美術館の教育普及活動って何でしょう?意外に知られていない、ワークショップの充実
- Vol.63
- 国立新美術館 教育普及室長 研究補佐員 西野華子さん、鳥居茜さん
美術の教育普及とはつまり
美術に親しんでもらう機会を設けて
ひとりでも多くの美術ファンを育てること
美術館は美術を鑑賞するところで、絵を描く体験をするワークショップなどは馴染まないように思うのですが。
【西野さんのお話】
講演会やワークショップの開催は、美術の教育普及活動として広く必要性が認められていることです。調べてみれば、多くの美術館がさまざまなイベントを教育普及活動として展開しているとわかるはずですよ。
美術の教育普及とはつまり、美術に親しんでもらう機会を設けて、ひとりでも多くの美術ファンを育てたいという意志とも言えます。歴史的な名作に文化的な意味や意義を探ったり、現代アートの深いメッセージを読み取ったりすることも美術の楽しみですが、それ以外にもいろんな楽しみ方がある。学校とは異なる美術館という場を意識しながら、私たちにしかできない方法で、人々に美術の楽しさや奥深さを伝えたいと考えているのです。
海外の主な美術館では
展覧会と同様に教育普及活動を重視して
専任担当者を置いて活動しているのは普通のことです
教育普及活動は、日本の美術館だけが取り組んでいることですか?
【西野さんのお話】
海外の主な美術館では、展覧会と同様に教育普及活動を重視して、美術館教育の専門家である専任担当者を置いて活動しているのは普通のことです。そういう意味で、日本の美術館の教育普及活動は少々遅れ気味なのが実情です。
日本の美術館の教育普及活動は、予算もスタッフもかなり限られた中で行われています。
私も、展覧会を担当する学芸員と兼任して、教育普及を担当しています。
ワークショップは、老若男女誰でも参加できる体験の場
作品に点数を付けることはしませんし
完成度にこだわることもありません
美術館が教育普及活動の一環として開催するワークショップとは、どんなもの?
【西野さんのお話】
私は学芸員として展覧会にもたずさわっていますが、実は、展覧会そのものにも教育普及の側面があります。集めた作品をどう見せるかの局面で、どんな展示方法やパネルで情報発信するか、どんな音声ガイドを用意するかなども立派な教育普及。私はそう考えています。
ただ、来館者との関係がもっとも直接的で、展覧会からもっとも遠くにある活動と言えば、ワークショップでしょうね。
国立新美術館のワークショップは、不定期ですが年に6~7回、開催しています。講師としてアーチストを招き、長いもので朝から夕方までというものもありましたが、基本的に3~4時間、時にはトークで、時には一緒に作品づくりをして、20~30人の参加者に楽しい時間を過ごしてもらうことを目的としています。
大切なのは、話を聴いて刺激を受けたり、手を動かして作品づくりに打ち込んだり、という時間を楽しみ、体験を持って返ってもらうこと。ですから、作品に点数を付けることはしませんし、完成にこだわることもありません。
<ワークショップリポート>
『光 松本陽子/野口里佳』展 アーティスト・ワークショップ
「チャレンジ!抽象画~向き合う心、あふれ出る色~」
講師:松本陽子 氏
開催日時:2009年9月12日(土)
<解説/鳥居茜さん>
これは、ワークショップの冒頭、参加者の皆さんと講師の松本さんが展覧会場へ出発する場面です。
展示室では、作品を前に松本さんから、制作方法や作品にこめた思いをうかがいました。 その後、別館の部屋に移動し、抽象画の歴史についてのレクチャーがあり、いよいよ制作開始です。
制作に入る前に松本さんから「恥ずかしいとか考えず、思い切って描いてください」とエールがありましたが、始まってみると皆さん思い思いに色を選び、画材を選び、さまざまな技法にチャレンジしていらっしゃいました。松本さんからのアドバイスも、次第に熱が入っていきました。
松本さんも驚くほどの、素晴らしい作品がたくさん誕生。 ワークショップでは、講師のアーチストの方も、参加者から刺激を受けてとても貴重な体験になるそうです。 参加者、アーチスト、そして主催の私たちにとっても、とても充実した1日になりました。
どうです、こんな楽しい体験が画材費程度の参加費(通常500円前後ですが、内容によって金額が変わります)でできる。 ちょっと見逃せないと感じたあなた、美術館のHPでワークショップ開催状況を要チェックですよ。