「才能が認められる世界を作る」クリーマ代表に聞く、自分の作品の広め方
オリジナルの服やアクセサリー、インテリア雑貨やフードまで、数多くのハンドメイド作品を販売する「Creema(クリーマ)」。2021年6月時点で21万人以上のクリエイターが集まる、日本最大級のハンドメイドマーケットプレイスです。
今回は、「Creema」を運営する株式会社クリーマの代表取締役社長、丸林耕太郎(まるばやし こうたろう)さんに、ご自身の経歴と「Creema」が生まれたきっかけ、また自分の作品を広める具体的なアイデアについて、詳しく伺いました。
才能のある人がきちんと評価される世界をつくりたい
「Creemaを運営しているのはどんな人?」と、気になっているクリエイターさんもいるかと思います。まずは、丸林さんご自身のお話を聞かせてください。 丸林さんは大学在学中にプロとして音楽活動をしていたそうですが、どうしてハンドメイド業界に舵を切ったんですか?
実は、「ハンドメイド業界」に舵を切ったつもりはないんです。僕が目指しているのは、「クリエイターを応援できる場・仕組みを創ること」。アクセサリーやバッグ、インテリア雑貨や服、陶芸や絵、音楽など、そこにはさまざまなものが入ります。まずは、クリエイターが作り出したものを、自らの手で広められる世界を作りたい。そのために生まれたのが、ハンドメイドマーケットプレイスの「Creema」です。わかりやすいようにハンドメイドという言葉を使っていますが、「ハンドメイドを広めたい」というよりも、「新しいものを生み出す人=クリエイターを応援したい」というのが自分の気持ちに近いですね。
作品ではなく、「人」が中心なんですね。クリエイターが作品をアピールできる場所を作ろうと思ったのは、どうしてですか?
僕が学生時代に感じた音楽業界の壁が大きく関わっています。大学在学中にプロとして音楽活動をする中で、ありがたいことにさまざまな仕事をいただきましたが、「自分の理想」と「求められるもの」のズレがどんどん大きくなって……。自分が何者なのかわからなくなってしまい、悩み続ける日々でした。
当時は、自らの手で発信する場が少なかったんですよね。たくさんの人に知ってもらうためには、レーベルなり大きなイベントにプッシュしてもらうくらいしか方法がなかった。
確かに……。今でこそYouTubeやニコニコ動画、InstagramやTikTokなど多様な発信ツールがありますが、大手の会社を通さないとPRが難しい時代もありましたよね。
そうなんですよ。才能があっても、全然仕事がない人がいる。一方で、才能や努力を感じられない人が、特定の人や組織からプッシュされてオーバーグラウンドな存在になることもある。そんな環境に、強い違和感を持っていました。
「作品」と「作品を届けたい相手」との間に、「権利や権力が絡んだ第三者」を入れたくなかった?
その気持ちは強かったですね。特定の人や組織の感性、好き嫌い、メリット/デメリットで判断する仕組みだけだと、出るべき才能を埋もれさせることにもつながる。生活者の感性はそんなに単純じゃないし、一律じゃない。誰が悪いわけではなく、これは構造上の問題だと思っていました。何かが足りないと。その構造を変えたかった。
ただ、すぐに起業を考えたわけではありませんでした。起業を決意したのは、ある経営者との会話がきっかけです。
「創作者のための新しい場所」を作る
「すぐに起業は考えなかった」のは、どうしてですか?
