今、OOH広告がおもしろい

vol.45
株式会社OOHメディア・ソリューション 取締役営業統括部長 萱原純さん
OOHとは、Out of Home Mediaの略。非マスメディアである「交通広告」「屋外広告」「折り込み広告」の総称と考えていい。そのOOH業界が、この数年着実に業績を伸ばし、静かに注目されている。 着実に業績をのばし――とはつまり、広告主が効果を認めて出稿を増やしているということ。テレビや新聞、雑誌等の既存のマスメディアは、特にインターネット広告に押されて存在感が薄くなっていると言われているが、その動きは実は、OOHの隆盛も大きな要因となっているのである。 今回、取材させていただいたのは、株式会社電通(以下、電通)がOOH系専門会社5社との共同出資で設立した屋外広告のメディアレップ(広告枠販売専門会社)である「株式会社OOHメディア・ソリューション」の取締役営業統括部長/萱原純さん。 2008年9月に設立されたばかり同社は、電通がOOHをきわめて重要な戦略ツールと考えていることを示す戦略会社。その中枢を担う萱原さんからは、興味深いお話がたくさんお聞きできました。

OOHはクリエイティブで伸びている

今回の取材で、もっとも興味をひかれたのがこれ。実は今、OOHの世界では、特に屋外広告(ビルボードと呼ばれる看板や、ビル壁面を使った広告)を中心に、ほぼ専門家と言えるクリエイターが活躍し始めているのだそうだ。彼らが考える、OOHから着想した企画、提案が多くのスポンサーさんから評価されている。 これまでOOH広告は、どちらかと言えば「付け足し」の側面が強く、出稿される広告も、雑誌掲載広告のリサイズなどが主だった。ところが、ある日、「OOHは、街の景観そのものを企画し、提案する仕事。これは、かなりおもしろい」と気づいた広告クリエイターが、いろいろとでっかいアイデアを出すようになった。すでに、「まず、OOHの仕掛けからつくったキャンペーン」なんていう事例も生まれているのだそうだ。

【萱原さんのお話】 この動きは、電通においても顕著で、OOH局がクリエイティブ局との協業を働きかけた結果、専門のチームも編成されています。そこから、「街の景観も含めた提案」や「OOHでなければできないキャンペーン企画」などが数多く輩出されています。 たとえば、自動車をビル壁面に吊すなんていうアイデアも実際に世に出ています。インパクト大きいですよね。もちろんこういうすごいアイデアは、「では、それは本当にできるのか」が問題です。法律の規制に即した中でいかに実現させるか――フィジビリティに関する調査や交渉を、私たちがバックアップするわけですが、もちろん、コラボレーションとしてきわめてやりがいのある仕事です。 屋外広告のユニークな企画は、明らかに欧米が先を行っていますが、今、日本のクリエイティブはすごい勢いで追いつきつつあると言えます。


<実例:1> 「トヨタ自動車――銀座ソニービル/ソニースクウェア(壁面)」の実例

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ソニービルの壁面をヨーロッパの町並みに見立て、FRP製の自動車を貼り付けた広告! 更に壁面にはパフォーマーが出現し、屋上から宙づりになってパフォーマンスを繰り広げました。パフォーマーの安全確保は勿論の事、貼り付ける自動車の強度計算等、PRを意識しながら、プロの仕事として必要な安全面の検討も十分に確認しました。 お披露目日には報道陣や通行人、観光客からも驚きの声があがりました。


<実例:2> 「オリンパス―【オプトコスミックウェーブ】 新宿南口 JR新宿総合ビルネオン広告塔」の実例

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これは、ネオン広告としてはかなり凝った作品です。どこが凝っているかと言えば、ネオンが表現するグラフィカルな点滅展開。国際的な版画家であり、グラフィックデザイナーである遠藤 享(すすむ)氏が創作したクリエイティブで、表現される光のデザインパターンは無限に生み出され、一度使用された光のデザインが全く同じ映像で再び映し出されるまでには、約15,000年もの年数が必要とされます。

2007年統計では、OOHは1兆円産業

毎年、電通が集計し、発表している「日本の広告費」によれば、2007年度の広告費総計は約7兆円。うち、プロモーションと呼ばれる非マスメディア広告は2兆円。さらにOOH広告はそのうち1兆円超を占め、おおまかな内訳としては交通広告が約2500億円、屋外広告が約4000億円、折り込み広告が約4000億円となっている。

【萱原さんのお話】 明らかに指摘できるのは、いわゆる「マス離れ」です。厳密には、「マスメディア一本槍の見直し」とでも言うべきしょうか。スポンサーさんは、テレビや新聞、雑誌がメディアのすべてではないという認識を日々強めている。キャンペーン展開においても、インターネット連動を考えるのは当たり前になっているし、OOHをからめることの有効性も十分に認識されています。 電通においても同様の認識を、特にこの5年ほどはかなり強め、積極的な取り組みも進めています。社内で勉強会をするのは当然ですが、スポンサーさんの啓蒙を目的としたワークショップなどもさかんに開催されています。

