるべく感じさせたくない。なるべく自由を感じてもらいつつ高い満足度に到達させるための設計を目指しています。
自由を感じさせるために、外せないキーワードってありますか?
これは制作の領分ではなくて、ゲームマスターの領分になってきますね。
マーダーミステリーゲームで遊ぶ際には、GMというその場を管理してくれる人がいます。プレイヤーが作者の想定しているレールから外れそうになったらGMが誘導を入れるんですが、露骨に見えないようにすることが大切です。「ランドルフ」は非常に特殊で、GMのアドリブやその場の回し方がゲームに強い影響を与えるんです。
「ランドルフ」は、芝居的なGMも特徴の一つですよね。これによって得られる没入感が、自由を感じさせるヒントになるのでしょうか? 没入感を高めるための仕掛けって何かありますか?
プレイヤーが現実に帰る瞬間を極力なくしてあげることですかね。例えば会話の中でうっかり現実的な発言をしてしまう瞬間。これは事前に注意事項として「プレイヤー同士、キャラクター名で呼び合いましょう」などと説明をしています。
それから他作品との細かな違いとしては、「ランドルフ」では、ゲームの休憩時間中にゲーム内容に関する会話を許しています。休憩はどうしても必要ですが、なるべくゲームの世界から外れてほしくないので会話を許しています。
構築した世界の中に、「いかにいてもらうか」が大切なんですね。
没入感についてはよく聞かれるんですけど、答えるのが非常に難しいです。制作時に意識していることは、常にプレイヤーの立場で考えること。自分がプレイヤーだったら、何があれば物語に入り込めるか、どんな演出があったらうれしいか、そんなことを常に考えています。
我々はシナリオを書くためにゲームを作っているわけではなくて、それを読んだ人の行動を作るためにゲームを制作しているのだと意識しています。
とがった作品を作ることで、誰かの一番になる
制作時には、どの程度の反響を期待していたんですか?
単に自分が作りたいものを作ったので、反響の大きさや、どう商業的に成功させるかは考えていませんでした。そもそも「ランドルフ」って、5時間で8人ずつしか体験できないのでコスパが非常に悪いんですよ。これが商業としてギリギリ成り立っているのって、私一人で全部やっているからなんです。
商業を意識した作品は、まずプレイヤー数が多いです。基本的に10人まで参加できて、かつ公演時間も3~4時間でまとめたい。そういうのが商業を意識したマーダーミステリーなんですけど、「ランドルフ」は私が作りたいものを作って、皆に楽しんでほしかっただけだった。ただ、完成した時点では「これは面白いものが出来たんじゃないか…!」とワクワクしていました。
「作りたいもの」と商業との両立は実現できますか?
まず「作りたいものを作る」という言葉をそのまま受け取られると意図を曲解されそうなので詳しく話すと、私が作りたいものって、「プレイヤーがMAX楽しいもの」なんです。つまり、自己表現や自己主張のために作品を作るのではないってこと。
制作時には、基本的に商業のことは考えずに作ります。なぜかと言うと商業を前提としたものづくりって、企業がやっているじゃないですか。私個人の制作で、企業に正攻法で勝つのって不可能ですよね。なので武器が必要で、商業を前提としないならば「捨て身のものづくりをすること」が強みになるんじゃないかなって思います。「ランドルフ」も商業ベースで作っていませんが、面白ければ後から商業として成り立たせることは、どうとでもできるんじゃないですか。
今後「ランドルフ」を超える作品は生まれるのでしょうか?
絶対に生まれると思いますよ。だって「ランドルフ」にしても、ゲーム構成に関わるために解決できない欠点があったんです。もちろん単に欠点とは決められなくて、いろんな要素とトレードオフになっていました。
例えば先ほどの、レールが敷かれているかどうかっていう話。最近Twitterでマーダーミステリー『殺意の特異点』作者のNOVAKさんが話していたんですが、マーダーミステリーの分類方法の一つとして、「物語体験装置」と「物語発生装置」の2種類があると思うんですね。
「物語体験装置」は作者が想定したシナリオを基本的にそのままなぞる、参加したメンバーの内面に関わらず、ほとんど同じような体験をする。一方、「物語発生装置」は明確なレールが敷かれていなくて、プレイヤーが自分で自由に物語を作ってしまう。それぞれに良さがあるんですが、基本的に両立不可能で、どうしてもどちらかに寄ってしまうし、どちらが好ましいかは人によります。
なので、「ランドルフ」を超えるのは簡単なことです。ゲーム構造として、「ランドルフ」がとがっていない部分をとがらせた作品を作れば、必ず何らかの形で超えられると思います。
今だからこそ、「面白いアナログゲーム」が求められている
じゃんきちさんは、人々が求めるゲームってどんなものだと思いますか?
「会話」は最大の娯楽であると思っていて、人間は誰しもがいつだってコミュニケーションを求めています。かつwithコロナ時代だからこそ、対面で人と会える機会をより良いものにしたいと思うんじゃないでしょうか。「面白いアナログゲーム」もより求められるようになるのではないかと思います。
今はだいぶ慣れてきましたが、初期のコロナ禍の頃って窮屈だったじゃないですか。ZOOMなどの代替手段を見つけて、遊ぶのにもだんだん慣れてきましたよね。でもやっぱり対面でゲームを楽しむことは、求められるようになるんじゃないかな。人々が飲み会を続けているのがすべてだと思います。皆、会話が好きなんです。 なのでwithコロナ時代においても、マーダーミステリーの灯火が消えることはないと思います。幅広く拡散はしにくくなっちゃいましたけど、じわじわと広がっていってほしいですね。
最後に、マーダーミステリー未経験の方へ、お勧めの始め方をアドバイスしてもらえますか?
東京なら専門店「Rabbithole(ラビットホール)」さんです。私の「ランドルフ」を応援して公演もしてくださっているので手前みそなんですが、この店の公演はクオリティが高いので、行って間違いないです。それ以外の地方の方は、近隣のマーダーミステリーを扱う店舗に行ってみてください。遊んでいる人たちが新規の人を見つけ、沼にはめようと、あなたにとても親切になってくれるはずです。安心して沼に引きずり込まれてください。
『ランドルフ・ローレンスの追憶』はちょっと長い公演ですけど、初めてでもプレイしやすいようにセッティングしてあるので、いきなり遊んでいただいても問題ありませんよ。
取材日:2020年12月11日 ライター:渡辺りえ