始まりは貯金0の野宿生活! 生活雑貨店「オーサムストア」全国展開の道のり
今回は、代表取締役社長を務める堀口康弘(ほりぐち やすひろ)さんにお話を伺いました。順風満帆に見えるオーサムストアの歩みですが、堀口さんの口からは「無一文の野宿生活からスタートした」と波乱万丈の過去が飛び出します。
全国各地に店舗を持つまでの道のり、ブランド独自の強み、さらに「自分の強みがわからない」と悩むクリエイターへのメッセージまで、詳しく語っていただきました。※2021年3月時点
自宅にいながら、店舗の世界観を味わえる
まずは、オーサムストアトーキョーのオープンおめでとうございます! 店内の世界観が確立されて、まるでテーマパークに遊びに来た気分です。
オーサムストアの世界観を表現するために、内装にはとてもこだわりました。1階の内装はブルックリン地区の地下鉄、2階はニューヨークの街中をイメージしているんですよ。
オーサムストアトーキョーは、オンラインとオフラインを融合させたOMO型(Online Merges with Offline)の店舗だそうですね。具体的に、今までの店舗となにが違うんでしょう?
オーサムストアトーキョーが目指しているのは、「オンラインとオフラインの垣根をなくす」ことです。お客さまがどこにいても、買い物を楽しんでいただける環境を整えたい。
そのために取り入れたアイデアのひとつが、この放送ブース「ASスタジオ」です。オーサムストアトーキョーが出店した渋谷は、流行の発祥地です。渋谷の地で生まれるトレンドを、ここから世界に発信します。
壮大な試みですね……! 具体的には、どのような方法で発信していく予定ですか?
YouTube( https://www.youtube.com/channel/UC9epbI7w7verpCiLQ-THxoQ )やInstagramなど、さまざまなSNSを活用する予定です。店内の様子を紹介したり、オーサムストアの売れ筋商品をピックアップしたり……。アーティストを招いて、コラボ商品を開発する計画もありますよ。スマートフォンやパソコンで配信を楽しめるのはもちろん、店舗にご来店いただいたお客さまは、リアルタイムで配信の様子を見ることができます。
自宅にいても店舗にいても、同じように配信を楽しめるんですね!
コロナ禍の影響で、買い物の方法はガラリと変化しました。自宅にいながら、通販サイトでショッピングする方もグッと増えましたよね。オーサムストアトーキョーでは、店舗で買い物をするワクワクを、ネットショッピングでも感じていただきたいんです。「ASスタジオ」からの配信で、店舗の空気や渋谷のトレンドを身近に感じてもらえたらうれしいです。
オンラインとオフラインをつなぐために、オーサムストアのアプリもリニューアルしました。店内の商品バーコードをアプリで読み取ると、自動的に「お気に入り」に入ります。
あとは、他のお店の商品と見比べてもよし、自宅で購入を検討するもよし。ご自身のタイミングで、いつでもどこでもショッピングを楽しんでいただけます。
オーサムストアには、「店舗限定」「通販限定」の商品はありません。お客さまに合った方法で、生活を彩るアイテムをぜひチェックしていただきたいです。
ブランドの世界観は「一言」にまとめない
オーサムストアトーキョーのオープンで、オーサムストアは合計59店舗となりました。どうやってここまで事業を拡げられたのでしょうか?
やっぱり、オーサムストア独自の世界観を確立できたからだと思います。うちの商品は、ほぼ100%オリジナル。企画、デザイン、製造、すべて内製化しています。生活雑貨でここまで自社で対応しているのは、日本ではなかなか珍しいですよ。
オーサムストアでしか買えない商品を、自社で作り上げる。お客さまに打ち出したい世界観を、社内では「オーサムイズム」と呼んでいるんですが……。オーサムイズムを意識した商品開発を、なにより重視しています。
ブランドの世界観を会社全体で認識するのは、規模が大きくなるほど難しい気もします。オーサムイズムを社内で徹底するために、なにを意識していますか?
