電子出版の昨日、今日、明日。――実は、1980年代から進んでいる電子出版の進化
- Vol.62
- 日本電子出版協会 事務局長 三瓶徹さん
どれくらい便利になるのか、どれくらい気軽になるのか、どれくらいこれまでと違うのか、同じなのか――期待と、ちょっとばかりの不安を胸にいだいているといったところではないだろうか。
電子出版は今後、どんな未来を私たちに見せてくれるのだろう。そんな疑問を日本電子出版協会(JEPA)にぶつけてみたところ、事務局長の三瓶徹さんが丁寧に答えてくださいました。
日本電子出版協会 公式HP http://www.jepa.or.jp/
辞書や専門書の世界では
すでに電子出版は当たり前のことになっている
日本電子出版協会(JEPA)は、1985年に、関係する出版社が集い設立された。そう、すでに25年の歴史を持っているのである。インターネットもない時代に、電子出版? 現代を生きる私たちはついそう思ってしまうが、「電子出版」なる概念はCD-ROMの登場とともにかなり早くから誕生していた。
【三瓶さんのお話】
今、皆さんが注目している文芸系の書籍の電子化は、たしかにここ数年のとても新しい動きです。しかし、専門書の世界では、CD-ROMの登場によって1980~90年代に一気に電子化が進みました。とにかく最新の論文や論説を、なるべく早く、大量に読む必要のある世界では出版物の電子化は必要不可欠のことでしたから。
電子辞書や専門出版はCD-ROMの時代から成功を収め、確固たるニーズを維持しています一説に電子辞書は500億円市場と言われます。
電子出版と聞いて、私たちが思い浮かべるのは、たぶん文芸系の電子書籍。専門書と言われても、馴染みがなくイメージがわきづらい。具体的にはどんなものなのだろう。
【三瓶さんのお話】
たとえば医学、薬学、法律など、論文や判例を常にチェックしておく必要のある分野です。特に欧米では、早くから専門書は電子化の必要性が認められ、多くの出版社が電子出版に力を入れていきました。
携帯配信では、マンガや小説がヒットを記録し
市場を膨らませている
実は、日本には、電子書籍のヒットカテゴリーがすでに存在するとのこと。
【三瓶さんのお話】
携帯配信の小説やマンガは、すでにある程度の市場規模に育っています。たとえば、業界関係者であれば、誰もが知ることですが、すでにかなりのヒットジャンルになっているのが女性向けのマンガです。いわゆる「エロマンガ」ですね。携帯向け配信が、すでに500億円市場になっています。読みたいものがあれば、ヒットする。とてもシンプルな構図ですね。
ジャンルや媒体の境界が曖昧になるからこそ
試されるつくり手の力量
結局のところ、電子出版での成功には何が必要なのだろう。
【三瓶さんのお話】
iPadなどを見てみると、さまざまなアプリケーションを使って書籍の見せ方にいろいろな変化がつけられます。ですから、紙の書籍を単純に移植しただけでは、「なんだ、めくるだけか」と冷たい反応を得るだけかもしれません。テキストからのリンクでゲームのような演出があったり、E-コマースに飛べたりといった演出がヒットの鍵になるかもしれませんね。
ネガティブな言い方をすれば、手をかければかけるほど、書籍なのか雑誌なのか新聞なのか、はたまたゲームかショッピングサイトなのか、境界はとても曖昧になります。だからこそ、つくり手、送り手の企画力や制作力が試されることになるでしょうね。
日本での、電子書籍のヒットの可能性は?
【三瓶さんのお話】
日本が世界に誇るエンタテインメント・コンテンツである、マンガが有望株と思います。マンガを電子化すれば、海外への配信もすぐに軌道に乗るでしょう。市場を海外に求めれば、かなり大きな成功も見込めるでしょうね。
出版社の機能は、ファイナンスや調整に偏りすぎた
だから、編集プロダクションが存在感を増すだろう
電子出版には、社会的意義もある。特に、目の不自由な人に、出版物を音声化して提供するサービスは加速度的に進むと期待されている。
【三瓶さんのお話】
私たちはそれを「Text to Speech」と呼んでいます。テキストが電子化されれば、音声合成のシステムにかけさえすればすぐに音声化できます。音声化に際しての著作権の問題さえクリアできれば、すぐに普及するでしょう。目の不自由な方々にとっては、とても嬉しい時代がやってくると言えます。
三瓶さんは、電子出版の普及によって出版業界に起こるであろう現象をいくつか予測している。特に興味深いのが、編集プロダクションの存在感の増大である。
【三瓶さんのお話】
現状、大手出版社の社員は、ほとんど編集作業をしなくなっています。編集現場の具体的な作業は外注に出し、社員は日程管理、予算管理、取り次ぎ業者との調整などを重要な仕事としてかかえている。
電子出版に、取り次ぎはいりません、返品の心配もありません、つまり今出版社の社員やっていることの多くが不要な業務になるのです。そんな時、あらためて注目を浴びるのが、今は外注として下請けの存在となっている編集作業の技量、クオリティと思うのです。
事実、大手編集プロダクションの間には、そのような予測が共有されるようになりつつあり、当協会会員となって業界の行く末を見守ろうという会社が徐々に増えています。