アーティスト、クリエイターによる3.11復興支援アクション ~ACT FOR JAPANというプラットフォーム~
- Vol.73
- 株式会社博報堂第一クリエイティブ局 太陽企画株式会社プランニングディレクション本部 Booklayer<ブックコミュニケーション・プロデューサー> 近藤ヒデノリさん、古屋遙さん、浜田宏司さん
トップページの活動趣旨と活動概要を読むと、3月15日に立ち上がり、4月16日にはチャリティーオークションも敢行済み。その後、継続的支援につなげていくとの意思表示もされていた。別ウィンドウに表示されたメンバーリストには、文字通りそうそうたる顔ぶれが示されていたのであった。
さっそくコンタクトを取ってみた。代表を務める近藤ヒデノリさん(博報堂)、メンバーの浜田宏司さん(Booklayer)、古屋遙さん(太陽企画)がインタビューに応じてくださった。
ツイッターを駆使して、
たった数日で集まった22人のメンバー。
まず、22人のメンバーの顔ぶれに驚き、そしてそのメンバーが震災後ほんの1週間で集まり、ACT FOR JAPANを立ち上げたというスピードの速さに驚かされた。そのプロセスにおいてはなんといっても、ソーシャルメディアの存在が大きかったという。彼らは、リアルタイムに発信し、フォローし、コミュニケーションする文明の利器をフルに生かして集まった有志たちなのであった。
ツイッターなくして、この動きはなかった?
近藤)そう思いますね。集まったメンバーの多くはツイッターをフォローし合う仲で、面識はあったり、飲んだことはあっても、それほど知ってるわけではない。仕事をご一緒したこともない。そんなゆるめの関係性の人たちがA4J (ACT FOR JAPAN)の趣旨に賛同し、集まれたのは、ツイッターのおかげと思います。
浜田)インタビューの待ち時間の雑談で初めて知ったのだけど、実は、古屋さんから近藤さんに個人的なプッシュはあったみたいじゃないですか。
近藤)ありましたね。ツイッターのDMで、「アートと広告の力で被災者のために何かできませんか?」とアジテートされて、「そうだ!」と火がつきました(笑)。あれがなかったら、ここまで速い動きにはならなかったかもしれませんね。
古屋)はい。アジりました(笑)。いてもたってもいられなくて。でも突っ走ってはいけない。どうしよう、近藤さんに相談しよう。という感じでした。
近藤)以降、古屋さんにはこの活動の「思い」担当をしてもらっています(笑)。
古屋)他のメンバーにくらべればキャリアも年齢も追いつかない私ですから、それくらいしかできないですし。
浜田)それで、いいじゃない。「思い」は、こういう活動にはなくてはならないものだから、ぜひそこを支えて行ってほしい。
では、設立の準備などはすべてツイッターで?
近藤)いえ、ベースになる考え方や方針などは、その分野の専門の方々とメールでやりとりしながら固め、それをツイッターに乗せていくようにしました。復興支援活動ということ自体初めてでしたし、毀誉褒貶(きよほうへん)もあると思ったので、いきなりすべてをオープンにして進めるのはリスクが高いと思いました。
浜田)僕たちを含めて多くの人が、「いてもたってもられない」と感じたはずだけど、あまりに直裁的では受け入れ準備の整わない被災地に行って迷惑をかけることになるし、チャリティーの呼びかけもあまりうかつだと売名と非難されかねませんからね。近藤さんの冷静な段取りは、とてもよかったと思います。
アーティストの「これから作る作品」の制作権を購入する
「3.11復興支援1未来オークション」
速いのは集結だけでなく、行動もであった。4月1日にはキックオフのチャリティーパーティ、4月3日にはチャリティーイベント、そして4月16~17日にはメンバーのアイデアをフルに投入した復興支援の2ndアクションである「3.11復興支援|未来オークション」の開催にこぎつける。アートへのアプローチとしていたって斬新であり、注目すべきイベントは、一晩で約89万円の義援金を集めることに成功した。
「3.11復興支援|未来オークション」について、解説を。
近藤)未来オークションとは、3.11を経たアーティストの未来に向けての「これから作る作品」の制作権を購入するイベントです。オークションで落札された方は、後日、作家(今回は、写真家)から作品を受け取ることになりますが、アーティストによるテーマをもとに実際に何を撮るか、どう撮るかといった具体的な内容は2者間での対話で決めてもらうことになります。
古屋)例えば、「落札者の大切な人のポートレート」を撮影してもらう等、震災を経て見直されている「命の大切さ」や「人とのつながり」を作品という形で未来に残すことで、震災を忘れないものにしたいという思いがあります。