AE制とソリューション提供という2つの潮流

OOHの隆盛を引き出したキーワードとしてあげられるのが、AE制とソリューション。AE制とは、スポンサーが広告会社(広告代理店)を選定し、選定会社に一括して広告予算を任せる手法。特に外資系企業がAE制をベースに広告展開することが多く、この場合、メディアの選定もすべて広告会社に任されるかわりに、効果への要求もきわめて厳しい。「媒体を売って終わり」などという営業方針は、通用しないのである。 そして、そこから生まれたのが、広告会社が「ソリューション(問題解決)」を提供するというサービス形態の変化だ。

【萱原さんのお話】 当社の社名に「ソリューション」が入っているのもその現れですが、広告代理店の営業はメディアの販売から総合的なメディア戦略によるソリューション(問題解決)の提供にシフトしています。マスを押さえ、余った予算でインターネットやOOHをというような提案では、お客様を満足させることはできなくなっているのです。 実はそのような潮流の認識が遅れぎみなのが電通の営業マン(笑)。マスメディアの扱いで日本最大手の歴史がありますから、「テレビスポットを売ってなんぼの商売」が身に染みついてしまっているのも仕方のないことです。 当社はメディアレップとして、電通以外の広告会社さんもクライアントに想定した会社ですが、電通の社内営業を通してOOHへの認識を深める使命も担っているのです。

「話題になる」の波及効果

単純に考えれば、テレビCMは一瞬で100万人単位の視聴者のもとに情報を届けるが、街の看板は渋谷のハチ公前であっても1日に20数万人の目に触れるのがせいぜい。 そんな絶対的な到達威力の違いがありながら、なぜOOHが存在感を増しているかと言えば、「話題になる」の波及効果。 渋谷を占拠するような看板展開をして、30数万人の目に触れる。それ自体は30数万人の効果しか生まないが、そんな話題は、今度は報道機関としてのマスメディアが放っておかない。いわゆる、パブリシティ効果ですね。その波及効果を重視するスポンサーが増えているのだそうです。

【萱原さんのお話】 業界用語で「パブネタ」と呼ばれますが、話題を提供し、マスメディアにとりあげられることの波及効果はきわめて大きいと認識されています。ですから、主力商品の新発売キャンペーンなどは、「パブねた」の創出で話題性を盛り上げてのちにマスメディア展開をするという仕組みを持つケースがとても増えています。OOH専門のクリエイターがたてた「度肝を抜くような」企画も、「パブネタ」になる可能性があるから採用されるとも言えるのです。

効果測定の基準づくりが今後の課題

<取材協力者> 萱原純さん 株式会社OOHメディア・ソリューション 取締役営業統括部長

<取材協力者>
萱原純さん
株式会社OOHメディア・ソリューション
取締役営業統括部長

そんな追い風満帆のOOHだが、真剣に取り組むべき課題も多いと率直に認める萱原さん。特に喫緊の課題は、テレビの視聴率に相当する効果測定の基準が未整備であることだそうだ。 効果があるからスポンサーから支持されているのは事実だが、現状は、「効果があった」という経験則、成功事例を裏付けに動いているのが実態。1兆円産業に育った業界をさらに、健全に成長させるには効果測定の基準づくりは絶対に必要だと指摘する。

【萱原さんのお話】 広告業界にはCPM(costper mil/広告ターゲット1000人あたりの広告到達に要する広告費)という指標があり、CPM1000円がひとつの基準になっています。今、この数値を単純に比較すれば、OOHはテレビにまったくかなわない。ですが、過去に効果が認められる事例があることを根拠に、OOHはここまで伸びてきました。 ここから先、独自に、健全に業界を伸ばすにはCPMやGRP(延べ視聴率)にかわる指標で、あるいは納得できるロジックで広告効果を導き出し、OOH広告の到達度を示せるようになることは絶対に必要です。 たとえば、デートのためにでかけた人が待ち合わせの場で目にした看板広告は、心のありようにおいてお茶の間でテレビを見ている時とはまったく違うはず。いわば、「ハレとケ」のハレの状態なはずです。それを数値化するロジックがないため、現状は交通量や通行量でしか数値を出せない。駅の乗降客数や歩行者数のカウント等、現存する測定法を組み合わせて到達率“らしき”数値を出してはいますが、むしろ、「OOHに効果なし」とも言える結果になってしまうこともしばしばなのです。 この点においても欧米の方が先を行っており、専門会社が独自の指標を加点することによって看板広告の到達率を示せるようなことも可能になっています。日本においても、業界が総出で効果測定の基準づくりに取り組むべきと考えています。

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