常にみんなで話すことです。「どんな商品を作るか?」「こういうデザインはどうか?」と。ベテランも、新入社員も、社長である僕も、企画会議では対等の発言権を持っていて、これが重要なんだと思います。みんなであれこれ意見を出しているうちに、全員が「これだ!」というものが出てくるんですよ。
ブランドのイメージをデータにまとめて、全体共有して終わり……という会社もあると思うんです。堀口さんは、全体のコミュニケーションを意識しているんですね。
オーサムイズムは、「一言でこう!」と言えるものではないんです。一言で言えるような世界観は、飽きられるんですよ。トレンドはどんどん変わる。
それに合わせて、オーサムイズムは変化します。変化させなくてはいけない。過去に決めたブランドイメージを守り続けているだけでは、あっという間に世間に置いて行かれるからです。
トレンドに合ったオーサムイズムを、「オーサムストアらしさ」を保ったまま確立する。そのためには、みんなで意見をすり合わせながら、「これがいい!」とピンとくるものを探っていくのが一番いいんです。
世界観といえば、オーサムストアの商品からは、どこかレトロなヴィンテージアメリカンの雰囲気が伝わってきます。これは、堀口さんの渡米した経験が影響しているんでしょうか?
そうですね。僕自身のアメリカで過ごした日々が、オーサムストアの世界観の土台になっています。アメリカで過ごした日々は、本当に濃厚でしたから……。
コネもない状態でアメリカへ渡って、最初は治安が悪い地区のリカーショップ(酒屋)で働いていました。夜道で拳銃を突きつけられ、財布を盗られたこともありますよ。
それは、壮絶な体験ですね……! 堀口さんは元々画家を目指していたそうですが、どうしてアメリカに行こうと?
画家を目指して九州から上京し、国立東京芸術大学を受験したんですが……。残念ながら、二度挑戦するも合格は叶わず。人生で一番大きな挫折でしたね。
落ち込みながらも「これからどうしよう?」と考え始めて、ハッとしたんです。「周りは大学に受かっている人ばかり、普通にやっていたら勝てない。人がやらないことをやらなきゃ!」と。それで、「とりあえず日本から脱出しよう」と思いつきました。
「とりあえず日本から出る」という発想が、なかなかワイルドですね。
当時は19歳で、若さゆえの勢いもあったんでしょうね。「海外に行くなら家はいらないな」と、まずはアパートを解約しました。家賃がもったいないですから。
寝袋だけ購入して、公園で寝泊まりする生活がスタートしました。無一文だった状態から、半年ほど肉体労働をして50万円貯めて。コネもない状態で、公園からアメリカに渡ったんです。
公園から、アメリカに……。無一文の寝袋生活から、今では全国各地に店舗を持つまでになったんですね。まるで映画のようです。
本当にいろいろありました。すべてを語るには膨大な時間がかかるので、割愛しますけど(笑)アメリカに行かなかったら、オーサムストアが生まれなかったことは間違いないです。
僕も、決していつでも成功してきたわけではないですよ。オーサムストアがここまで大きくなったのは、それまでにたくさんの失敗があったからです。
「失敗が怖い」そう思うのは当たり前
将来に不安を感じている方の中には、従業員数800人以上の企業を運営する堀口さんの言葉を「キラキラと輝く成功譚だ」と遠く感じる人もいる気がしていて。でも、堀口さんもたくさんの失敗を経験してきたんですね。
もちろんです。今までの人生、すべてが順風満帆ではありませんでした。オーサムストアでオリジナルデザインにこだわっているのも、過去に挑戦した卸売りの売上が、まったく伸びなかったからなんですよ。
それも、「オリジナル商品」だからといって必ずうまくいくわけではないんです。お客さまの購買意欲を刺激する物、購入後にしっかり満足していただける物を真摯に考え抜いたからこそ、今の結果にたどり着けたんだと思っています。