自分自身に悩みながらも、当時は音楽業界でのし上がって、才能がある人を押し出す側に行こうと考えていたんです。自らが名前の知れたプロデューサーになることができれば、埋もれてしまっている才能ある人を支えるポジションにいけるんじゃないかと。
しかし、そこで転機が訪れました。大学在学中に主催した大型イベント。それをスポンサードいただいた大物経営者の方と出会えたことです。
僕は「将来は音楽で食べていこうと思っている」と話しました。「それは面白いね」とおっしゃったのですが、帰り際に、「”たくさんの人をハッピーにしたい”が叶えたい夢なら、君なら経営者か政治家のほうが向いていると思うよ」という言葉をいただいて。
その言葉が、ずっと頭の中から離れなかったんです。
経営者か、政治家……。丸林さんの適性を、その方は見抜いていたんですね。
どうなんでしょう、そのときは「いやいや、恐れ多いです」としか言えなかったですね。ただ、家に帰ってもその言葉が頭の中をグルグル回っていて。1カ月ほど考えて、自分なりの結論を出しました。
自分が考えた事業を仲間と一緒に発信し、世の中のたくさんの方に届けることができれば、ひとりのプレーヤーとして音楽活動をするよりも、より多くのハッピーを届けられる。あの方は、そういうことが言いたかったんじゃないか? と。そう考えた瞬間に、自分の中で1本の軸がスッと通ったんです。そこからは、自然と決意できました。よし、経営者になろうと。
おぉ……! 目指す方向性が固まった瞬間ですね。そこから、どのように株式会社クリーマを立ち上げたんですか?
当時の僕は、「斬新なアイデア、面白いことを考える能力」は十分持っていると自負していました。ただ、「それを推進し、”結果を出す”能力」が圧倒的に足りない自覚があった。
だから、まずは成長できる会社で働き、自分に必要な能力を養うための修業期間に入りました。そこで4年間仕事に取り組み、営業マン、営業マネジャーや事業部長として一定の結果を出し、自信をつけた上で、2009年に自分の会社を立ち上げました。
最初は、絵と音楽のマーケットプレイスを考えていたんです。ただ、学生時代を振り返ると、服を作っている人や、陶芸をしている人、たくさんのクリエイターが周りにいて。そして、どの業界にも「能力があるのに認められていない人」がいました。
じゃあ、「創作活動に取り組む、すべての人を応援できるマーケットプレイスを作ろう」と。それが、今の「Creema」の始まりです。
たくさんのクリエイターと関わってきたからこそ、世間に能力が認められない方たちの悔しさがわかるのでしょうね。丸林さんの「熱意あるクリエイターを応援したい!」という気持ちが、すごく伝わってきます。
おっしゃるように、人を支えたい気持ちはとても強いです。
「Creema(クリーマ)」の名前にも、クリエイターに対しての気持ちが込められているんですよ。Creemaの語源は、「クリエイターズニューマーケット」。「創作者のための新しい場所」をイメージした言葉です。
クリエイターの創造性を開放したい。活動の手伝いがしたい。彼らの作品が正当に評価される場所を作り、維持していきたい。
たくさんのクリエイターの皆さんに使ってもらって、新しい世界を作ることができたら、巡り巡って自分たちの所にハッピーが返ってくるものだと思って事業を運営しています。
自分に合った戦略を選んで使う
自分の作品をなかなか広められないクリエイターもいるかと思います。クリーマではマーケットプレイスの運用の他、セミナーやクラウドファンディングも提供しているとお聞きしました。「作品を広めるために、特にこれを知ってほしい!」というものがあれば、教えてください。
クリーマでは、クリエイターの用途に合ったサービスを複数提供しています。いろいろ試していただいて、自分に合った方法を活用してほしいですね。
例えば、「市場のトレンドがわからない」「お客さまが求める作品と、自分の作るものにズレを感じる」などの悩みがある場合は、過去に実施したセミナーがお役に立つかもしれません。こちらは自分の好きなタイミングで動画を見ていただくセミナーなので、時間や場所にとらわれず視聴ができます。
ほかにも「作品を魅力的に見せる写真の撮り方」「作品に添える文章の書き方」を解説したこともあります。抱えている悩みと一致するものがあれば、ぜひご覧いただきたいです。
写真や紹介文は、作品の魅力を伝えるために重要ですもんね……! クラウドファンディングは、どのような用途で利用している方が多いですか?