浜田)今、その撮影が徐々に始まっていて、僕もある撮影に立ち会ったのだけど、いい作品があがりそうですよ。この企画のすばらしさをじわじわ感じているところ。
近藤)初めての試みだったので実は不安もあったのですが、企画に賛同してくれる写真家が次々に手を挙げてくれて嬉しかったですし、当日のオークションも想像以上の盛況で興奮しました。結局、一晩で義援金にまわせるお金は約89万円も集まって、作家の方々も参加くださった方も喜んでくれて、ほんとうによかったです。
古屋)ものを創る人とそれを楽しむ人の協働で新しい作品が生まれ、結果、義援金が寄付されていくシステムは良いなと思っています。メンバー間でも「3.11復興支援|未来オークション」を通年イベントにすることや、写真家以外のジャンルの方に参加していただくことなど、次の企画についてかなり具体的になっているのも嬉しいです。
浜田)アートを購入した経験のない人がたくさん参加してくれていたのには驚きました。
近藤)実は僕は、純粋にアートのあり方のひとつとしても面白いと思っています。永らく、天才のように限られた個人が創るものだったアートが、アーティストと一般の方の協働によって生まれる。それはアーティストにとっても新しい発見をもたらすでしょうし、参加する人にとっても貴重な人生の体験となると思います。作品テーマを含めて、生きるということに直結した体験。そういうものに、これからのアートのあり方として可能性を感じています。
浜田)アートは、思った以上に社会に組み込まれている。そんな感慨を持ちました。
近藤)先日メンバーの岩渕さん(岩渕潤子/慶応義塾大学教授)が「体験の共有としてのアート」とおっしゃっていたのですが、今後、つづけていくなかで、こうしたアートの意味も考えていければと思っています。
浜田)同感ですね。そしてまた、アートによる復興支援も、義援金づくりからもっと具体的なアクティビティへと発展することを期待されているし、僕は期待している。直接的に被災地に出向く、被災地でアートを通してメッセージする。そして、継続的な支援を確立する。サイトのトップにもアクションプランとして示してあるアクティビティのステップを、着実に進めていきたいですね。
継続的な被災地、そして日本の復興をめざして。
東日本大震災は、日本社会を大きく変えるターニングポイントになる。今、誰もがその予感を共有しているのだと思う。経済、政治のあり方、エネルギーと環境問題への関心、文明そのものへの反省と未来展望――変わる、変える、変える必要に迫られている。 ACT FOR JAPANのみなさんも、活動を通して、個人的な感慨をそれぞれに膨らませているようだった。
ここまでの活動を振り返っての感想を。
浜田)僕は時折、A4Jに参加していなかった自分の姿を思い浮かべます。そして、そのたび確信します。やってよかったと。僕に限らず、メンバーは誰しも、かなり本能的に、直感的に考え、行動したと思う。先に何があるかはわからないけど、やってみる。時にはそういうことも必要なのだとつくづく思います。
近藤)ツイッターなどのおかげで多くの人と、垣根を越えてどんどんつながり、動き始めることができた。そして、メンバーの職能を生かして「ユニークでクリエイティブな復興支援をしよう」とまとまった。ソーシャルメディアを通じて猛烈な勢いで智恵を共有し、新しいチームづくりとか、働き方まで体感できた経験でもありました。
浜田)「とにかく何かのアクションをしなければ」という危機感のようなものが共有されていたのは、強く感じますね。
古屋)私の目には、よくぞこんなにすごいメンバーが集まったものだという感慨、そして集まった方々がみごとなくらい得意分野を違えていて、しかもそれぞれの分野の実力者。そういう方々が、垣根を越えてつながっている姿に感動します。
近藤)ブレーンや代表取締役クラスばかり集まっている感じですね(笑)。発起人ということで僕が一応代表になってはいますが、いろんな人に頼りっぱなしなのが実態です。
浜田)それでいいんだよ。代表にいろんなことが集中したら、本業が破綻しますよ。
近藤)お互い、そうなったら元も子もないですよね(笑)。僕は今回の3.11は自分の人生にとっても、社会にとっても非常に大きな意味を持つものだと感じています。それは痛ましい出来事というだけではなく、これまで少しずつ見え始めていた良い変化の兆しが、これを期に一気に加速していく予感でもあります。そんななかで被災地、そして日本の復興のために、少しでも、僕らにできることをつづけていきたいと思っています。今後のA4Jの展開にも期待してください!
取材/2011年5月10日