昔は、たくさんのブランドの商品を、自店に並べているだけでした。もちろんその方法で成功している企業もあるけど、うちはうまくいかなかった。この失敗があったからこそ、「商品を仕入れて売る」ではなく、「商品を考え抜いて作って売る」方向に舵を切ったんです。
順風満帆に生きてきた人なんて、ひとりもいないと思います。不安を抱えながらも、強がるのがうまい人がいるだけ。僕だって、けっこうビビりですよ。
コロナ禍の影響がまだ大きい中、この時期に新店舗のオープンを決めた堀口さんは、とても強気な方なのかと思っていました。「ビビり」にはまったく見えないです。
いやいや、不安だらけでしたよ。この先、世界がどうなるのか誰もわからない。リスクは絶対にあると思っていました。それでもオープンを決めたのは、「これ以上の最悪はないだろう」と思っているからです。
この考え方は、昔からそうです。渡米したときも、「今がきっと人生の底だ」と思っていました。「底にいるなら、あとは上がるだけだ」と。
失敗を恐れて何年も足踏みしていたら、企業はやっていけません。怖くても、前に進んでいかなければいけない。それは、きっと人生も同じだと思います。
「不安」や「怖さ」は、克服するものだと思っていました。でも、その感情を抱えた自分を認めてあげるほうが、大切なんでしょうか。
そうだと思いますよ。緊張しやすい人もいれば、不安を感じやすい人もいる。それでいいと思います。自分の気持ちを認めたうえで、挑戦することが大切です。
不安を感じながら、それでもやってみる。成功も失敗もあるでしょう。そして、失敗したら「失敗した」で終わらせないことも重要。僕がオーサムストアの商品で覚えているのは、ヒット商品ではなく、売れなかった商品です。「どうして売れなかったのか」と考え続けると、「じゃあこうしてみようか」と失敗からアイデアが生まれる。
「失敗」で終わらずに、「挑戦の途中」になるんです。
自分が諦めなければ、挑戦は終わりません。そもそも、そんな簡単に成功する人なんていませんよ。オーサムストアだって、まだ挑戦の途中です。
堀口さんは自分と他人を比較して、落ち込んだ経験もあまりないですか?
人と比べたときから自信をなくすと考えているので、比較はしません。自分と周りを比べても、どちらが優れているか答えは出ないんです。それが分かる人なんて、ひとりもいないと思いますよ。
クリエイターやアーティストは特に、「自分を評価するのは自分」であるべきです。自分の作った作品に点数をつけるのは「自分」で、他に採点者はいないはず。
オーサムストアの商品も、最終的には僕がすべてチェックします。僕を通さない商品はお店には並びません。それは、自分の軸を信じているから。
「自分はなにがしたいのか?」を自分自身に問いかけて、やりつくす。失敗を恐れていてはやりきれません。失敗は怖い、そう感じるのは当たり前です。それが人間です。それでも、自分を信じてやることは全部やる。
自己評価を意識すれば、他者評価に振り回されることもないと思いますよ。
自分軸で決断している堀口さんだからこそ、説得力のある言葉でした。最後に、オーサムストアの今後の展望を教えてください。
渋谷には、オーサムストアトーキョー以外にもたくさん魅力的なお店があります。他のお店とも協力しながら、さらに渋谷の街を盛り上げていきたいです。渋谷で努力する企業は、ライバルではなく仲間だと思っているから。
もっと新規店舗が立ち上がってほしいし、機会があれば積極的にコラボもしていきたいです。
あとは、海外進出も計画しています。まずは日本と同じ米文化の国に合わせて、さらに使いやすいように商品をアレンジする予定です。オーサムストアを支える「オーサムイズム」を、世界中に広げていきたいですね。
取材日:2021年3月8日 ライター:くまの なな
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