クラウドファンディングは、自分の思いを現実にするためにご活用いただいています。
「新しいブランドを作りたい」「海外で個展をやりたい」「みんなでアトリエを作りたい」など、ゴールは人によってさまざまですね。
「Creema」で作品をアピールしたい方には、作品プロモーション機能がおすすめです。マーケットプレイス内で自らの作品をPRできるクリック課金型の広告サービスで、1日の予算上限を決めておけば、上限を超えない範囲でシステムが作品をアピールしてくれます。
プロモーション機能を利用して、作品の認知度を高めれば、その後の販売もやりやすくなるのではないかと思います。
悩みに合わせて利用するサービスを選べるのは便利ですね。
インターネットを利用しての販売だけでなく、活動の幅をさらに広げたい方であったり、お客様の生の声やフィードバックに触れたい方には、イベントの参加もおすすめです。
「ハンドメイドインジャパンフェス(東京ビッグサイト)」(https://hmj-fes.jp/)や、「クリーマクラフトパーティ(インテックス大阪)」(https://craftparty.jp/)など、お客さまと直接会話ができるイベントを以前は年に10回以上実施していました。コロナ禍の影響で、イベント開催はなかなか難しくなっていますが……。2021年9月には、1年半ぶりとなる大規模なクラフトイベントを名古屋で予定しています!
リアルイベント、いいですね! お客さまと話すことで、活力もわいてくるでしょうし!
本当にそうですよね。直接お客さまと関われば、創作の熱意もより高まると思います。お客さまに直接お会いできると、やっぱり、うれしいんですよ。今後世界がどうなるかは、まぁ、わからないですが……。やはり願いとしては、リアルイベントをやりたいなあと。
ものづくりが好きで、続けている。それが才能
最後に、「ものづくりが好きだったけど、誰にも見つけてもらえなくて苦しい」「売れている人と比べて、自分は才能がないのかと思ってしまう」と悩む方に、丸林さんからぜひメッセージをいただきたいです。
まずお伝えしたいのは、「ものづくりが好き」の気持ち自体に、価値があるということ。作るという行為は、ゼロからイチを生み出す極めてクリエイティブな作業です。ものすごくパワーのかかるもの。時間もお金もかかるし、悩むし、大変だし。だけどものづくりが好きで、続けている。もう、それがひとつの才能なんですよ。
確かに自分の好きなものを見つけているだけで、すごいです。「自分の好きなものがわからない」と悩む方もいますもんね。
ただ「続けていれば絶対に食べていけるようになるから、安心して」とは、僕は言えません。そんな言葉は無責任だし、むしろ食べていけないケースのほうが多いかもしれない。
だから、「ものづくりが好き」と「ものづくりが苦しい」の気持ちを比べて、苦しいが本当に勝つなら、僕はものづくりをやめていいと思うんです。やめても、またやりたいと思ったタイミングで始めればいいし、自分のペースで完全な趣味として続ければいいと思う。
だけど、「ものづくりを通して自己表現したい。勝負したい」という気持ちがあるうちは、自らの感性を注入して作品を作って、発信を続ける。どれくらいの人に評価してもらえるかはわからないけど、世界のどこかには、自分の作品を好きな人がいるはずだから。
「世界のどこかには、自分の作品を好きな人がいる」。その言葉は、不安を抱えている方の支えになりそうです。
人間だって、同じですよね。生活している環境に、自分を好きだと言ってくれる人がいなくても、遠くの土地に行けば、好きだと言ってもらえるかもしれない。生活する国を変えたら、気が合う人が見つかるかもしれない。
作品もそうです。好きの基準は人によって違うから、作品で食べていけるくらい、たくさんの人に好きと言ってもらえるかはわからない。だけど、自らの感性や情熱を注入した本気の作品を作り続けて、知ってもらう機会を増やすことができれば、日本のどこかに、世界のどこかに、あなたの作品を愛してくれる人がきっといるはず。
創作欲が消えていないなら、熱意を込めて作品を作り続ける。それが、なにより大切だと思いますよ。
取材日:2021年4月19日 ライター:くまのなな